散乱
朝、起きてベランダのカーテンを開けると、目の前にいる男と目が合った。
「…!!」
その場にへたり込んだ私が見たものは、ベランダの物干し竿に引っ掛かったスーツ姿の会社員だった。
「おはようございます。ご主人、申し訳ありませんが、ここから降ろしていただけませんか?」
男の丁寧な物腰に私は少し安堵した。
「うちのベランダで何をしているんですか?」
「私も好きで、こうなったわけではありません。台風のせいです」
「…台風?」
確かに、昨晩この地域を台風が通り過ぎていた。
「台風になると、私の様に薄っぺらな平社員は風に煽られ、飛ばされてしまうのです」
「何を馬鹿な事を…。分かったぞ、お前は泥棒だな。そうでなければ、新手のセールスマンに違いない」
「いえ、ご主人嘘ではありません。毎年台風になると、数百人の平社員がイワシの群れの様にクルクルと空を舞うのです」
「台風で平社員が空を舞うなんて話、誰が信じるものか」
「信じるも信じないも、ご主人外をご覧なさい」
ベランダの窓を開けると、我が家だけでも庭の木に一人、屋根に三人の平社員が引っ掛かかっていた。
それらは皆一様にウンザリとした表情で私達のやりとりを眺めている。
物干し竿の男は言った。
「早く降ろしてください。でないと私メザシになってしまう」
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