第2話

「今日はお客様がいらっしゃいます」


神殿騎士団にお世話になって一か月も経ったころ。

真面目に家庭教師について勉強し、俺が今いるこのフェヴォリという国について少し理解を深めた頃。


「お客様?」


家庭教師と使用人さんと、警護兼お世話係の騎士数人とは毎日のように会ってる。

それ以外の誰かが訪ねてくるのか。


「はい。王弟リードゥレント殿下がいらっしゃいます」


「えらいさんが来るのか。俺、大丈夫かな?」


マナーなども専門の家庭教師が来てビシバシ指導されたが、一か月では付け焼刃。

王様の弟さんに失礼な言動働きかねないぞ。


「イデヤ様はとても真剣に励んでおります。多少の失敗があったとしても、殿下は見咎めたりなさらないでしょう」


「そんなものかね」


まあ、俺は異世界からの使者なので。少々やらかしても大目に見てもらえるんだろう。きっとそうだ。



少し緊張しつつ午前中の勉強を終えてしばらく、昼過ぎに殿下はやってきた。


「初めまして。リードゥレント・フェヴォリです」


きれい。きれいな若い男。少しだけ唇の端を上げて、うっすらと笑う。とってもきれい。イケメンじゃなくて、きれいと表現したい。

あ、やばい。きれいすぎじゃないか。ソワソワする。あれ?でも…なんだっけ。どこかで会ったことがあるような、ないような。

雑誌に出てた?いや、出てるはずないけど。だってここは異世界。


「イデヤ様。ご挨拶を」


ぼやーっと見とれていると、後ろから俺のお世話係の神殿騎士が焦った声が聞こえた。

おっと。初っ端から殿下に失礼なふるまいをしてしまった。殿下に見とれてる場合じゃない。


「初めまして。イデヤ、イデヤシンリです。イデヤと呼んでください」


そして握手。殿下の手は鍛えられた男の手だった。だけどずっと触っていたいような不思議な感覚。


テーブルを挟んでソファに腰掛ける。

お世話係が紅茶を淹れてくれて、いろいろとお話。

今の生活で困ってることはないか、とか。

家庭教師は厳しくないか、とか。


「イデヤは何歳?」


「今年で21歳です。殿下はおいくつになりますか?」


俺より少し年上かなあと予想。


「私は今年で25になる」


25か。結婚とかしてるのかな。してるかも。王族って生まれたときから婚約者がいそう。


「イデヤは異世界で、私にとっては異世界だけど…イデヤにとっては生まれ育った世界だね。

そこでは何をしていたの?」


「俺、じゃなくて、私は学生でした。都市工学…街づくりを学んでいました」


「へえ。じゃあ、専門的な知識を持っているんだね」


殿下は感心したように目を細める。それもまた一枚の絵画のようで美しい。

それからも殿下はいろいろと話を振ってくれ、気まずくなることもなく午後のまったりとした時間が過ぎて行った。

そして、帰り際。


「イデヤ、よければ友人にならないか?

この国でイデヤが心穏やかに過ごせるように協力するよ」


「あ、ありがとうございます!」


殿下は優しいんだな。ふう。きれいだし優しいし。

俺が女だったらマジで恋する5秒前だぞ。


「イデヤが話しやすいように話してくれると嬉しい。無理に『私』と言わなくてもいい」


何回か『俺』って言っちゃったし、頑張って敬語使っているのも気付かれてたみたい。

きれいだし優しいし気遣いもできる殿下。


「殿下、ありがとうございます」


「それじゃあ、また。今度は散歩でもしよう」


殿下をお見送り。ドアが閉まるまで頭を下げていた。

ふう。緊張した。来る前は来る前で失礼のないようにしないとと緊張し、来たら来たできれいすぎて緊張した。

とにかく緊張した一日だった。

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