夢か現か幻か

のず

第1話

体が重い。熱い。だけど寒い。胸がムカムカする。頭がガンガンする。

ここはどこだ。土の匂いがする。目が開けられない。ここは。

助けてくれ。



そのような苦しみが永遠に続くかと思ったが、いつの間にか寝ていたのか意識を失っていたのか。

ふっと意識が浮上する。


「目が覚めましたか?」


そう俺に声を掛けたのは、知らない人。若い男だけど、なんだか恰好が。


「…は、はい」


「あなたは森で倒れていたんですよ」


森で?森ってどこだ?

ゆっくりと頭を動かし部屋の中を見る。

絵本で見たことあるログハウスのような内装。俺はいつの間に森に?


「もう少し休まれるといいでしょう。あとで神殿騎士団の本部に連絡を入れます」


俺は耳を疑った。警察ではなく、騎士?


「き、騎士?」


「あなたは異世界からの使者でしょう?森の奥深く、神の座のすぐ傍にいらっしゃったのですから」


なんのこっちゃ。頭痛がぶり返してきた。

俺はどうなっちゃったんだ。森ってどこだ。神の座ってどこだ。

だめだ、寝よう。

考えることを止めて、俺はもう一度眠りについた。



それから。

再び目が覚めたら、数人の男が俺を覗き込んでいた。ひえっ。少しビビってしまったが、男たちは膝をついて俺に平伏。


「神は稀に、異世界に住まわれている人をこの世界に送ってくださいます。

この世界の安寧のために」


男たちは神殿騎士団に所属する騎士で、俺を助けてくれた男もその一員。森の見回り任務の途中、俺を発見してくれたそうだ。

命の恩人、感謝。最初、ちゃんと話を聞かなくて考えるのを放棄して申し訳ない。


男たちの話を聞くに、よく分からないけど俺は神様によってこの世界に来たらしい。本当かよ。

神様云々は置いておいて、ここが異世界というのは信じた。

テレビがない。スマホもない。見たことのない文字の本はある。騎士がさっと手を挙げるだけで部屋の灯りがつく。

その灯りが蛍光灯でもLEDでもない。大きい透明な石なんだ。


「体調が戻り次第、王都へとお連れします」


「王都?」


「はい。そちらで今後の身の振り方を相談させていただければ、と」


俺はこの流れに身を任せるしかあるまい。

この男たちが騎士でも人さらいでもコスプレ集団でも信じるしかあるまい。病み上がりの俺はひとりで何もできやしない。



森のログハウスで一週間ほど世話になった。

数人の騎士があれやこれやと世話を焼いてくれて、すっかり元気になった俺は王都へ出発することになった。

ああ、俺って今ここにいるけど、ここに来る前は何してたっけ。バイトに行こうとしてたんだ。だけど具合が悪くて…。気付けばここ。どういうこっちゃ。

父ちゃん母ちゃん、俺が消えたことに気付いてるかな。大学ずっと休んでたら大学から実家に連絡入れてくれるもんだろか。頼むぞ大学。


「イデヤ様、どうかなさいましたか?」


馬車に揺られてアンニュイな俺を、騎士のひとりが気にかけてくれた。


「ううん。何でもないです」


きっと俺はもう帰れないんだろう。ならば。異世界からの使者として人生謳歌するしかあるまい。



神殿騎士団の本部というところに俺の部屋が用意された。

シンプルな部屋。木の机に椅子。本棚。ドアの向こうは寝室。見るからにフカフカベッド。


「家庭教師をつけますので、この世界のことを学んでいただきます」


オッケー。無知は罪であり恥だもんね。使者として頑張りますよっと。

と、心の中でテンションを高く。

そうでもしていないと、やはりつらい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る