第48話

 俺が試そうとしてることとは、ショート転移をスキルなしで取得することだ!先ほどメノウと一緒にショート転移した際の感覚をぶっつけ本番で再現しようとしているのだ。



確かこんな感じで…で、こうだ!



俺の目の前の風景がフワッと一瞬で切り替わった。イメージした場所とはかなりずれていたが、一応ショート転移には成功したようだ!感覚を忘れないうちに何度か試してみる。



成る程、転移先を決める感覚はこうか…ならこれでどうだ?…よし!ほぼ思った位地に移動できた♪意外にうまくいくもんだな!これなら同じ条件だ!!




 俺がショート転移の練習をしているうちにメノウの体もも全快したらしく、ショート転移で俺の目の前に現れた。俺はそれをショート転移でメノウの後ろに回り、首を斬ろうとしたが、再びショート転移で俺のさらに後ろに移動した。


そんな感じで、俺たちはショート転移で隙を作り合う攻防をしばらく続けていると、俺はふとショート転移の仕組みについて考察するようになった。このショート転移は今自分のいる場所から、目的の場所まで次元に一瞬穴を開けて移動しているようなのだ。


ならば…発展させればこういうこともできないか?



と思い試してみることにした。



俺は右手に再びエクスカリバーとディスピアーを付与し、ショート転移でその手刀のみをショート転移させ、コンマ0.001秒ほどですぐに元の場所に戻したのだ。結果、メノウの首は見事に切断され、その場に倒れることとなった。


俺はそれでも本当に死んだのか不信に思い、その体も首も完全に魔法で燃やし尽くした!そこまでしてようやく戦いは終わったのだと安心でき、仲間たちのところへ移動した。



「ようやく倒せたよ!本当に強かった。殺さずに気絶させようなんて土台無理な相手だったよ!急ぎみんなを蘇生しよう!!」



俺は時間のないリリィとルージュから順番に全員を蘇生して回った。無事に全員を蘇生し終えると、皆から何故か謝られた。どうやら俺ばかりに負担をかけ、大した役に立てなかった自分らの不甲斐なさに謝ることしかできなかったようなのだ。



「気にすることないさっ!みんなが弱いんじゃない!メノウが強すぎたんだ!!しかし、あの邪神たちがメノウと同レベル以上の強さを持つのなら、方針を考え直した方がいいのかもな!」



そう俺がみんなに話してると、目の前に神様とトリスが転移してきた。



「まさか、本当に1人でメノウを倒してしまうとは…オリオンよ!お前の強さは既に人間の域をはるかに越えておるぞ!!メノウの強さは、神の力を完全に取り戻した私と同レベルなのだ。本来はどんなにスキルを持っていようと人間には到達できぬ域の筈なのだが…先の戦いでお前はそれをスキルに頼らず自力で道を切り開き神の域に達しておった。


おそらくはファーレとベトログにもお前であれば勝てるだろう!」



「本当ですか?しかしそれでは俺たち転生者たちは本来は神たちには絶対に勝てないということでしょうか?」



「そうだ。9年前にも言った通り、スキルをいくつか得た転生者は神ともそれなりに戦える程度の力は得られると…転生者たちの役目は私が力を取り戻すまでの間の時間稼ぎだと言ってた筈だ!」



「そういえば…しかし、それならば俺はみんなを連れていくのには反対です。」



「えっ?オリオンさん!?」

「俺だってあの邪神たちを許せません!」

「私だってそうよ!」

「私たちも少しくらいの役には立てる筈です!一緒に行かせて下さい!!」



「みんなの気持ちは分かってる!あの邪神たちへの恨みの気持ちは全員同じだ!!だが今回の戦いで皆が死んでいるのに、俺には蘇生する余裕すらなかった。俺はみんなの命を使い捨ての時間稼ぎだとは絶対に思えないんだ!


みんなは俺にとって大事な家族なんだ!!1人として失いたくない!だからこそ、一番死人が出る恐れの少ない俺だけで戦うのが一番じゃないかと思ったんだ!!」



「私も連れていく気ないっていうの?」



「ああ、アリエスもステータスは他のみんなより高いが、あの邪神たちが万が一奥の手を使ってきたら転生者では俺にしか対応できないと思ってるんだ!」



「奥の手?」



「………。」



「オリオンよ、それはさすがに使うことはないと思うぞ!そんなことをすればおそらく消滅してしまうことになる。そんなことを自ら選択しないであろう?」



「それならばそれでいいのです。万が一その方法を使われれば、俺たちの家族の多くが命を失うことになると思ったんです。」



「そうか…それでは神界にはオリオンだけで行くことにするか?」




 同じ転生者の仲間たちは俺が話したことを考え、万が一それをされた場合の自分等の運命を考えると、「自分も行きます!」と言うことができなくなってしまっていた。



「うっ。。」



「みんな、俺は神界に行ってくる。みんなはこの地上を守っておいて欲しい。あの邪神たちのことだ。俺を動揺させようと地上に必ず何らかの混乱を起こそうとする筈だ!!


俺からの願いは1つ、絶対に死ぬな!!俺も死なずに必ず戻る!みんなの分もあの邪神たちに恨みと怒りの鉄拳を噛ましてきてやる!!あの邪神たちに俺たちの命を弄んだことを後悔させてやる!!」



「「オリオンさん…」」



「何しんみりしてるん?さっきの戦いを見とったなら、うちらではあのレベルの戦いには邪魔なだけなのは分かっとるやない?オリオンを気持ちよう送り出したるも家族としての役割ちゃう?


そしてオリオンも絶対に生きて戻って来る約束だけは守ってーな!待っとるでっ!」



「メネシスの言う通りだ!あの邪神のことはオリオンさんに任せて、俺たちは俺たちの戦いに備えるんだ!!地上は俺たちが守るんだ!」




 これからの流れが決まったところで俺たちは、生き残った人間や魔族が避難している場所へと移動した。そこには人間と魔族が合わせて4万人ほど集まってるようだった。


話を聞くと先の戦いで人間は5万人ほど、魔族は150人ほど亡くなったそうだ。その被害の殆どはやはりメノウのあの一撃であったようだ。守りを固めようと城壁に集まっていた兵たちを中心に王も貴族たちも一瞬で死に絶えたそうだ。



「カシム大丈夫か?」



「はい。父の死に思わぬことがないといえば嘘になりますが、俺にはもっと大切な家族がいますから!」



「そうか。無理に強がったりはするなよ!」



「ありがとうございます。俺は本当に大丈夫です。むしろクラリスの方が心配ですね。」



「あぁー私も大丈夫!神様の話を聞いてメノウ様を助けられるなんて無理だろうと悟ってたから。私はカシムが無事で戻ってくれたことの方がホッとしてるわ。」



カシムがこっそりと小声で言ってく



「オリオンさん、俺が一度死んだことはクラリスには内緒でお願いします。」



「分かった。今から尻に引かれてるんだな?結婚するつもりなのか?」



「はい。今回のことが全て片付いたらプロポーズしようと思ってます!」



「おお!それは楽しみだ!!俺に協力できることあったら何でも言ってくれ!」



「ありがとうございます!」




 俺たちが穏やかな気分で談笑していると、奥で何やら騒ぎが起こったようだ。



「おい!教会は何故魔族たちをあんなに悪く思わせるように教育してたんだ!?あいつら話してみれば、俺たちとそんなに変わらねー存在じゃねーか!」



「それは…民たちが魔族と関わろうとしないようにする為だ!お前たちも見たであろう?あの魔王の恐ろしさを…あの圧倒的な力を!!まだこの国が幾つもの国に別れていた古き時代、あの魔王は各国の王に向けて魔族を滅ぼそうとしたときには人間を滅ぼすと明言したのだ!それを避けるには魔族に歯向かおうと思わぬくらいの恐怖心を植え付けるしかなかったという記録だ。」



「仲良くするって選択肢はなかったのかよ!?」



「その当時、魔族はほとんどの者が人間の手によって殺害された。そして人間も多くの者が魔王の手によって殺害されたのだ!記録によれば国が丸々1つ滅ぼされたという。他の国々も数万単位で殺害されたとある。


そんな状況で仲良くしてくれと言って、双方が納得できる筈もないであろう!少しでも揉めれば一触即発な状況だからこその選択だったのだ。そこは分かって欲しい。」



「なるほどな…」



「分かってくれて良かった。」



「ロモス大司教、今度は俺たちにも納得のいく答えをもらえるか?」



「君は…確かオリオン君だったね。」



「あー、9年前俺たちは真摯にあなたに何もかもを話た。その話を証明するのにもう少し待ってくれと言った俺たちをあなたは一方的に処刑を行った!その理由は何だったのか?そして、その落とし前をどう取るつもりなのか…俺たちにも納得のいく答えをくれよ!!」



「それは神からの神託が…」



「あの時俺たちは、この世界は今邪神たちに治められている状況なのは説明していた筈だ!その状況で神託があるとしたら、その邪神たちからに決まってるだろ!?あんたは俺たちの話を信じたくなかったから、自分達に都合のいい選択に逃げたんだ!!違うか!?」



「それは…」



「その結果、俺はともかく…カシムと俺の1番大事なアリエスの命を目の前で奪われる結果になったんだぞ!


そこまでしておいてその結果はこれだ!!俺たちの助けがなければ人間は滅ぶしかないところまで追い詰められていた。今回の人間の被害はあんた個人の虚栄心と弱い心が招いた結果だ!!それだけはきちんと理解しておけ!」



「くっ!ならば私を殺せばいいだろう!!この酷い有り様は私のせいなのだろう?私は神を信じ、その教えに邁進しただけだ!」



「私はそのような教えを説いたつもりはないがな…」



「ゼウスローゼン様、来られたんですね。おそらく彼にとって今1番会いたくないのはあなた自身かもしれないですよ?」



「か、神が…本当に神がここにおられるのか!?」



ロモス大司教を始め、教会関係者は全てゼウスローゼン様に深々と頭を下げた。



「ロモスともうしたか?お主たちは私のことを神と崇めているのであろう?私はオリオンを含めここにいる転生者たちの助けの下、現世に復活し、ここまで力を取り戻すことができたのだ。これから私が完全に力を取り戻し、この世界の神として返り咲く為にも彼らの力は必要だ!!


もし私を今でも神と思ってくれるのであれば、オリオンたちを認め、転生者たちの邪魔をしないでくれるか?まだ邪神たちの攻撃はこれで終わりではないかもしれないからの。」



「私の判断能力の無さで、あなた様にご迷惑をお掛けしたのですね…私はもうこの命を捧げることでしか、その罪を償う方法がありません。」



「ふざけるな!!また楽な方へ逃げるのか?こんな状況を作り出しておいて、自分の非が明るみになれば真っ先に死んで退場か?それで誰が救われる?そんなのお前だけだろ!?お前が本当に悪いと思ってるなら、最後まで責任持って生き残った民の為に努力しろよ!!どんな辛いことでも率先して動けよ!」



俺はロモスに対して怒りが溢れていた。


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