第38話
俺が静かに息を引きとろうとしていた狭間の時間に何かが起きた。俺は目を閉じていたし、半分死にかけてアリエスとの思い出の走馬灯を見ていたので何が起こったかは分からない。
俺は何かの背中に乗せられ、首を締め付ける力が抜けていった。苦しくない。何故?もう死んだからか?俺は今あの世にいるのか?いや、違う!
俺は再び目を開けると、そこにはトリスと知らないおじいさんの姿があった。
「な、ゴホッゴホッ!」
「オリオン、大丈夫か?間に合って良かった!遅くなって本当に済まない!!」
「はぁっ?トリス、何で今さら現れんだよ!何で今さら助けるんだよ!!助けを求めた時に何もしてくれなかったくせに、絶望して死を受け入れた瞬間に邪魔してくるなよ!!
もう遅いんだよ!アリエスは死んだんだ!!俺だけ助かったって何の意味もないんだ。このまま死なせてくれよ!!」
「それはできない!勝手な話だが、我はオリオンに死んでもらうわけにはいかないのだ!!」
「はっ!何だよそれ?」
「それよりも早くアリエスを救うぞ!急がねば救うことが完全にできなくなる。」
「アリエスを救うことができるのか?」
俺はその言葉を聞いた瞬間、瞬時に頭を切り替えた。救えるのならば必ず救ってみせる!!
「急ぐから痛みは耐えろ!」
「何でも構わない!やれ!!」
トリスは魔法で俺の拘束具を俺の腕の肉ごと切り裂いた。このくらいの傷大したことない。俺は急いでそよ風で首の縄を切り裂いた。多少首も切れてしまったがどうでもいい。
トリスはすぐに移動し、アリエスを持ち上げた。
「早く首輪を取れ!ところでそっちの男も助けた方がいいのか?」
「カシムも助けられるのか?なら頼む!」
アリエスの首輪を切ると、トリスは同じように移動しカシムを持ち上げた。首輪を切り終えると、トリスは地上へ降りたった。
「魔物だ!魔物の襲撃だ!!兵よ戦え!」
ようやく状況を飲み込んだのか教会の関係者たちが大騒ぎを始めていた。
「邪魔されるのも面倒だから、全員麻痺させておく。」
トリスが、そういうと一周クルリと回っただけでその場にいた人間たちは皆、ピクリとも動かぬ人形と化した。そしてこれまで動かなかった知らないおじいさんが優しく語りかけてきた。
「君がオリオン君だね、私はゼウスローゼン、殆ど力は失ってるが一応この世界の神をしていた者だ。神だったのでそれなりのことはできる。その1つが私の権限で多少のGPを君に譲渡することだ。それを使って、『エクストラヒール』と『リバイブ』を取得してご覧。
エクストラヒールは肉体のあらゆる損傷を治癒できる魔法だ。リバイブは死後30分以内ならば蘇生を可能にする魔法だ。ふむ、君の場合それを使う魔力も足りないようだ。『全能力最大値解放』も取るといい。それで使用が可能となる。」
俺は自身のステータスを見て驚いた。GPが一気に3000万近く増えていたのだ。この3つを取得しても全然余るのだ。俺は考えるより先にスキルを取得していった。
「用意できたようだね!ではまずはエクストラヒールで体を健康な状態に戻してやるんだ!それが終わったらリバイブで蘇生だ。」
俺は言われた通りにしていった。するとアリエスの顔に生気が戻り、真っ青だった顔に赤みが差していった。
「ん、んん…あれ?ここはあの世?」
ガバッ!俺はアリエスを強く抱き締めた!!
「アリエス!アリエス!!救えて良かった!!本当に良かった!」
「きゃっ!オリオン?ちょっ!苦しい!強すぎる!!死ぬ、死んじゃうから!!」
「えっ?あっそうか…ステータスが一気に上がったからか!!ごめん、アリエス。」
「痛たたたっ!痛いってことは現実?私生きてるの?」
「そうだ!トリスとゼウスローゼン様が来てくれて、俺たちを救ってくれたんだ!!」
「本当だ!トリスとあの人がゼウスローゼン様?ありがとうございました。」
「うむ。それよりもその男はいいのか?」
「あっ!カシムのことすっかり忘れてた!!」
俺は慌てて詠唱を始めて、エクストラヒールとリバイブをカシムにも使用した。
「ん…ここは?オリオンさん、アリエスさん、すいませんでした。俺のせいであの世に2人を連れていくことになってしまいました。」
「カシム、ここは現実だよ!俺たちは助かったんだ!!このデカイ鶏のようなのが神獣コカトリスで俺たちの盟友であるトリスで、こっちがその主であるゼウスローゼン様だ!二人のおかけで俺たちはこうして生きているんだ。」
「えっ?神様ですか?」
「うむ。今の私を神といっていいのかは少々怪しいがの。」
「どういうことですか?」
「私は邪神によって神としての多くの力を無理やり奪われ、この地上世界の海深くにある次元の狭間に封印されていたのだ。それをトリスに救われ、ようやく外に出ることができたのじゃが、最初は神としての力は殆ど皆無であった。」
「しかし、俺に大量のGPを頂けたではないですか?あれは神の力ではないのですか?」
「それはの、お主たちがコカトリスと共にダンジョンを制覇して回ったことによりコカトリスが昔の私の力を吸収していたのだ。それを返して貰ったことによって多少の力を取り戻したというわけだ。」
「なるほど…それでは先ほどトリスの言っていたのは、他のダンジョンも俺たちに制覇して欲しいということですか?」
「いや、それは違う。それは私だけでも簡単にできる。次元の座標を私が作ったから全て知ってるからな。だが全部のダンジョンの力を私が吸収したとしても、尚、私の力は神としては大したことができない筈だ。
そこでだ。私はそなたらにあの邪神たちとの戦いを手伝ってもらいたいのだ。正確には私が本来の力を取り戻す為の時間を稼いでもらいたいのだ。」
「あの邪神たちと俺たちも戦えるのですか?」
「お前たちの持つスキルは私から見てもスゴいものばかりだ。幾つか取るだけでも、あの邪神とも多少は戦える程度の実力になれるであろう。
私たちがお前に頼みたいことは、先ほど与えた力で今現存する転生者たちを率いて成長できるように導いてやって欲しいのだ!
私は私でその決戦へ向けて準備をしておくつもりだ。」
「なるほど。その決戦の時期はいつ頃でしょうか?」
「できれば10年後には決行したい!間に合わせられそうか?」
「それは何とかしてみます。ところでこの会話をあの邪神たちに聞かれたらヤバいのでは?」
「私たちがここに現れる直前にこの一帯の映像に介入してお前たちがあのまま死んだ上、埋められる映像を見せるようにしている。この会話はあやつらには見えておらんので安心するがいい。」
「それはいいですね。それではここでの目撃者の記憶もどうにかできますか?」
「それは私がしなくてもお前がすればいい。『神言』というスキルを取得し、対象をイメージしながら発動した上喋りかければ記憶だろうとある程度は好きに扱えるだろう。」
「恐ろしいスキルですね。」
「使い方次第では危険なものになるな。そこはトリスから聞いたお前の人格を信じよう。そして『全干渉無効』のスキルを取得すればお前の周囲で起きる出来事にはたとえ神ですら干渉できなくなる。つまり姿を見たり、声を聞くことは不可能になるのだ。」
「その2つがあれば、あの邪神たちに気づかれることなく転生者も集められますね。」
「よし、それでは私たちは独自で動く。お前たちはお前たちで好きに動いてくれ!」
俺は早速必要そうなスキルを次々に取っていった。正直恐ろしく強くなり過ぎてて引くレベルのパワーアップだ。
名前:オリオン
種族:人間
スキル:共通語理解、体力2倍、力2倍、俊敏2倍、生命力2倍、完全解呪、不老不死、エクストラヒール、リバイブ、全能力最大値解放、神言、全干渉無効、拳神、全属性魔法、状態異常完全無効
GP:2857623
称 号:異世界転生者、ファーレ神の加護を受けし者、ベトログ神の呪いを乗り越えし者、魔力切れジャンキー、神獣コカトリスを救いし者、神獣コカトリスの盟友、転生者たちを救いし者、ゼウスローゼン神の加護を受けし者、カッパーダンジョンを制した者、カルモアダンジョンを制した者、ラムーダダンジョンを制した者、バラドスダンジョンを制した者
体力:9999(×2)
力:9999(×2)
俊敏:9999(×2)
魔力:9999
精神力:9999
俺はこの場にいた人間たちを全員意識し、神言を放った。その力により、全員の記憶は改竄され、トリスの乱入について忘れ、俺たち3人は死んだ上、教会の者によって土に埋められた記憶へと書き換えた。
広場にはちょうどメネシスとその父であるダナルさんもいた為、メネシスには事情を話し俺たちと同行してもらうことにし、ダナルさんには申し訳ないが記憶の改竄でやはり俺たちは死んだことにし、メネシスはそれを悲しんで他の転生者たちにその報告に行ったことにしておいた。
俺たちはすぐに王都を離れ、各地に散っていた転生者たちを訪ね歩いた。家族たちには神言を使い、旅の許可をもらい、俺たちが来たことは記憶から消していった。
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