第21話 中間考査

 中間考査最終日、『あべのの人』改め徹也は机に突っ伏していた。


「もう無理や~徹夜ツライ……」

「寝たらあかん、寝たら死ぬぞ!」

「なんでやねん~」

「あかん。ツッコミのキレが悪すぎるで、ナベ」

「ええねん……もう、俺、中間終わったら今日はずっと寝ずにゲームすんねん」


ひと狩り行くねん……と虚ろに言う徹也に、はなえが言う。


「……寝てないのに、寝ずにゲームするの?」

 はなえの言葉に誠人が頷く。

「はしもっさん。男にはやらなあかん時があんねん」

「いや、寝ようよ」

「ええで、はしもっさん。ええ、ツッコミやで」

「フツーのこと言っただけだよ。ねえ、杏ちゃん」


「ぶつぶつぶつぶつ……」


「杏ちゃん?」

「ぶつぶつ……」

 教科書を開いてなにかを必死に暗記しようとしているらしい杏奈は、目を閉じながら首を振る。どうやら今は話しかけるなと言っているようだ。


「……ぐー」


「あ、ナベ、ほんまに寝た」

「なんだかカオスだなあ」

「はしもっさんは、追い込みせんでええん?」

「今ノートとか見ると逆に忘れそうなんだよね」

「なるほどなあ」


 誠人は椅子を揺らしながら頷く。


「テスト終わったら、部活始まるな~」

「ああ……そうだね」


 パッと頭に浮かんだ渡瀬部長と三好マネージャーのことは考えないようにして、はなえは相槌を打つ。誠人は「おっとと」と椅子を揺らす。


「いやあ、初戦くらいは勝ちたいよな~」

「初戦?」

「7月から大会始まるんやで」

「あ、勝ったら甲子園に行くアレ?」

「そうそう。まあ、その前にベンチ入りせんといかんけど――うちの高校やったら初戦、いや二回戦くらいは……うーん、勝ちたいよなあ」

「『諦めたらそこで試合終了ですよ?』」

「名ゼリフ来た~」


 誠人が笑いながら、そう言うと、ふと思いついたように手を打つ。


「せや、せっかくやから4人で打ち上げしよな」

「打ち上げ?」

「テスト勉強一緒に頑張った記念で、ノークラブデーに」

「……いいねえ」


 こうしてリラックスして受けた中間考査。


 はなえが全教科平均点前後でため息を吐いていた頃――『あべのの人』改め徹也は全教科クラス上位の点数で3人からブーイングを受けていた。


 そして、誠人は1教科、杏奈は4教科の赤点で1週間補習を受けることになり、打ち上げは流れ……そんな彼らの夏が始まろうとしていた。

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