第35話
「待って下さい!オリオンさんたちは俺たちを呪いから助けてくれただけなんです。俺が勝手に教会を憎み、あの時暴走しちゃったんです。あの後オリオンさんに叱られたんです。教会の上層部は俺たちを救うために努力をしてくれたんだと、信仰する神から呪われた人間を殺すのが教会なら普通なのに、どうにかできないか検討する為に生かしてくれてたんだと…」
「そうか…それが理解できるだけのまともな思考の持ち主だったのですね。だが、既に命令は下された。お前たちの存在は教会にとって危険だと判断されたのです。その暴走を我らに聞かれたのが運の尽きと諦めるしかないのです。」
「そんな…俺のせいでオリオンさんたちの命まで…!」
カシムたちが会話をしてくれてる間に俺は奥の手を使っていた。心話でトリスにヘルプを求めていたのだ。
『トリス、頼む!すぐに来てくれ!!このままじゃー俺たちは殺される!』
しかし、返ってきた答えは…
『オ%※ン?ど※#/-:####*は%#/+%#?』
『おい!何を言ってるんだ?聞き取れない!すぐに助けに来てくれ!!教会に殺されそうなんだ!!』
『き&%#/-@い#&%+@く%』
『くそっ!聞き取れない!トリスはどこにいるんだ!!』
「駄目だ…トリスとの通信が乱れて助けを求めれない。」
「嘘。私からも心話送ってみるわ。」
「ああ。これはまじでヤバイかもしれないな。」
「夫婦でお別れは済みましたか?」
「できればまだお別れなんてしたくないんですがね?あなたたちは少なくとも話が分かる人間だと思ってます。このまま話し合いでけりをつけるわけにはいきませんか?」
「交渉など無駄です!」
「アリエス、カシム、森の中に逃げるんだ!あの連中を足止めできるのは俺にしか無理だ!できるだけ時間は稼いでみる。」
「馬鹿!私たちは死ぬときは一緒よ!!カシム1人で逃げなさい!そんなに時間は稼いであげられないかもしれないけど。」
「な、何故です!?俺が2人のことを巻き込んでしまったのに、何故尚も俺のことを守ってくれようとするんです?俺はあなたたちのようにできた人間ではない!あんなに真剣に説教してくれたのに、文句ばかり言って、最後にはだんまりしただけなんですよ!俺のことなんて見捨てて逃げて下さい!!きっと2人だけなら逃げられる筈です!!」
「ほらっ!やっぱりカシムも大切なものが見えてるじゃないか!自分の命よりも他人を思いやれるってのはすごいことなんだぞ!それって俺たちを大切に思ってくれてるってことだろ?俺はそんなカシムを見捨てて逃げたりできない!最後まで足掻いてはみるけどな!!」
「そんな!!」
「ふーむ。」
男には僅かばかりの迷いが生まれていた。命の危機に瀕した時、人間は本質が出るものなのだ。これまで多くの死刑執行を行っていた彼だからこそ、目の前の会話が信じられなかった。
目の前の男が行ってる行動は、自分等の信じるローゼン教の「弱き者に手を差しのべよ!」という教えそのものであり、理想の姿なのだ。理想とはあくまでも理想であり、いざとなれば自分や家族の為に友であれ、尊敬する者であれ、裏切り、自分等が助かる為の道具に変えてしまう。
そんな姿を見続けた彼だからこそ、それが本心である筈がないと疑い、自分等に情をもらうための演技であると断定した。
「そろそろいいですか?殺れ!!」
男が下した命令により4人の刺客たちが同時に動き出した。2人は魔法の詠唱を始め、1人はカシムの方へ素早く駆け出した。それに合わせてアリエスがカシムの守りに入った。もう1人は俺の方へと駆け出したが、すぐに俺が無数の水のレーザーによって迎撃した。そのレーザーを光の盾のようなもので防ごうとしたが、そよ風の力もこもったレーザーはその盾をぶち破り、そのままはるか後方へ吹き飛ばすことになった。
俺はそのまま詠唱をしている2人とリーダーの男に向けて高熱スチームの魔法を放った。
「あちちちち!何だこれは?」
「熱っつー!しまった詠唱が途絶えたわ。」
「ほう、無詠唱でこれだけの魔法を連続で…その年齢で大したものだ。」
「それはどうも!でもまだまだこれからです!!」
俺は今度はライトとアイスを合わせて、光の乱反射の魔法を…つまりは目眩ましの魔法を放った。俺はすぐに移動し、アリエスが対峙していた相手に向けて氷の矢を背中から放っていく。
その男はすぐに反応し振り返ったが、そこには光の乱反射が広がり、その中から大量の矢が飛んでくるのだ。反応しきれる筈もない。その男は体に20を超える矢を受け、倒れることとなった。
「まさか目眩ましを攻撃に用いるとは…珍しい戦い方をするものです。だが、あれくらいで彼は死にません。彼の回復をしてやりなさい。」
「はっ!」
先ほど詠唱していたうちの1人が矢の刺さって倒れた男の方へと移動しようとした。
「させるか!」
俺は回復に回ろうとした女に向けて水のレーザーを放ち、動きを一瞬止めることに成功する。それだけで十分なのだ。この間にアリエスは矢を受けて転がっていた男の首をへし折った。
「まさかこちらに被害が出るとは…お前たちはCランク冒険者と聞いていたが、実力はAランク上位ほどはあるということですか!」
俺はアリエスが止めを刺すのも確認せず、次の行動に出た。再び目隠しの魔法を放ち、さらにもう1つ魔法を放った。
「これ以上好きにはさせません。」
とうとうこれまで傍観していたリーダーの男が動き出した。やはり他の奴らとは動きそのものがレベルが違う!一瞬で俺は後ろを取られていた。そのまま男はナイフで無情に俺の首を切り去った。
「!?これは何の抵抗もない…幻か?」
俺が放っていたのは前にギルマスとの戦いで使った蜃気楼で自身の幻を作り出す魔法だ。ギルマスですら一度は騙されたのだから、1度は必ず通じると確信していた。本物の俺は再び詠唱を行っていた男の後ろに移動していた。詠唱に集中してるので隙だらけだ。一瞬で首をへし折ってやった。
回復に向かった女はアリエスが既にやりあってるようである。最初に吹き飛んだ奴の気配はまだ感じられない。勝ち目はないと思うが、リーダーの男と向かい合った。
「まさか私が動き出してから、さらに被害が出るとは思ってもませんでした。今の幻影は大したものです。しかし、もう二度と通じません。」
「それはどうかな?あの魔法は色々と応用ができるんだよ!」
「そうですか…では頑張って抵抗してみなさい。」
男は再び素早く動き出し、俺に迫ってくる。俺は足と手にそよ風を纏い、素早さを上げ対応する。俺は元々ギルマスの動きでも目では追えていた。今の俊敏にこれならばSランク冒険者クラスといえ、速さだけなら対応可能となる。
俺は素手で、男はナイフを手に激突した。男はステータスのごり押しでいけると踏んだのか、暗殺者にも関わらず、真っ正面からぶつかってきてくれたことにより、ナイフをギリギリで避け、風のパンチを腹に連打することに成功した。俺はそのまま一気に畳み掛けようとしたが、すぐに距離を取られてしまった。
「ごふっ!まさか私の速度に対応できるとは思ってもいませんでした。舐めてかかったことをお詫びしましょう。シャドウハイド!」
男がスキルを放った瞬間、影に隠れるように男の姿が消えた。そしてあれほど強い殺気を放っていたにも関わらず、その気配までも消えてしまったのだ。
「シューティングスター!」
真横から突然聞こえたその声に反応しきる前に、俺の体には無数の刃が突きつけられていた。どうやら一瞬で数百の突きを放つ技のようだ。俺は咄嗟に距離を取ろうとステップを踏んだが、既に20回ほどは体にナイフが刺さっていた。
「グガッ!」
俺は痛みに堪えながら、スキル終わりの一瞬の硬直を狙いレーザーを放った。集中力が乱れてるのでそよ風までは使うことができなかった。レーザーは男の腕に僅かな傷を付けたが、大したダメージにはならなかった。
「驚いた!今ので死なずに、さらに反撃までできるとは!!」
「こっちは体中に風穴空けられて、そっちはかすり傷だけなんて割に合わないけどね!」
「1つ聞きたい。何故それだけの力を持ちながら、無謀にも我らに歯向かうのだ?お前の妻も身体能力は高そうだ!逃げるだけならば、お前たち夫婦だけならば逃げおおせた可能性は十分にあったかもしれないぞ?」
「カシムはまだ付き合いは短いが同じ世界から転生してきた仲間だ!俺にできる限りは守ってやると約束した。ましてカシムは自分が助かるために俺らを売ろうとしたわけでもない!俺らがその命を粗末にする理由がある筈ないだろう!!」
「転生してきた?何だその話は…!」
食いついてくれた!正直このままでは俺たちは全員が全滅だ…俺たちを生かしておいた方がいいと思わせなければ、俺たちは助かる見込みは0だ。
「そのまんまだ。俺たちは…いや、あの日呪いを発動した者たちは皆、このポータルマリアの現在の神であるファーレとベトログによってこの世界に騙されて転生された存在だ!教会の信じる神は前の神ゼウスローゼン様だよな?ゼウスローゼン様はファーレとベトログに騙されて今は封印されている。俺の盟友である神獣コカトリスがその封印を解こうと現在世界中を飛び回っている。
神獣コカトリスに聞いた話では、ファーレとベトログは元々邪神らしい。」
「なっ!何なのだ…その話は!!神が邪神によって封印されてるなど…あり得ぬ!!お前は何者なのだ?何を知ってるのだ!?答えろ!!知ってることを洗いざら教えるんだ!!」
「それは構わないが、それなら俺たちを殺そうとするのは止めてくれ!これらの情報は教会にとっても有益な情報だと思うが?」
「…分かった。ただしその情報の真偽を確認して、もし少しでも嘘が入っていればその時は我らの神の名を利用したことを後悔させる方法で殺すことになりますよ!!」
「俺は嘘は言うつもりはないから何ら問題ない!!あれ?何だ?体が…これは…毒?」
「安心なさい!ただの麻痺毒です。パープル、戦いは終わりだ!戻れ!!」
マジか…話しを振ってきたのはこの麻痺毒が回るまでの時間稼ぎだったのか。やはり強者ほど、元々強いのに狡猾だ。あそこで話に興味を持たれなければ俺は既に負けていたんだな…まあ、ひとまず命が助かっただけでもよしとするか。
「オリオン!」
「オリオンさん!」
「心配はいらない。ただの麻痺毒だ。しばらくは動けないが、死ぬことはないから安心しろ!彼との交渉の結果、お前たちの身柄は教会が預かることとなった。彼の話に嘘がなければ悪いようにはしないつもりだ。
パープル、グリーンの回復をしてきてくれ!おそらく生きている。」
「はっ!」
「お二人は彼と同じ存在で間違いないのかね?」
「オリオンが話したのね!ええ、間違いないわ。私たちは転生者よ!」
「そうか…ひとまずそこに嘘はなかったようですね。では王都の大聖堂まで来て頂きます。」
こうして俺たちは首の皮一枚残して、何とか生き残ることができた。これからも選択を1つ間違えれば即殺される運命なのは変わらないだろうが…
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