第24話 内緒やで?

 部活終わり、はなえは上級生の教室で身支度をしていた。ジャージ下を脱ぎ、スカートのウエストをまわして微調整する。軽くチェックした後、先輩女子マネージャーたちに声を掛ける。


「お疲れ様でした」

「おつかれ~」


 今日の部活は、杏奈も誠人もいなくて、渡瀬部長に対して一方的に気まずい思いを抱えていたせいで、すごく疲れたような気がした。

「杏ちゃん、補習終わったかな……」

 はなえは校門に向かいながら、杏奈にメッセージを送ろうとスマホを取り出す。


「はしもっさん」


 声を掛けられて周囲を見回してみたが、誰もいない。すると上の方から再び声が聞こえる。はなえが見上げると、二階の窓から顔を出していたのは誠人だった。


「はしもっさん、今帰るん?」

「長谷川くん。補習終わったの?」

「うん。補習終わって、図書室で自習してた」

「杏ちゃんも?」

「片岡? 片岡はもう帰ったんちゃう?」

「そっか……じゃあ明日かなあ。ありがとう、勉強がんばって」

「いや、もう終わったし」

 誠人がグッと身体を乗り出す。危ない、とはなえは思わず手を広げる。

「もう俺帰るし、そこで待っててや。今行くし」


 返事をする前に誠人は吸い込まれるように図書室へ消えて行った。

「えー……」

 はなえは、仕方なく壁際に移動して、スマホのロックを解除する。もしかしたら杏奈がまだ近くにいるかもしれない。誠人と二人で帰るのは、杏奈に悪い気がするのでどこかで合流出来たらと思ったのだ。


「橋本さん」

 杏奈へのメッセージを打っている途中で声を掛けられる。渡り廊下の向こう側、野球部の部室の方から歩いてきたのは、渡瀬部長と三好マネージャーだった。

「お疲れさん、暗なる前に帰りやー」

「……お疲れ」

 はなえは、校内だからか適度な距離を保ちながら歩いていく二人を見送る。

「お疲れ様です……」


 ちゃんと気持ちすら伝えてない。そもそも憧れに毛の生えたような恋心。そう自分に言い訳をして、はなえは鼻の奥がツンとするのを感じた――


「お待たせー」


 やって来たのは今度こそ誠人だった。はなえの泣きそうな顔を見て誠人の笑顔が消える。


 ごめん。先帰ってて――そう言おうとした時、誠人の真っ直ぐな声が廊下に響く。


「俺、好きやねん」

「え?」


 何の話なのか、はなえは呆気に取られながらクラスメイトを見る。


「大阪ではな、食えたもんちゃうねんけど。親戚が東京におってな。知っとる? 深大寺そば」

「さあ……」

「たまに送ってくれんねん。そのが美味しくてな。食べ物で一番好きかもしれん」

「へえ」

「もんじゃも美味しいよな……あ、でも内緒やで? 大阪ここでそんなん言うてたら――」

 喉元を横に掻き切る真似をする誠人に、はなえは思わず大きな声を出す。

「まさか!」


「ほんまほんま。せやから、内緒やで?」


 ニカッと笑う誠人に、はなえもつられて笑った。

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