遺影 ●

親戚の法事が終わった。

「じゃあ、始めましょうか」

そう言うと坊主が風呂敷を解き、遺影用の額を取り出した。しかしその中央には大きく穴が開いていた。

端の席の伯父が、さも当然であるかの様に遺影の穴に顔をハメて、坊主に尋ねた。

「どうですか?」

「ダメダメ、そんなに悲しそうな遺影はいけませんよ」

この村の慣習なのだろうか、ギョッとしているのは私だけだった。

隣の伯母が額を受け取り顔をハメた。

「どうでしょう?」

「あなたの人柄が出てませんね、ダメです」

次は私の番である。

「…こんな感じですかね?」

「こりゃ素晴らしい遺影だ!皆さんご覧なさい、良い“在りし日”が出てますよ!」

すると親類が私を取囲み、「ここ30年で最高の“在りし日”だ」「きっとこの人は“在りし日”の経験者だよ」「大学で“在りし日”を専攻してたんだろう」等と言って感心した。

私は褒められて悪い気はしなかった。

しかし、照れて笑うと良い“在りし日”では無くなってしまうかも知れないと思い、じっと我慢した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る