第17話
立花との出会いは大学の入学式。
入学式が行われる講堂の前で、新入生向けの資料を受け取り、さて中に入ろうかとしたとき。
多くの新入生がいる雑然とした中に、白く輝くオーラを放ってる人物がいた。それが立花。
俺も含めてほとんどの新入生が背伸びした感満載でスーツに着られている状態だったが、立花は違った。
同い年なのにすでに完璧だった。
工業系の単科大学なので周りはほとんど男だけど、もしここが総合大学だったら女の子に取り囲まれてるんじゃないだろか。
それとも遠巻きにキャーキャー言われるんだろか。
とかなんとか考えて立花をチラ見してたら、俺の視線に気づいたのか立花と目が合った。
立花はお化けでも見たようにビックリした表情をしたけど、目をパチパチさせて俺に近づいた。
チラ見に対して文句でも言われるのかと思いきや、「ひとり?」って聞かれて「うん、親は来なかった」とか、初対面でそういう会話をした。
そのあと一緒に講堂に入ったんだが、記憶が曖昧だ。
覚えてるのは、立花の髪がオシャレにふわりとセットされてたこと。
ピカピカに磨かれた靴を履いてたこと。
爪の形がきれいだったこと。
そして、いい匂いがしたこと。
その日から、俺たちの仲はどんどんと深まった。
偶然にも同じ学科同じ専攻だったので被る講義も多く、自然と行動を共にする機会も多かった。
「お前たちって、昔からの知り合いじゃないの?」
大学でできた友人たちに、そう言われたことは一度や二度ではない。
同級生みんな知り合った時期は同じなのに、立花は俺だけ特別扱いしてると友人たちは口をそろえた。
確かに。
俺が特盛牛丼を食べていたら、「サラダもつけたほうがいいよ」とアドバイスし。
俺が肌寒い日に半そでシャツを着てたら「貸してあげる」と自分の上着を脱ぎ。
俺がクシャミでもしようものなら「熱は?熱はない?」と心配し。
母ちゃんでも俺のことこんなに気にしないぞ、と、少し呆れてもいたのは事実。
だが、家族でもないのに俺のことこんなに気にかけてくれる存在がいることに足元がフワフワ。
立花は男だけど。この大学が男ばっかりで、女の子との出会いが限られてるといえども。
そんなの関係ねえ、と、俺は心の中で歌った。
出会ってから三ヶ月も経たないうちに、俺は立花の特別で、立花は俺の特別になった。
イケメンで洗練されて光り輝いている立花。
実家も裕福らしく、俺よりグレードの高い一人暮らしをしてる立花。
それをひとつも鼻にかけることなく、あれやこれやと俺の世話を焼く立花。
それに甘えてしまう俺。
さすがにウチの風呂掃除を始めたときは「しまった」と思い、反省の弁を述べた。
甘えすぎたごめん、と。
だけど立花はニコッと笑って俺を撫でた。
「命令されてやってるんじゃないんだから。気にしないで」
そう言ってくれるんなら、と、俺はそれ以降も立花にちょこちょこ家事を甘えることになった。
友人に「バイト先も同じなんだろ?いつも一緒で疲れない?」と、コソッと聞かれることもあった。
全然だ。
全然疲れない。気詰まりしない。
立花の醸し出す空気を吸い、俺は毎日元気溌剌。
大学でもバイト先でも俺たちが付き合ってることは公。
同性で付き合ってることに思うところがある人もいただろうけど、面と向かって俺らを傷つけるようなことを言う人もおらず。
学生らしい忙しさはあっても、俺たちの毎日は平和なものだった。
俺は立花が好きで、立花も俺を好きで。
ただそれだけの、単純なことだったのに。
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