第49話

「そもそも簡単に死んでお詫びするなんて言うな!死ぬのは辛いんだぞ!!痛いんだぞ!!それすら理解できないのなら、俺がその辛さを教えてやる!」



 俺は手刀でロモスの両手を切断した。



「グギャーーー!」



「どうだ?痛いだろ?だがそれくらいでは人間は死なないんだ!死ぬのはもっと辛いんだ!!こういう辛さを今回の戦いで多くの人間が味わったんだ!俺だって今日1度は首を斬られたし、腹にも穴が空いた。こんな風にな!」



俺は今度はロモスの腹に手を突き刺した。



「ギャーーー!!痛い!死ぬ…死んでしまう。怖い…助けてく…だ…さ…い。」



「知るか!死にたかったんだろ?一回くらい死んで反省してこい!」



「あぁ…死にたくない。これも私の罪なのか…」



そこまで言い終わったところでロモスは死んだ。俺はすぐにエクストラヒールを使い、リバイブで蘇生をしてやった。



「ここは…私は死んだのでは?」



「蘇生した!傷も回復している。まだ死に足りないか?もう一回くらい死んでおくか?」



「ぎゃーー!死にたくない!死にたくないです!!」



「分かってくれればいいさっ!死んでいった者たちの為にも、生きて、少しでも多くの者を幸せにできるように努力してくれ!!


それとな…ここまでしといてあれなんだが、今回のことはあんたの罪ももちろんあるが、俺たち転生者と邪神が揉めてることに巻き込んだ部分もあるんだ。そこはすまなかった!!俺はその落とし前をつけにこれから神の世界に行き、あの邪神たちをぶっ潰してくる!


あの邪神たちのことだ。魔族と人間の戦いが終結したと知れば必ず地上にもまた何か仕掛けてくる筈だ!俺以外の転生者たちと、生き残りの兵たちを率いてこの世界を守ってやってくれ!!頼む!」



「何故私にそれを頼むのだ?私はお前の中では最低の人間ではないのか?他の人間に頼んだ方がいいだろう?」



「俺だってバカじゃない!あんたがあの呪いの発動した時、転生者たちを殺さずに管理していてくれた優しさくらいは分かってる。それにあの時命を取ろうとしたのは俺と王子であるカシムだけだったようだしな。最小限の被害で済まそうとしてくれてたんだろ?


あんたがあの時選択を誤ったが、基本は優秀で民を思う優れたリーダーだと思ってるんだ!だからこの混乱を任せられるのはあんたしか考えられないんだ!!」



「人が死のうとすることを怒るくせに、その相手をいきなり殺したり、生き返らせたり、本当に無茶苦茶な男だ!だが、その言葉は人の心を動かす力があるようだ。分かった!!私が皆を率いてこの世界を守ろう!」



「ありがとう、これで俺は邪神との戦いに集中できる!」




 こうして翌朝、俺とゼウスローゼン様とトリスは共に神界へと旅立つこととなった。


戦いの前日、俺はアリエスと久しぶりに結ばれた。呪いが解呪され、旋風の牙の二人と別れた後、しばらくは2人で平和な日々を過ごしていた時に結ばれて以来の性行為であった。



「この戦いが終わったら、子供を沢山作ろうな!」



「うん!でももしかして今夜1人目が宿ってるかもよ?」



「それはそれでうれしいけど、できれば戦いから帰ってからも沢山アリエスをこうして抱きたいな。これまで忙しすぎて我慢ばかりの26年だったからアリエスをもっとずっと感じていたいよ!」



「うん。私もオリオンをもっと感じていたい!だから絶対に帰ってきてね!!死んだりしたら許さないからね!」



「ああ、必ず生きて戻る!アリエスこそ絶対に死ぬなよ!!」



「地上に私を倒せる相手なんて存在すると思ってるの?」



「んー、いないな!ドラゴンの上位種だろうとただの雑魚だ!!だけどそれでも油断するな!!あの邪神たちがあの切り札を使えば俺だって、アリエスだって危険なのは変わらないからな!」



「あー、あれね。その時は臨機応変で動くわ!」



「そうだよな!俺もそれは同じだ!!アリエス…?」



「ん?何?」



「もう一度アリエスと結ばれたい…」



「もう。そんなの聞かなくてもOKに決まってるじゃない!」



俺たちは抱き合い、唇を重ね合わせた。こうして長い夜はふけていったのであった。




「じゃーみんな行ってくる!地上は任せたからな!!」



「「いってらっしゃい!」」




 ゼウスローゼン様は俺の肩とトリスに手を起き、不思議な詠唱を唱えた。すると目の前の光景が反転し、何やら手入れのいき届いた庭園のような場所に移動した。



「ここが神界ですか?」



「そうだ。ここは私の住んでいた家のある世界だ。特殊な次元構成をしているから、普通の転移では絶対に来れないようになっているのだ。」



「特殊?さっきの時間軸を戻ったり、進んだりを何度か繰り返した転移のことですか?」



「驚いた!まさか一度の転移でそこまで完璧に解明されるとは…やはりお前は他の者とかなり感覚の違いがあるようだな!!その感覚だけでいえば、他の神々をも凌駕するかもしれんな。


そろそろあの2人がここへの侵入に気づいてる筈だ!私たちはここを離れるからしばらくあの2人の相手を頼んだぞ!!」



「分かりました。」



ゼウスローゼン様とトリスは神の力を取り戻す為に、気配を完全に消し、どこかへ行ってしまった。それから数十秒ほど経ったところで、見覚えのある顔が2つやってきた。



「驚いた!ただの人間が何故ここへ来れるの?そもそもあなたは死んだ筈じゃなかったかしら?」



「そんなの転移に決まってるだろ!俺が死人に見えるか?ようやくお前たちに復讐を果たすことができる!!」



「復讐?何の話よ?」



「騙して呪いをかけて転生させてくれたこと、そして教会に神託までして殺そうとしてくれたこと、今回はメノウを使って俺たちを殺そうとしてくれたこと!細かく言えばキリがないくらいに俺たちの安穏を邪魔してくれたことへの復讐だ!!」



「それがどうしたっていうのよ!私たちを楽しませる為だけに存在する人形の癖に、私たちの思い通りにならないなんて許される筈がないじゃない!」



「ふーん、そうか…思ってた通りの外道っぷりに、神殺しに何の躊躇いもなく行えそうだ!!」



「へー、それでこんなところまでワザワザ俺たちを殺しに来たんだ?だけど人間じゃどう足掻いたって神には勝てないのさ!!来るだけでも苦労しただろうに簡単に殺されちゃうなんてかわいそうな坊や!」



「へー、私たちを殺そうってくらいだからどんだけ強いのか見てみたけど、大したもんだわ!このステータス、スキルなら確かに私たちでも倒せると勘違いしちゃうのかもね?」



「ほう。確かにこれは凄い!でも考えなかったの?スキルって神が分け与えるんだよ?それを与える者が与えられる者より弱いなんてことあるわけないじゃん?」



「言いたいことはそれだけか?ならどっちが強いかその身で味わえばいい!!」



 俺は回復阻害効果を追加したエクスカリバーを手刀に纏わせ、ショート転移でファーレの後ろに移動し、その首、体、両手、両足を滅多斬りにしてやった!



「なっ!?」



一瞬遅れそのことに気づいたベトログは、慌てて俺に手を伸ばし、掌から黒いレーザーを次々と放ってきた。俺は右手で尚もファーレを細かく切り刻みながら、左手で水のレーザーを放ちその黒いレーザーを相殺していった。



「止めだ!」



俺は右手のエクスカリバーを解除し、細切れになったファーレの肉体へ向けて地獄の業火を放った!ファーレの体はそのまま燃え尽きて消え失せた。と思った瞬間、すぐ傍にファーレが傷ひとつない完全体で復活した。



「フェニックスか?ならもう一度殺すだけだ!!」



 俺は再びファーレを消滅させようと水と火と風を組み合わせて、小さな水の球を作り出した。その球はまっすぐにファーレに向かっていき、凄まじい勢いで破裂した。いや、大爆発を起こした!天にはどこかで見たことのあるキノコ雲が上がり広島や長崎を思い出す光景が広がっていた。


ただこれは決して核爆発ではない。大量の水の中心部を超過熱したものを、周りの水と風の力で超圧縮により爆発しないように留めていただけの水蒸気爆弾のようなものだ。


爆発に巻き込まれたファーレは再び肉片に変わり、辺り一面に飛び散った!俺はそれが急速に集まり出すと、その集合体に向けて再び地獄の業火でそれを燃やし尽くしてやった。



「思ったよりアッサリと殺せたな!」



俺がベトログを牽制しながらそう呟くと、再びすぐ傍にファーレが傷ひとつない完全体で復活した。



「ちっ!何回復活するんだよ!!ゴキブリなみのしつこさだな!」



「神をあんなものと一緒にしないでちょうだい!この私を2回も殺そうとするなんて許さない…許さないからね!!」



 ファーレはさきほどまでの俺を舐めて浮かべていた下婢な笑みは完全に消え失せ、俺への怒りで今にも爆発しそうな表情を浮かべていた。




俺を舐めてるうちに、不意打ちで1人は倒しきりたかったんだがな…ちょっと予定が狂ったな。まあ、やることは一緒だ!!



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