第27話 リー視点

リードゥレントとしての人生。

王弟として恥ずかしくないよう、イデヤがこの国の役に立とうとしたことを胸に灯し、兄上の下で国のために働いた。

再婚を勧められたこともあったが、何年経ってもそんな気にはならず、ただイデヤのことを想って慎ましく生きた。

国に災いが起こることもなく、兄上による平穏な治世は続いた。


そして。


私は生まれ変わった。別の世界に。

正しくは、15歳を過ぎた頃から夢を見るようになった。

今の自分ではない、しかし自分なのだ。リードゥレントとしての人生。

リーの幼い頃。学生の頃。そして、イデヤと共に過ごした日々。

パズルのピースのように記憶が嵌っていき、今の自分の中にリードゥレントがいるとすとんと収まったとき、僕は震えた。

神は私を、僕を許していなかったのだ。

イデヤを忘れさせてくれない。神は僕に罰を与え続けている。


今、僕が生きている世界は、イデヤが元居た世界だろうか。

神の力が働いて、イデヤはあの世界に行ってしまったのだろうか。

イデヤは神の座の近くに倒れていたと…。

この世界ではどうなったんだろう?行方不明?

そう思って過去の行方不明者がずらっと載ったサイトでイデヤの名前を検索してみたが、全くヒットしなかった。

行方不明ではなくて、この世界で死んで…そのあとであの世界に行ったのかもしれない。


考えたところで答えが出るものではない。


ただ、もし。罰ではなくて、僕が神に許されているとしたら。

僕と同様に、イデヤもこの世界に生まれ変わっていたら。

可能性の低い、夢のようなこと。

だけどそう思うと心はあたたかくなった。


バイトをして高校生なりに一生懸命お金を貯めて、オーダーメイドの指輪を作った。

前世の記憶を頼りに作った指輪。

身に付けることはせずに、たまに眺めてイデヤのことを思い出した。


前世でいい年まで生きて、年を経てもイデヤのことを忘れられなかったけどそれなりに折り合いをつけていた。

それなのに、高校生の自分はイデヤのことを想うと心が弾んだ。

恋をしてドキドキしている。そんな気持ち。


進学も、イデヤの言葉を思い出して決めた。


イデヤは言っていた。街づくりを学んでいたこと。

それは、都市工学や環境工学の学科だろうか。

アカデミーと違い、学校は男ばかりだったこと。ということは、総合大学じゃなくて工業系の単科大学だろうか。


いくつか候補を絞ってオープンキャンパスへ行き、志望大学を決めた。

イデヤなら、きっとこういう大学に通ってただろうと。

イデヤができなかったこと、今この世界でも代わりに成し遂げたい。


そして。

入学式で、心臓が止まるかと思った。

イデヤがそこにいたから。

だけど、何かがおかしい。

僕もイデヤも新入生で、18歳。

前世で初めて会ったとき、イデヤは確かに言っていた。「もうすぐ21」だと。

でも、目の前にいるのは絶対にイデヤだ。


なんとか平静を保とうと深呼吸して、当たり障りのない話をしようと頑張った。

こんなところで泣いたらダメだ。

泣くのを我慢して話をして、式が始まる前に携帯を出して連絡先交換した。


イデヤの携帯に表示された僕の名前。それを見てイデヤは首を傾げた。


「これ、名前…。橘 立花?タチバナ タチバナ?」


両親はいいこと思いついたと喜びいさんで僕に『立花』と名付けたらしい。

悪い意味で目立つから、あまり自分の名前が好きじゃなかった。

だけど、イデヤには。名前を呼んでもらいたい。


「ううん。タチバナ リッカ。リッカって呼んで」


そうお願いすると、イデヤは微笑んだ。


「リッカ、きれいな名前だ」


イデヤからの笑顔が嬉しくて泣きそうになって、ごまかすために僕も自分の携帯の画面に目をやった。


「えとイデヤ、シンリ」


「そう。真理。マリじゃないんだシンリなんだ」


イデヤと出会って、改めて恐怖に襲われた。

許されているかもしれないなんて、甘い考えだった。

神は本当に私を、僕を許すつもりがないのだ。


21歳になる前に、イデヤ、いや、真理の身に何かが起こるのは間違いない。

神は真理をどうするつもりだ?

あの世界へ連れていくのか?

どうやって?死という形で?


背筋が凍った。

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