第39話

 馬車を使ってるとはいえ、残り9名全員の家を訪ねて回るのはそれなりに時間が掛かってしまったが、そこからは俺が手に入れたチートで全員のGPを稼ぎ、まずはそれぞれの得意武器の神スキルと全能力最大値解放を優先して取得してもらうことにした。中には武器ではなく、魔法の方を選ぶ者もいた。


その方法はナジムさんとマリネさんには申し訳なかったが、エリーゼダンジョンから始まり、ギヤマンダンジョン、グエンダルダンジョンを俺たち転生者13名全員で完全攻略したのだ。


入り口の兵には神言で言いくるめれば、何の問題もなく入ることができた。


戦闘は最初はアリエスが他を守り、俺が今回得たチートスキルを利用して1人で無双して回っていたのだが、エリーゼダンジョンの後半には皆スキルを取得することができ、少しずつ戦いに参加するようになっていった。


そしてギヤマンダンジョンの中盤には全能力最大値解放も取得でき、全員が戦力と変わっていった。そして最強のダンジョンであるグエンダルダンジョンもそこまで強くなった俺たち転生者13名の力の前には大した問題もなく攻略できた。


それもその筈だ。世界最強のステータスを持ち、各武器の最強のスキルを持つ人間が13名も揃ってるのだ。しかも万が一怪我をしても、どんな損傷すらも俺のエクストラヒールで回復でき、例え死んでも俺のリバイブで蘇生すら可能なのだ。負ける筈がないのだ。



 グエンダルダンジョンを完全攻略する頃には、全員がそれぞれ思うスキルをさらに1つ取得でき、より強さを増していった。全員がこの9年ちょっとの間にずいぶんと成長していた。


ちなみに各ダンジョンの制覇報酬はこんな感じだった。



カッパーダンジョン(初心者ダンジョン) 体力2倍 

カルモアダンジョン 力2倍 

ラムーダダンジョン 俊敏2倍 

バラドスダンジョン 生命力2倍

エリーゼダンジョン 魔力2倍

ギヤマンダンジョン 精神力2倍

グエンダルダンジョン アイテムボックス

全てを制覇     転移魔法



 これによって、俺とアリエスは転移魔法を覚え、これまで行ったことのある場所には転移で移動が可能となった。アイテムボックスはゲームのように持ち物を持ち運ばなくても、見えない倉庫のようなものの中に入れておくことができる魔法で、ラノベでは最初から持ってることが多いが、実際にそのスキルを持つとちょっと便利過ぎるくらいで逆に引いてしまった。



 ゼウスローゼン様との約束の時まで残り半年ほどとなった俺たちは、ここで一旦解散することにした。いくら強くなったとはいえ、邪神たちとの戦いに参加するのだ、危険なことは間違いない。それぞれ思い思いに家族と過ごすのもいいし、さらに特訓するのもいい、集合の場所と日時だけを決め、俺らは一度離れた。



 俺とアリエスも一度実家に帰ることにした。俺たちは9年前に死んだことになっていたので、驚かれるのは分かっていたが、やはり命がかかった戦いに挑むのだからその前にどうしても会っておきたかった。


久しぶりに会う両親の姿は、驚くくらいに老けていた。俺たちの死の報告を聞き、そのショックで老けてしまったという。俺たちが生きていたことを知ると泣いて喜んでくれた。そして、俺たちの生まれの秘密、9年の失踪の理由を話し、これからの戦いのことを告げると2人は悲しそうにこう言った。



「何故あなたたちばかりがそんなに苦労を背負い込まないといけないの?ずっと苦労ばかりして生きてきたのに、やっと戻ってこれたのに、今度は邪神との戦いに挑むなんて…意味が分からないわ。もっと普通の幸せを送れないの?」



「俺も同じように思っていたんだ。やっと呪いを解呪して人並みの生活を送れると思った矢先に、9年前あの邪神たちの策略で俺たちは教会に処刑された。アリエスが死ぬ瞬間を見たとき、俺は全てに絶望した!俺たちの平和はあの邪神たちをどうにかしなければ、この先何度でも邪魔をされるのが分かるんだ。俺たちは平穏な未来の為に、戦ってくるよ!!」



「そう…止めても無駄そうね…」



「ごめん。それしかないんだ。」



「なら、今度もちゃんと生きて戻ってくるのを約束してちょうだい!」



「ああ、約束する!俺たちは生きて帰って、2人に孫の顔を見せるつもりだ!!たくさん子供を作るつもりだからゆっくりした老後は諦めておいてよ!!」



「まあ、それはいい案ね!楽しみにしてるわ!!」



「ああ。」




 それからアリエスの実家に向かうと、道場には以前のような活気がなく、門下生も減ってるように見えた。


ブラウス師範は俺たちの顔を見ると驚き、そしてまずは俺をぶん殴った。俺には止まって見えるパンチだったが、それを甘んじて受けた。



「オリオン!生きていたなら何故10年も顔を見せないのだ!!俺たちがどれだけ心配をし、お前たちの死を嘆いたと思ってる!アリエス、よく無事で帰った。本当によかった。」



ブラウス師範はアリエスを抱き締め、俺たちはこれまでの話を全て正直に話した。そしてこれからのことを話すと、あからさまに訝しげな顔になり、俺に怒鳴りつけた。 



「そんな危険な戦いに何故アリエスを連れていく!?お前は9年前もアリエスを一度は助けられなかったのだろう?今度もそうじゃないのか?」



「あの時と違い、俺もアリエスも強くなりました!そして…そんな危険な戦いだからこそ俺たちはお互いを助け合うために共に向かうのです!!俺はアリエスが好きです!あの時アリエスを失ったと思ったとき、俺の生きる力は無くなりました。


俺は命の全てを使いアリエスを守ります!そして共に帰ってきます!!俺たちはどちらかが欠ければもう1人も死んでしまうのです!だからこそ俺たちは2人で幸せに暮らしていけるように、この戦いを避けるつもりはありません!」



「くっ!勝手にしろ!!


…アリエス、オリオン、必ず2人で生きて帰るんだぞ!!」



「「はい!!必ず…」」




 俺たちが両親たちとの話をしていた頃、神界でも動きがあった。



『とうとう見つけた!何故か転生者たちの足取りが急に追えなくなってたと思っていたら、みんなで協力して強くなっていたようだね。みんな随分とスキルを会得してる!』



『厄介ね!もう前の時みたいに教会程度では太刀打ちできそうにないわね!じゃーあれを動かしてみる?』



『あれかー!それはそれで今までとは違う絶望の姿を見れるかもね?適当なところで止めないと、世界を作り直しになりかねないけどね。』



『じゃー、いっちゃおう♪』



『そうね!いっちゃおうか!!』




 その日、ポータルマリアには1人の魔王が起動した。彼は前の神ゼウスローゼンが作り出した神獣の一柱であり、普段は地上で大人しく世界の均衡を見守る役目を担っていた。彼の本来の役割は、世界作りに失敗した時にその世界を滅びを与えること。彼の力は正に魔王と呼ぶに相応しいものであった。


本来の彼はとても優しい性格であり、その温厚な人柄の為に彼の姿をモデルに作られた種族である魔族の中でも異端ではありながら、尊敬もされていた。


この日ファーレとベトログによって世界の破壊者としてのスイッチを入れられた彼は、その配下である魔族たちの心にも強い影響を与えることなった。


魔族たちは元々虐げられてきた歴史の中で持つ人間への負の感情を爆発的に強め、彼と共に人間の国へ進行を開始した。



 この影響は彼とは遠く離れた王都にいる人間好きで優しい魔族であるクラリシア・ブリジストンにも大きく及ぼした。彼女はエルフに変化し、その名をクラリスと名乗り、王宮で王女の護衛として働いていた。以前オリオンにダンジョンの罠の見破り方を教えてくれた魔族である。


彼女はこの日、突然襲ってきた人間への強い嫌悪感と怒りの感情に飲まれ、その場で尊敬し仕えていた王女マリア・スター・カルナックを自らの手で殺害してしまう。



「なっ!クラリス、気でも触れたか!?」



 仲間の護衛たちが彼女を囲む中、そこで一度は正気を取り戻したのだが、自らの引き起こしたことを理解すると、「な、何なんだこれは?何故私が大切なマリア王女を殺さねばならん!何なのだこれは?」と涙を浮かべ悲痛の叫びをした後、再び心を闇に飲まれていった。


「キャハッハハハッ!」という高笑いと共に、闇に心を飲まれたクラリスはその場で変化を解き、本来の魔族の姿に戻ると、その場にいた兵たちを無惨に殺し始めた。そしてそのまま殺戮の限りを尽くしながら、王の元へと向かったのだった。




 謁見の間で貴族と謁見していた王の元へ兵から連絡が入ったのはそのすぐ後のことだった。



「王よ、お逃げ下さい!魔族がマリア王女を殺害し、ここに迫っています!!」



「何だと?何故魔族がこの王宮に入っているのだ?誰も気づかなかったのか?」



「魔族はエルフに変化し、長い間マリア王女の護衛を勤めていたそうです。きっとことを起こすタイミングを見計らっていたのでしょう!それよりも早くお逃げ下さい。その実力は凄まじく、今いる兵たちだけでは止められません!!」



「分かった!すぐに逃げよう。」



ドッカーン!



その時凄まじい爆発音と共に、謁見の間の巨大な扉が吹き飛び、王の前に跪いていた兵の背中にぶち当たり止まった。



「見ーつけた♪あなたが死ねば人間はきっと混乱するわね!キャッハハハ!そうなれば楽しいでしょうね!じゃーもう死んでいいよ!!」



クラリスは冷たい笑みを浮かべ、王を風の魔法で切り裂こうとした。だが、王の身につける破魔のネックレスが起動し、クラリスの放った風の刃はことごとく消されてしまうことになった。



「ちっ、厄介なものを身に付けてるね!」



そう言い、今度は直接ではなく王のすぐ傍に大きな爆発を起こし、その衝撃だけで王を吹き飛ばした。起き上がろうとしている王に止めを刺そうと歩みだしたところで、近衛兵士団長であるローゼンバークがそこに現れた。



「王に何をしてる!!穢れた魔族は王から離れろ!」



「あー、あなたは弱い弱いローゼンバークじゃない。私がいつも訓練の時に手加減するのに苦労してたのをあなたは知らないでしょうね?」



「何だと?お前は何者だ!?」



「私はクラリスよ!エルフの姿じゃなかったから分からなかった?」



「クラリス!お前は魔族だったのか!?化けて王宮内部に入り込むとは、魔族とはやはり狡猾の極めだな!!死んでその行いを悔いよ!!メテオストライク!」



ローゼンバークの放った巨大な炎を纏った剣が素早くクラリスに迫るが、クラリスはそれを面倒臭そうに、無詠唱で黒い炎の塊を飛ばした。


ローゼンバークはその黒い炎を自らの剣で切り飛ばそうとしたが、ぶつかりあったその力の差は歴然であった。一瞬でローゼンバークの剣は吹き飛ばされ、そのままその体そのものをも燃やし尽くしてしまった。



「あぁ…まさかローゼンバークまでこんなにアッサリと…!もう儂は終わりだ。」




 クラリスがナイフで王を斬りつけようとした時、その声が響いた。



「プラズマウェーブ!」



クラリスですら完全に避けることができない雷鳴の剣撃が謁見の間を横断し、壁を吹き飛ばした。



「痛っ!誰よ!?」



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