第9話

「まだ具合悪いみたいだね」


夜会から一晩開けた、朝食のテーブル。

俺は元気なフリもできず、スープをちびりちびりと口に運ぶ。

そんな俺の様子に、リーは心配そうに眉を寄せた。


「アカデミー、今日は休んだら?」


「そんなわけにはいかないよ」


休みたい気持ちもあったけど、休んだら余計なことばかり考えそうで怖かった。

重たい足を引きずり、溜め息何度ついたか分からない状態でアカデミーに着いた。

だが。

結局は講義内容そっちのけでリーのことばかりが頭に浮かぶ。


リーを問い詰めたかった。

何もかも演技だったのか。

王弟としての役割を全うするために、好きでもない俺に微笑みかけて体を許していたのか。

でも。

問い詰めて「そうだ」なんて返事されたら…。

砂上の楼閣のしあわせすらも消えて、何も残らなかったら。


残りの人生、どうしたらいいんだ。


ショックが大きすぎて思考力と集中力の低下は否めない。

ただそれでも、絶対に変わらないこと。

俺は、リーが好きなんだ。

今更、真実を知ったところで。リーへの気持ちは変わらない。変えようもない。好きなんだ。

そうだ、それなら。

リーが一生かけて役目を全うするつもりなら、俺は一生気付かないフリをしよう。

今までと同じように生活していこう。


そう決意した。


何にも聞いてないし何にも知らないフリをして、夜会以前と変わらぬ日常生活を送る。

朝と晩は急用が発生しない限りは一緒に食事をするし、休みの日はデートをするし、夜だって一緒に寝るしイチャイチャもする。


が。

俺は表情や態度にいろいろ出やすい性質らしい。


「ねえ、最近…。熱が入ってないよね」


明日は休みだからと、夜遅くまでなんやかんやしたあと。

リーからのいきなりの指摘に、俺はドキッとした。


「そ、そうかな…」


そうかもしれない。

何も気付かれないように心がけているけど、何も知らないハッピー状態だった頃と全く同じではいられない。

やっぱり、深層心理とか、無意識とか。そういうレベルのものが表情に出てしまうのか。

どうやって誤魔化そうかと頭の中で言葉を探すが、見つからない。


「私と一緒にいても楽しくなさそうだし。

他に好きな人でもできた?」


歯を食いしばる。

なんでそんなことを言うんだ。俺の気持ちも知らないで。


「やめてくれ。そんなこと言うのは。

俺が好きなのは、リーだけだ。リーのことが、好きなんだ」


リーだけが好きなんだ。

だから、苦しいんだ。

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