第37話
俺たちが大聖堂の一室で過ごすようになって3日が経過した。あれからも時々トリスに心話を送ろうとするのだが、相変わらず通信できない。教会はあれから特に干渉してくることもなく日々が過ぎていっている。
「お二人ともこんなときに何をしてるんですか?」
「ん?魔力を操作して、相手の魔力を消していく特訓だぞ。慣れると実戦でも役に立つようになるんだぞ!」
「よくこんな時にそんなことする気になりますね?そんなことよりもあの時使っていた遠くの音声を拾う魔法で情報を収集したりしないのですか?」
「魔法を使う者には魔力の感知が鋭い人間も多い。そんなことしてバレでもしたらそれだけで俺たちは信頼を失うことになる!今は大人しくしてることが一番だと思うけどな。」
「それはそうですが…いつ殺されてもおかしくないこの状況にどうにも落ち着かなくて。どうしてお二人はそんなに落ち着いていられるんですか?」
「こう見えてけっこう危機感は感じてるんだぞ!ただ…この8年はいつ死んでもおかしくない程度には常に危険に身を投じてたせいか、死への恐怖も表に出てこなくなったみたいだな。」
トントントン
「あれ?もうご飯の時間なの?」
「いや、どうやら様子が違うようだぞ…これはヤバい状況かもしれないな。違いますか?ブラックさん。」
「相変わらず察しがいいですね。あなたたちにはとても残念なお知らせです。大司教様があなたたちの処刑を決められた。」
「なっ!?何故ですか?俺たちは何も嘘もつかず、素直に情報を与えた。さらにそれを証明する為に時間を求めただけです!それすら応じず、俺たちを殺す理由が教会にあるとは思えないのですが…。」
「私個人はあなたのことは信頼をしてるのですがね…大司教様に再び神託が下されたのです。お前たちが真偽を看破する力を越えられるスキルを覚えられるのだと。看破の力を信じることは危険だとな!」
「なっ!」
そうか…俺たちのスキルならそれが可能なものだってあるのかもしれない。覚えてるのと覚えられるのでは違うのだが、そこは言い方次第でいくらでも勘違いさせることはできるのか!あの神様たちはどこまで俺たちを苦しめれば済むんだ!?俺たちが何をしたいうんだ!
「済まないが、今回はこの拘束具を付けさせてもらいますよ。分かってるとは思いますが逃げようとしても無駄です。」
『トリス!トリス!応答頼む!!これから俺たちは殺されてしまう!頼む!助けてくれ!!』
「やはり駄目か…トリスとの連絡がつかない。一体どこにいるんだ。」
「多分何かトラブルにあってるんでしょうけど、もう時間がないわ。これはもう無理かもしれないわね…オリオン、最初はこんな転生最低だと思ってたけど、オリオンとの生活はあんなに殺伐した毎日だったわりには幸せだったわ!もし来世があったら、今度はもう少し普通の生活の中で一緒になりたいわ!!」
「アリエス、まだ諦めるな!もしかすればトリスと連絡がつくかもしれないだろ?」
「このタイミングで連絡がつかないのに、いくらなんでもそんな都合よくはいかないでしょ?それよりもゆっくり言葉を交わせるのはこれが最後になるかもしれないんだから、ちゃんと話しておきたいの。」
「アリエス…すまない、俺の読みが甘かった。まさか神託まで使ってあの神様たちが俺たちを殺そうとしていたなんて考えてなかった。そう考えると辻褄があうか…考えたらバーナード商会に戻った時点で教会に警戒される要素はほぼほぼなかった筈なんだ。あの時点でブラックさんのような優秀な間者を手配されていた時点で、あの神様たちが動いた証拠だったんだ!」
「もうそんなことどーでもいいじゃない!オリオン、他のことは考えないで!今は私だけを見て!」
「アリエス…」
「オリオンとの子供を産みたかったな…それだけはこの人生で私の心残りだわ…オリオン、大好きだったよ。」
「俺だってアリエスのこと大好きだよ!もし奇跡が起きて助かったらいっぱい子供を作ろう!だから…まだサヨナラしたくなんてしたく…」
アリエスは俺の口に熱い口づけをすることで、俺の言葉を遮った。長い長いキスが終わり、アリエスが離れていくと、止まっていた思考が急速に現実に引き戻されていった。
「お別れは済んだようですね。さあ行きましょう。」
長い長い下り階段を降りる間、カシムは終始号泣しながら、俺たちに詫びの言葉を叫んでいた。俺とアリエスは無言で移動していた。正確には心話でトリスに最後の願いを託していたのだが、無情にも何ら返事は聞こえて来なかった。
俺はまだまだ甘かった。呪いを解呪したからってあの神様たちとの関係が終わった訳じゃなかったんだ…あの神様たちは俺たちが生きている限りどこまでも幸せになることを邪魔してくるんだ!油断していた!あの神様たちは邪神なんだ!!絶対に俺たちが幸せになることなんて許すわけないんだ!!
俺たちが幸せになる為にはあの神様たちと戦うことまで覚悟して生きないといけなかったんだ!!くそっ!くそっ!俺はなんて中途半端な覚悟だったんだ!その結果が誰も救えない結末…
失敗した!気付くのが遅すぎた!
大聖堂の前の広場には、俺たちを処刑するための首吊り用の処刑器具がワザワザ準備されていた。教会は俺たちのことを神を冒涜した愚かな背神者として民たちに紹介し、大司教自ら処刑を見に来ていた。
「最後に一言言いたいことはあるか?」
「悪いのは俺だけなんだ!2人は何も悪くない!!頼むから彼らには何もしないでくれー!!殺すのは俺だけにしてくれ!」
ストン
床が抜け、カシムは首は吊られ宙ずりになり、そのまま息耐えたようだ。次はアリエスの番だ…
「最後に一言言いたいことはあるか?」
「オリオン愛してるわ!」
ストン
床が抜け、アリエスの細い首は締め付けられ真っ赤な顔になって苦しいだろうに、最後まで俺の方を見ようとしているのが分かる…そしてとうとう力尽きたようだ。
俺の番が回ってきたようだ。だがどうでもいい。俺はアリエスが死んでしまった瞬間に全てがどうでもよくなってしまった。むしろもう生き残りたくなんてない。あの世なんてものがあるのならまたアリエスと一緒に過ごさせてくれ…
俺はそれだけを願い、目を閉じた。
「最後に一言言いたいことはあるか?」
「……」
「何も言い残すこともないか…やれ。」
ストン
俺は首に掛かる自重を感じながら、最後に考えるのはやはりアリエスとの思い出ばかりたった。この世界は俺たちに最後まで厳しかった。だがアリエスと出会えただけでこの人生も悪くなかったと思えるから本当に不思議なものだ。
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