第45話
「あやつは私がこのポータルマリアの世界を作るときに、作り出した神獣だ!基本的に心優しく、争いを好まず、世界の均衡を保つ為、地上世界をただ静かに見守っている。だが本当の役目は、この世界が何らかの理由で破綻したときの為の『破壊者』という役割を担っておった。
その為、あやつにはお主ら転生者をはるかに凌ぐほどの力が備わっておる。」
「マジですか!でもそれじゃーゼウスローゼン様がメノウさんと話してもらえれば状況は解決するんじゃないのですか?」
「あやつの件はそう簡単な話ではないのだ。あやつの破壊者の発動に関しての権限は私個人ではなく、この世界の神と結びつけられている。つまり今はファーレとベトログだ。しかも、あやつには私の言葉も神言も通じない!今は一番数の多い人間の排除に動いてるようだが、この先放っておけばあらゆる生物が滅ぼされデリートされてしまうだろう。
ファーレとベトログの目的ははっきりとしない。大方メノウを使って力を付けてしまった転生者を無理やり掃討しようとしたのだと思うが、このままこのポータルマリアを一度デリートして、あやつらの好きなように新たな世界を一から作るつもりなのかもしれん。」
「世界を作り直すって、そんなことできるんですか?」
「それが神の仕事の1つだ!世界の構築には長い年月と細かい設定が必要になる。面倒なことは嫌いなあやつらには向かないと思うのだが、この世界が自分らの思い通りに動かなくなって、かなりイラついてるのかもしれないな。」
「それは精々しますが、それじゃーゼウスローゼン様はメノウさんの件をどうするつもりですか?」
「メノウは今の私にはどうにもできん。だから放置するつもりだ。代わりに今から転生者を連れて神界へ乗り込もうと思ってここへ来た。」
「このまま神界に!?でもそうすると人間は滅びてしまわないですか?」
「私が神の座に戻ることができればメノウを止めれるが、おそらくそれまでに今いる人間の9割以上は死ぬことになるだろう。下手をすれば滅ぶこともあり得るだろう。だが、その場合はまた一から造り出すことも可能だ!多少時間はかかるがな…」
「ねえそれって…今生きている人間は見捨てるって話ですよね?作り直すって、それって全然違う話です!俺にはそんな選択はできません!この世界に今生きてる人たちもそれぞれ誰かに愛され大事に思われてる存在なんです!代わりなんてないんです。
俺たちはゼウスローゼン様が神の座に戻って欲しくて命懸けで戦いたい訳じゃない!新たに一から作る存在になんて興味はないんです!俺たちは俺たちの大切なものを守る為に命を賭けてるんです!俺は神界には行きません!俺は俺の大切なものを守る為にメノウさんを止めてみせる!!」
「オリオン…それでは転生者の統率が乱れ、転生者たちが大勢死ぬことになるだろう。」
「ゼウスローゼン様、私も神界になんて行かないわよ!私の一番大切なものはオリオンです。だからオリオンと一緒に最後まで戦います!!」
「アリエス、ありがとう!よし、やってやるか!!」
「オリオンさん、俺たちだって転生者仲間たちが大事です!そして何よりもオリオンさんとアリエスさんの存在が大事です!!俺たちだって一緒に戦いますよ!なあ、みんな!?」
「ああ!」
「当然です!」
「ええで!やったるわ!」
「あの神様たちをぶっ倒すのも魅力的だが、オリオンさんとアリエスさんの為になれる方がもっと魅力的だ!」
「ぶち殺してやる!」
「おいルル、俺はメノウさんを本気で戦い倒すつもりだが、できれば殺したくはないと思ってるんだ!」
「オリオンさん、それ強敵と戦う前に甘過ぎ!そんな覚悟じゃ周りが危険になっちゃうよ!」
「そこは俺も履き違えないつもりだ!俺はメノウさんよりもお前たち仲間の方が大事だ!!そしてその中でもアリエスが大事だ!!だからもしもの時は躊躇わずにメノウさんを殺す!そこは許してくれクラリスさん。」
「メノウ様がそんな存在だったのには驚いたけど、オリオンのできれば生かしたいと言ってくれた気持ちだけでもありがたいわ!皆さん、メノウ様のことお願い、止めて下さい!そして死なないで!!
カシム、もし死んだらあの世まで追いかけるからね!」
「クラリス、俺は君の為にも絶対に死なない!だから待っていてくれ!!」
「うん。」
とうとうこんな状況なのに抱き合ってキスまでし始めやがった。付き合い始めはこれだから…
「そうか転生者たちはオリオンの意思を何よりも尊重するようだな!よい仲間になったようだ。では神界行きはこの戦いが終わってからとしよう。メノウは強いぞ!!倒せないと悟ったときには私に声をかけろ。転移で神界へ逃がすことくらいならできる筈だ。メノウは神界には行けぬからな…
オリオン…無理だろうが、可能ならばメノウを気絶させてくれ!意識さえなくなれば私の力でメノウを正気に戻してみせる!」
「ゼウスローゼン様、それは本当ですか!これで希望がさらに広がりました。じゃー行ってきます。急がないと王都は滅びてしまうので…」
俺たちが洞窟の入り口へ向かおうとしていたら、甦らせた人間たちから止められた。
「待ってくれ!俺たちにも手伝わせてくれ!お前たちの戦闘にはとても参加できねーだろうが、俺たちだって救助くらいできる!!」
「情けねーな!Sランク、Aランクが揃いに揃って救助活動しかできねーなんてな…だが、俺らだって同じだ!救いたい命がある!守りたい誇りがある!だから手伝わせてくれ!!」
「お前らの意向は分かった!私は魔族も救ってやる!最初にその洗脳のようなものを解け!お前らの戦いの邪魔にならぬように私たちが避難させといてやる!!」
「ギルマス!ありがとう!!皆さんもありがとうございます!よろしくお願いします!!」
俺たちは王都の方へ全力で駆け始めた。俺とアリエスの速度は光速に近い速度で動くことができるので、他の転生者たちは置いていく形になってしまうが、今は待ってる時間がない!
あの立派な王都は見る陰ない姿を晒していた。南側の城門は消え失せ、その先にある商業地の半分が瓦礫の山と変貌していた。
「ヤバい!また魔力を溜めているようだ!!もう一度さっきの攻撃をしようとしてるのかもしれない!」
「そんなことされたら王都は滅びかねないわ!急いでメノウさんを止めるわよ!!」
魔力の収束点に向かうと、そこにはクラリスさんと変わらぬくらいの年齢に見える整った顔をした魔族の男性が目を閉じて詠唱を行っていた。俺とアリエスはその男、メノウさんに向けて攻撃を仕掛けた!
「「覇王天翔破!!」」
俺たちは強力な風属性の衝撃を飛ばすスキルを放った。
「「融合!!」」
俺らはタイミングと気の性質を合わせ、2つの覇王天翔破を融合し、さらに強力な技へと進化させた!融合された覇王天翔破は大きさも見た目もさほど変わらないが、威力は小規模な水爆くらいの威力がある。
覇王天翔破はメノウさんの全身を巻き込むように引きちぎり、バラバラに刻んでいった。技が消える頃にはメノウさんの体は細切れの肉片と大量の血だけになっていた。
「これ…やり過ぎて一気に殺しちゃったんじゃないの?」
「いや、俺の予想が当たっていたらすぐに復活する筈だ。メノウさんも超回復のスキルを持ってる筈だから。」
「超回復って死ななかったら回復できるだけでしょ?あれ、どう見ても死んでるわよ。」
「ゼウスローゼン様は言った。メノウさんは俺たちよりも強いと!なら俺らでも取れるスキルは全て持っていると仮定した方がいいと思う!おそらくメノウさんはフェニックスのスキルを持っている。1日1回までは死んでも自動で甦る筈だ!!
だがこれで多少の時間は稼いだ。神言で魔族の心を解放する!!」
俺は飛翔の魔法を放ち、空高く舞い上がった。そして光と水と氷の魔法を組み合わせ、自分の周りを目だ立たせ、地上から注目を集めるように仕向けた!!さらに風の魔法で声を何倍にも出力を上げ、神言を使い語り始めた。
「皆さん、戦いを止めて下さい!人間も魔族ももう戦う必要はありません。魔族は邪神に心を操られていたに過ぎません。これからその洗脳を解除します。魔族はもう人間に対して怒る必要はありません!憎む必要はありません!大丈夫、人間は敵ではありません!
人間の皆さんも同じです。魔族は恐怖の対象ではありません。その考えは教会と国が間違えた教育をしたことで植え付けられた嘘です!魔族は敵ではありません!
ここはこれから大きな戦いの地となります。周りの者たちで協力し合い、急いでここから離れて下さい!」
俺の言葉の力でそこら中で起きていた戦いは終わり、人間も魔族も協力しながら共に逃げる状況ができあがった!
俺が急いで地上に戻ると、既にメノウさんとアリエスの戦いが始まっていた。
「オリオン、この人ヤバいくらい強いわ!私たちよりステータスも少し上みたい。それにまるで目がいくつもあるかのように動きを読まれるの!」
「心眼や並列思考か何かか?俺らにはない能力だな!それにやっぱりすぐに甦ったようだな。」
「オリオンが空に上がってすぐ血も肉片も1つに集まって復活したわ。しばらくは避難の為の時間稼ぎね。」
「ああ、しかしダンジョンのクリア報酬で全ステータス2倍になってるのに、ステータスで負けるのか。ゼウスローゼン様もとんでもないのを作ったな!」
「そうね。でも戦えないほどのレベルでもないわ!!9年前は力の差がありすぎてどうしようもなかったものね。。工夫次第で全然いけるわ!!」
「そうだな!あの頃とは違う!俺たちは道を開く力を持っている!!絶対にメノウさんも救ってやる!」
「うるさい!うるさい!うるさい!俺は救われたのだ!ようやく長い長い我慢ばかりの一生から解放されたのだ!!人間は弱い癖に汚い方法で他族を苦しめる!魔族は不満がある癖に話し合おうとしない!力で解決したがる癖に子供を作ろうともしない!
俺は全てを殺す!俺は全てを破壊し尽くしてやるのだ!!」
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