第25話 初戦

 球場に球児たちの声が響く。

 高校野球選手権大阪大会、一回戦。


「プレイボール!」


 太陽がジリジリと球場全体を照りつける中――はなえはスタンドから、ベンチレギュラーに入れなかった部員とマネージャーとともに、三年、二年生の雄姿を応援している。


 一回表、一人目はピッチャーゴロ。二人目はライトフライ。


「キャプテーン!」


 スタンド最前列に並ぶ部員たちが叫ぶのを、はなえは上の段からそれを見る。

 中でも誠人の声はよく通る。


「はなちゃん、次、部長やで」


 隣に座る杏奈が耳打ちしたきたので、パッと視線を動かすと、渡瀬がバットを持って小走りにバッターボックスに向かっていた。


 一回表、ツーアウト。三番ショート主将渡瀬。

 野球素人のはなえでも、次のアウトで交代なのは知っていた。


 バシンッ。


 小気味のよい音を立てて、白球がキャッチャーミットに収まる。


 キィンッ。


 金属バットが打ち返した速球は、青空に映えながら、大きな放物線を描く。


 ポーン。


 軽い音とともに外野席で跳ねたボールは、灰色のスタンドでもよく見えた。


「ナイスバッティーン!!!」


 部員たちが一気に沸く。杏奈が拍手しながら、はなえに言う。

「はなちゃん、見た!?」

「うん」

「部長すごいな! ホームランやで!」


 渡瀬は笑顔でダイヤモンドを一周する。はなえは初めて渡瀬が走る姿を見た時の気持ちを思い出していた。あの時のように全力疾走ではないけれど――


「やっぱり……かっこいい」


 心臓がギュッとなった気がして左胸あたりを押さえる。


 渡瀬の先制ホームランには続かず、四番はあえなく三振。一回が終わった。

 だが、その後勢いにのったチームは、一回裏に一点返されて同点となったものの。二回に二点、三回になんと十三点と順調に点を重ねていき――五回の時点では大差がついていた。


 こうして、五回コールドで初戦は勝利となった。


 試合が終わり、スタンドの荷物を片付けながら杏奈に話しかける。


「野球って絶対九回までってわけじゃないんだね」

「ほんまやね。知らんかったわぁ」


 ちゃんと野球の試合を観たのも初めてなら、五回コールドという、試合が九回までないことを知ったのも初めてだった。守備や攻撃などもまだよく分かっていないが、はなえは、なんだか興奮してしまっていた。


「もっと野球のこと勉強しなきゃ」

「うんうん」


 はなえは真剣に呟いた。


「どの野球漫画がいいんだろう……」

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