第14話

あれ?うう、夢か?俺は…。


ふっと意識が浮上し、ゆっくり目を開ける。

白い天井には…。


蛍光灯。いや、LED。いや、そんなのはどっちでもいい。


「し、真理?」


俺の名前を呼ぶのは…。


「か、かーちゃん?」


母ちゃん??

俺の意識はまた遠くへ行った。



それから。

俺は再び目を覚ました。天井にはやはり蛍光灯だかLEDだか。

ベッドの傍には母ちゃん。俺の腕には点滴。看護師さんがやってきて、俺のお熱を測った。


「今から検査に行きますね」


念のためってことで車椅子に座らされる。ベッドから車椅子によいしょと移動するとき、枕元のボードに俺の名前が目に入った。


『井出矢 真理』


俺だ、俺だよ。


あれやこれや診察と検査。その合間に母ちゃんが話してくれた。


「あんたね、部屋で倒れてたんだって。高熱出して。

ビックリしたわよ。慌てて新幹線に飛び乗ったんだからね。でも意識が戻ってよかったわ」


「どのくらい意識なかったんだ?」


「三日よ」


三日?三年じゃなくて?

俺の三年以上の月日は、どこ行ったんだ?

あれは高熱のせいで見てた夢なのか、そんなわけないって。


とは思うものの、夢のはずがないなんて大声で言えるわけもない。

「意識のない間、長い夢を見てました」と医者には、それだけ言った。


それを聞いて、医者は大したことないといったふうに頷いた。


「献血とか血液検査で血を抜いて意識失った人も、実際は数秒なのに長い夢を見てたっていう人がいるんですよ」


「そうなんですか」


俺の長い夢、三年越えてたんだけど。しかもめちゃくちゃリアル。夢じゃなくない?って。

そんなことは医者に言えず、母ちゃんに車椅子を押してもらって病室に戻った。

するとそこに。

俺のベッドの脇の椅子、ひとりの青年が腰かけていた。


「真理!」


「立花…」


俺はなんで立花のことを忘れてたんだろう。

俺の、恋人。


「立花くんが救急車呼んでくれたのよ。命の恩人よ、感謝しなさい」


「あ。うん」


立花が手を貸してくれて俺は再びベッドに戻る。

布団をかぶせてぽんぽんする手つきはとってもやさしい。立花のまつ毛、濡れてる。


「真理がカノジョじゃなくてカレシ作ってたのには驚いたけど、ずいぶんなイケメンを捕まえたものね」


母ちゃんは冷やかすように笑い、「それじゃ、また明日来るわ」と洗濯物を持って俺のアパートへ帰った。


「真理、目が覚めてよかった」


俺の頬をさする立花の白い手。

気まずい。

俺は夢の中とはいえ、立花のことを忘れてリーに夢中だったんだから。


「立花、心配させた」


はらはらと涙を流す立花。

その涙は美しい、が。罪悪感がものすごい。

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