第44話

 奥の部屋に入るとそこにはまるで時間が止まったかのようにただ立ちすくんでいる大勢の人間の姿があった。俺の神言でじっとしていろと命令したから、俺がそれを解除するまでは死ぬまでこうして止まってる状態なのだ。



「動いていいよ。」



俺の言葉で全ての人間が動き出す。



「こんにちは。おそらく皆さんは自分に今何が起きたか分からくて困惑されてるのではないでしょうか?皆さんは魔族に殺されて一度死にました。」



「ではここはあの世なのか?」

「にしてはなんでこんな殺風景な場所にいるんだ?」



皆俺のあっけらかんとした説明と現状に戸惑ってるようだ。



「落ち着いて下さい。皆さんは一度死にましたが、俺が生き返らせました。洋服や装備品の損傷までは修復できませんので、服などが必要な方は俺たちにご相談下さい。」



「生き返らせた?彼は神なのか?」

「俺たちは何の為に生かされたんだ?」



「お前はオリオンじゃないか!?何故お前が生きているんだ?お前は9年前に教会に処刑された筈だ!!」



「お久しぶりです、ギルマス。俺たちはあの時奇異なことにその教会の信仰する神様から救われたんです。そしてそのままこの9年、神様と俺たちの共通の敵である邪神たちと戦う為に力を付けていました。」



「神様?邪神?何を言ってるんだ?」



「今回の魔族の進行もその邪神たちの横やりだと思います。何らかの方法で魔族たちの心を人間への怒りや憎しみの感情で侵したみたいです。」



「何故オリオンにそんなことが分かるのだ?」



「実際に魔族の方と話して教えてもらいましたのでそれが分かるだけです。」



「騙されるか!!魔族は元々あんな奴等だ!実際に戦って俺は確信した!!国の教えはマジだったと…魔族と話なんてできるかよ!!


ギルマス、こいつのこと知ってるんですよね?誰ですこいつ!」



「そいつはオリオン、9年前に神を冒涜した罪で教会に処刑されたCランク冒険者だ!」



「はあ?Cランクごときがこんなとちくるったことばかりほざいてんのかよ!」



「実力はあなたよりもはるかに上ですけどね。ギルマスこの方は?」



「彼はSランク冒険者のギルバードだ。疾風のギルバードといえばかなり有名だぞ!」



「そういうことだ!よくもそんな俺にあなたよりはるかに実力は上なんて言えたな?」



「事実ですから。疾風の二つ名を持つということはスピードに自信があるのですよね?これが見えますか?」



俺はギルバードさんの背後に回って、肩にそっと手を置いた。



「なっ!?一体今何をした?」



「ゆっくり背後に移動してそっと肩に手を置いただけですが?俺のステータスは全て2万近くありますので、普通の方には対応は難しいのです。」



「ふざけるな!!俺でも俊敏4000くらいなのに、お前みたいな若造がそんなステータスあり得るわけねーだろーが!」



ギルバードさんのシャクに触ったようで、本気でナイフで斬りかかってきた。が、遅い…止まって見える。俺はナイフを指2本で挟み、動きを止めた。



「ぐっ!馬鹿な!!俺のナイフを指で挟んで止めただと?動かねー!何なんだお前は!?」



すぐに頭を切り替えナイフを手放し、別のナイフを両手に持ち、斬りかかってくるギルバードさん。



「ですからオリオンです。昔の俺を知ってるギルマスですら俺の話してることが本当だとは考えてもらえてないようです。申し訳ないですが、ギルバードさんには一回死んで頂いて、みんなの前で蘇生させて頂きます。本当に俺が皆さんを蘇生したことを理解してもらった方が話が早そうです!」




 俺は手刀でギルバードさんの首を切った。



「なっ?オリオン!やりすぎだ!!ギルバードより実力があるのは誰の目から見ても明らかだった。そこまでする必要なんてなかっただろ?」



「ギルマス?話を聞いてなかったのですか?俺はみんなの前で蘇生をして、ここにいる方たちを生き返らせたのが俺だってことを分かって頂こうとしていただけです。ほら!」



俺が無詠唱でエクストラヒールを放つと、ギルバードさんの体は眩い光に包まれ、首から再び頭が生えてきた。



「次は蘇生します。」



同じく無詠唱でリバイブを放ち、ギルバードさんを蘇生していく。



「あれ?俺は何をしてるんだ?俺はあの小僧に斬りかかって…」



「ギルバード、信じられないかもしれないが、いや、私も信じられないことだが、オリオンは確かに一度お前の首を跳ねて殺した。そしてオリオンが魔法を放つとその首が生えてきて、今度は甦った。」



「ギルマスまで勘弁してくれよ!俺が死んだって?笑えねー冗談だ!!」



「それを見たら私の言ってることが嘘でないことが分かるだろう。お前の足元に転がってるだろ?」



「何がだよ?これか?この首がどうした…ま、まさか…!」



「あー、間違いなくお前の首だ!」



ギルバードはその首を足で蹴り顔を見えるように転がした。



「うわぁーーーー!!俺だ!俺の首がここにある。」



ギルバードは手で自分の顔や首を必死で触っている。



「分かってもらえました?俺の話してることが全て本当だということが!?」



「助けて…化け物!!俺に寄るな!チクショー!」



「ギルバード、そこで挑発してどうする!オリオンにお前をこれ以上どうかする気なんてないよ!そうだろ?」



「ええ、俺は皆さんに生き残って欲しいと思ってます。それと同時に魔族の方たちにも滅んでもらいたくないと考えてます。」



「は?それはまた笑えない冗談だな!」



「いえ、冗談ではありません。先ほども話しましたが、今回の進行は邪神の仕業です。魔族は何らかの目的の為に使われた操り人形として使われたただの駒です。彼らに一度は殺されたあなたたちには思うところがあるのは分かりますが、俺は人間も魔族も共に救うつもりです!」



「そんなこと不可能だ!今さらどちらも止まらない。」



「それを何とかする為に俺はここに来たんです!俺は本当に魔族と人間が恨み合って戦争をしてるのならば何ら介入するつもりなんてありませんでした。


しかし、人間側は教会や国が魔族の実体をねじ曲げ教育をし、今回邪神が魔族の心をねじ曲げました。


だから今度は俺たちがこの戦争の結果をねじ曲げる番です。俺には魔族の精神汚染を解除する手段があります。」



「本当か!ならばそれで戦争は終わるではないか!!すぐにやってくれ!」



「それでは戦意を失った魔族に人間が報復をして魔族が滅ぶ恐れがあります。言ったでしょう?俺は魔族も救いたいのです。」



「ではどうするというのだ?」



「その為の第一段階としてまず人間の兵を籠城するように仕向けました。しかし、今の魔族を相手にするにはメイン戦力であったあなたたちを失ってしまった人間にはとても勝ち目はないことにすぐに気づくことでしょう。


そこに俺たちの仲間である魔族が降伏勧告をしに行きます。」



「降伏などするわけがないだろうが!!我々人間は最後の一兵になるまで戦うに決まっている!それに私たちも生きてるんだ、再び戦線に戻れば勝ち目も見えてくる筈だ!!」



「ここにいる人たちは戦争が終わるまではここから出すつもりはありませんよ。それに俺がいう降伏勧告の内容は、人間側には大して痛くもない内容です。今回既に滅んでしまったヤーマン領を魔族の土地として認める代わりに、魔族は兵を引き上げるというものです。敗けが確定してる状況でこの勧告を断ることはないと思いますが?」



「確かにそうかもしれないが、それまでに多くの被害が出るではないか!やはり私たちは戦線に戻らせてもらおう!」



「被害は勿論双方に出ます。それを少しでも少なくする為に俺たちが動いているのです。俺たちがここに来なければ、今日のうちにでも王国は魔族によって滅ぼされていたことでしょう。それにこれから出る被害者たちも出来る限り蘇生していくつもりです。だから皆さんも俺に協力してもらえませんか?」




 俺はこれでたとえ協力してしてもらえなくとも、俺たちだけでも俺の作戦を最後まで貫き通すつもりでいた。そして何とかできると考えていた。しかし、ここから俺の予想をはるかに越えることが次々と起こっていったのだった!




ドッカーン!!



「な、何だ?今の爆発音は!?」



ビリビリビリ!



どこかで物凄い巨大な音が鳴り響き、その後この洞窟が激しく震えだしたのだ。



「地震か?念のため、洞窟が崩れないよう増強する!アリエス、カシム、何が起きたか外を確認してきてもらえるか?」



「分かったわ!」

「分かりました!」



「他はここにいる人間の安全の確保に努めてくれ!」



「「はい!」」



俺は土属性の魔力を練って、洞窟の周りを圧縮しコーティングしていった。それが終わり一段落したところで、外に様子を見に行っていたアリエスとカシムが呆然とした表情で戻ってきた。



「外で何が起こっていたんだ?」



「王都がさっきの爆発で半壊していたわ。おそらくはたった一発の魔法だけで起こったことよ!あのままじゃ、王都は1時間も持たないわ。」



「何だって?そんな馬鹿な!!そんな魔法いくら魔族でもさすがに無理だろう!?」



「メノウ様よ!そんなことできるのはメノウ様しかいないわ!」



「メノウ様ってのはまさか俺たちと同レベル以上の強さを持つのか?」



『オリオン、聞こえるか?トリスだ!』



『聞こえてるが、どうした?こちらも今ちょっと取り込み中だ!』 



『ゼウスローゼン様がお前に話があるそうだ!今から俺たちもそちらへ転移するからそちらで話そう!!』



『えっ?ここに来るのか?』



「ゼウスローゼン様とトリスがここに来ると言ってる!」




 次の瞬間、目の前に巨大なトリスと以前よりはるかに神々しくなられたゼウスローゼン様が現れた。



「オリオン、久しいな!よく転生者たちを導き、成長させてくれた。感謝するぞ!」



「あっ、いえ、ゼウスローゼン様もお元気そうで何よりです。以前より神々しくなられましたね?」



「あれから様々な方法で神力を取り戻しておったからな!」



「ところでゼウスローゼン様、今日はどのようなご用でしょう?こちらも急がねば人間という種族の大部分が死んでしまうことになりそうな状況なのですが…」



「そうだったか…私の話はおそらくその話と関わり合いがあると思う。先ほどこの近くでメノウという私の神獣の力を感じたのだ!」



「へ?メノウさんがゼウスローゼン様の神獣ですって?ではやはり彼は魔族ではなかったのですか?」






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