業務用

「お疲れ様です」

「お疲れ様」

廊下の入り口で専務と挨拶を交わした。

しかし角を曲がると、また専務がこちらに歩いて来た。

「お疲れ様で…す」

「お疲れ様」

私は暑さに頭がやられたのだと思い、その場に立ち尽くした。

すると後ろから更に三人の専務が、私を追い越して行った。

「お疲れ様」

「お疲れ様」

「お疲れ様」

私は慌てて、遠ざかる三人の背中に「お疲れ様です」と大きな声で挨拶をした。

うちの専務は何より挨拶を大事にするのだ。

………

人事部から怒号が響いた。

「何で上司を買ってくるんだ!今足りないのは現場の部下だろう!しかもこれ専務じゃないか!専務なんて何の仕事をしてるのかも分からないのに!それをよりにもよって業務用で買う奴があるか!」

どうも人事部の手違いで、大量の専務を仕入れたらしかった。

暇な専務達は、険しい表情で社内のあちらこちらを歩いて回った。

社員は専務を見る度に、立ち上がり挨拶をした。

何せ専務が多過ぎて、どの専務に挨拶を済ませたのか分からないからだ。

今日は終日「お疲れ様です」という声が鳴り止む事はなく、仕事は面白いくらい進まないのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る