第11話

「ちょっといいかな、相談があるんだけど」


アカデミーで、俺は同級生に声をかけた。

プレゼントしたらいいんじゃないかとアドバイスをくれた同級生だ。


「何?」


かくかくしかじか。

簡単に言うと、オーダーメイド対応のいい宝飾店を知らないか、ということ。

同級生は一瞬面倒くさそうな表情をした気がしないでもないけど、どこか心当たりがあるようだった。


「あー…。それなら。そうだな。今日の午後、一緒に行ってみようか」


「感謝する」


同級生に連れてきてもらったのは、高級なお店が立ち並ぶ一角から、ちょっと脇に入った道。

そこにこじんまりとした、しかし個性輝く店があった。

店内のディスプレイには、シンプルなネックレスから繊細な彫刻が施されている指輪まで。

宝飾店というより、個人の工房と呼ぶのがふさわしい感じ。


「いらっしゃいませ。今日はいかがなさいましたか?」


奥から若い男が出てきて、同級生に頭を下げた。どうやらこの若い男がこの店の主らしい。

若いのにすごいなあと思ってる俺の横で、同級生は貴族然として店主に話かける。


「客を紹介したい」


店主は申し訳なさそうに頭を下げる。


「今は予約いっぱいなので…お時間がかかりますが。そうですね、三年待ちといったところでしょうか」


指輪ってそんなにかかるのか?三年も待てない。一刻も早くリーにプロポーズしたいんだ。

ぬぬ。と、俺が怯んでいると、同級生が一歩前へ。


「僕の予約を後回しにしていいので、彼を優先してくれないか」


「それは、でも」


同級生が店主にこそこそ耳打ち。おっ、取引か。それとも脅迫か。

貴族はどうやって要求を通すのだろうか興味はあるが、無理矢理ねじ込んでもいい指輪は作れないと思うので。

ダメならダメで他の店を当たろうかと思ったが、同級生の話を聞いた店主が俺の顔を見て驚愕。


「王弟殿下の…?」


おいおい同級生。お前、俺の個人情報を漏らしてるじゃないか。

まあそれはいいか。俺が『異世界からの使者』ってことはトップシークレットだけど、俺の結婚相手がリーだということはみんな知ってる。

根掘り葉掘りされたことはないが。


ごほん。よし、俺も貴族っぽく振る舞ってみよう。


「ぜひ、このお店にお願いしたいんだ」


店主は最終的に頷いた。

同級生の貴族パワーと、俺が王弟殿下の伴侶であることが効いたみたいだ。

コネにコネを重ねる、普通の感覚では悪行かもしれない。

だが許してくれ。俺はコネを利用しても、素敵な指輪が早く欲しいのだ。


「なるべく早く。できれば一か月で作ってもらえると助かる」


俺の要望に、店主はあからさまにしかめつら。


「貴方が紹介でもなく、王弟殿下のご伴侶様でもなかったら、叩き出してるところですよ」


「無理を言ってるのは分かるけど、頼みます」


「本当にもう、分かってるのかな」


最終的に俺が敬語になり、店主は俺に対して敬語を使うのをやめた。

だが、ブツブツ文句を言いながらも、指輪のデザインについて真剣に話を聞いてくれた。

ここはいい店だ。



同級生は俺と店主の打ち合わせを聞くでもなく店の隅に座って本を読んで待っていてくれた。

俺は前もってかなりイメージを膨らませていたので、たった数時間で打ち合わせはほぼ終了。

それでも、店を出るとすっかり日が落ちていた。


「ありがとう、いい店を紹介してくれて」


「どういたしまして。…まあ、僕にも打算があるから」


「そうなのか?」


「そりゃそうだよ。君は王弟殿下の伴侶なんだからね」


俺に恩を売ったってことか。

そうだよな。俺たちはトモダチでもなく、同じ研究室の同学年のメンバーって関係だし。

ただの純粋な親切ではない、か。


「残念だけど、俺自身には何の権力もないよ」


同級生が見返りに何を望んでるかは分からないが、俺にできることはない。

リーと顔つなぎしたいとか?うーん、今の状況じゃ無理だ。

できるとしても、指輪を渡して喜んでもらえてからの話。

と、俺があれこれ考えていると、同級生はフフッと笑った。


「そうだね。君はただの同級生だったよ」


じゃあ結局ただの親切ってこと?

それはお気楽な考えかもしれないが、親切にされたことは嬉しい。

いい指輪も作れそうだし。


とにかく今日は、前向きで明るい気持ちになる一日だった。

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