嘔吐 ●
中堅社員の研修に参加した。
今日のテーマは“二日酔い”だった。
和服を着た色白で細面の男が講師として現れた。
「会社員の基本は二日酔いであり嘔吐です。さぁ、やってみましょう」
私達研修参加者は、顔を見合わせ戸惑った。
「嘔吐には普通のものと観賞用のものがあります。そもそも観賞用嘔吐には悠久の歴史と日本の美があるのですよ」
呆気にとられる私達をよそに、男はバケツを持ち上げた。
「では、観賞用嘔吐の型を指南しましょう。まずこれが“菊”です。ゲロロロ…」
男はバケツに嘔吐をして見せた。
菊の嘔吐は品があり、無駄が一切排除された侘び寂びの体現の様だった。
「そして、これが“牡丹”。ゲロロロ…」
なるほど、牡丹は絢爛豪華で見栄えのする派手な嘔吐だ。
「最後に、これが“柳”。ゲロロロ…」
柳はしなやかで色気さえ感じさせる究極の嘔吐だった。
あっという間に、私達は嘔吐の美しさに心を奪われていた。
そして私達は、うっとりとしたまま窓を開け換気をするのだった。
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