第29話
「ところでこれいつまで入ってるの?」
「あっ!忘れてました。すぐ解除します。」
俺は慌てて風呂洗濯機を解除し、点火とそよ風でドライヤーの魔法を起動し、体を乾かしていった。
「これも気持ちがいいわね。心地よい温風を出すだけの魔法なんておもしろいこと考えるのね。」
地球の知識がある俺たちからすると風呂やドライヤーは当たり前のものだが、こっちの世界では風呂に浸かる習慣は貴族でもない限り普通はない。髪を乾かすのも、布きれで拭いたらあとは自然乾燥が当たり前なのだ。
「こんなのでよければ毎日でも使いますよ!」
「それはいいわね!このダンジョンに潜ってるだけで汚れちゃいそうだしね!それにクリーンも首から上だけでいいならすごく楽でいいわ。」
俺たちがバラドスダンジョンに潜りだして460日が経過しようとした頃、とうとう俺たちのGPが再び200万に近づいた。それにより神界にいるファーレとベトログへ、その知らせのアラームが鳴り響いた。
『あーこの子達ね、やっぱり早いわね!まだ15歳くらいじゃなかった?』
『そうだな。しかし、すごいねこの子ら。バラドスダンジョンに潜ってるよ!転生者の条件でここに潜るにはかなり上位の仲間に連れていってもらわないと難しい筈なのに、普通にあの生活魔法で魔物たちを倒していってるよ!あの魔法の使い方には驚かされたけど、俺たちが見たいのは彼らの顔が絶望に染まるところだ!もうすぐだ…もうすぐその顔が見られるよ!』
『まだ先の話よ!この子達は転生者で2人集まってるから、完全解呪が他人にしか使用できないことでは絶望なんてしないわ。今回は待機状態では発動できないことが判明して女の方が20歳を迎える直前まで待つことになるだけよ!ここまで条件を揃えられたのは3組目ね?』
『あぁーそうか、それはツマラナイ!でも呪いが発動を迎える直前に知ることになるんだ。完全解呪だけでは決して俺の呪いは解けないってことを♪それを知った時どんな顔をするかな?楽しみだ!早くその時がこないかな?』
『えっ?何これ…嘘でしょ!!ベトログ、あの子達のステータスを見てちょうだい!!』
『何かあったのか?…な、何だこれは!既に2人とも完全解呪のスキルを持ってるじゃないか!?何故その時にアラームが発動しなかったんだ?』
『その理由は分からないけど、これヤバイわね…このままじゃ本当に解呪されちゃうかもしれないわよ?』
『いや、それはない。きっとあの子達は完全解呪だけでは解呪できない事実には気づいてない筈だ!230万では「剣神」「槍神」を始め、各武器を極められるスキルを覚えられる。250万では「全属性魔法」、「精霊召喚」なども覚えられる。280万では「全能力最大値解放」だ!ラノベ好きが完全解呪を覚えた安心感の上、それらのチートスキルを無視してGPを使わずにいられる筈がない!』
『それもそうね…しばらくはこの子達のことは要注意で見守りましょう!万が一280万でもチートスキルを覚えようとしなかった時は、最後の罠を発動させるしかないわね!』
『あれを起動させるのか?あれを起動するとしばらくはラノベホイホイでは楽しめなくなるぞ!』
『解呪されて、チートスキルを持った奴等にポータルマリアを無茶苦茶にされるよりはマシでしょ?』
『そうだな…だが、しばらくは様子をみることにしよう。』
俺たちは運が良かったのだろう!最初の200万貯まったのが亜空間だった為、俺たちがどこまで2人の罠に気付いてるのかを知られることがなかったのだ。寿命で完全解呪が起動させることができることを知ってることがバレていたとしたら、その時点で最後の罠を起動され、俺たちは自力ではGPを貯めることができなくなっていただろう。
ファーレとベトログの用意していた最後の罠を起動されたのは、俺たちが280万GP貯めることができた翌日の夕方のことだった。その時俺たちはバラドスダンジョンのボス部屋でクイーンジーと戦ってるところだった。
俺たちはさすがに700回以上倒している為、クイーンジーの必勝法は確立されていた。いつものようにマリネさんがエアクリーンを放ち、俺が火炎放射でクイーンジーを燃やし、アリエスがレーザーで攻撃し、ナジムさんが3人を守る形で警戒する。
これによりあっという間に戦闘は終了する予定であった。が、この日はそんな簡単にはいかなかった。突然俺とアリエスはえもいわれぬ痛みと苦痛に襲われ、まともに動けなくなったのだ!
「グガァアアアアーーー!!」
「ググ…グァーー!!」
これは一体何なんだ!?全身が内側から焼かれるように痛い!辛すぎて意識を保つのでやっとだ…
「おい!2人ともどうした?クイーンジーから何かされたのか?」
「グググ…ち、ちが…うと…おも…い…ま…す。ご…れ…グアアー!ハアハア…は呪いが…」
「もういい!もうしゃべるな!あいつは俺たちでどうにかするからお前らはそこで休んでおけ!!」
ナジムさんはそう言い残し、1人クイーンジーに向けて駆け出した。
『オリオン、アリエス、聞こえるか?』
『トリスか…これは一体何なんだ?』
『それはベトログの呪いが発動したに違いないぞ!その証拠にお前らのステータスは呪い状態に陥っている。お前達と出会った頃の我と同じ状態にあると思えばいい。おそらくはもうすぐお前達が呪いを解呪する為に必要なGPを集め終えることに気づいたベトログが呪いを待機状態から起動状態へと無理やり移行させたのであろう。
だが安心しろ!20歳までは死ぬことはない。呪いは波のように強い状態と軽い状態とを繰り返しながら進行していくことになる。20歳に近くなればなるほどその苦痛の時間は長くなるであろう。』
『それじゃー、俺よりもアリエスの方が辛い状態ってことか!!アリエス大丈夫か?』
『大丈夫…とは言えないわね。言葉をしゃべる気力はないわ。心話でもギリギリ…あの神様たち本当にやってくれるわね!しかもボス戦中に起動させるのが殺意を感じるわ!』
『そうだ!ナジムさんとマリネさん大丈夫かな?起き上がって状況を把握する余裕もないな…』
『安心しろ!時間はかかりそうだが、ナジムもマリネもこのダンジョンで貯めたGPで強くなっていたようだ!このまま何とか倒せるだろう…』
『良かった…』
10分ほど苦しんだところで俺の痛みはひいていった。まだアリエスは苦しんでるようだ。
「ナジムさん、マリネさん、すいませんでした。手伝います!!」
「もう大丈夫なのか?無理すんな!お前らの苦しみ方、普通じゃなかったぞ!!」
「クイーンジーを倒したらゆっくりさせてもらいます。」
そう言い、俺は火炎放射でクイーンジーとビックジーたちを燃やし始めた。ナジムさんはその合間にクイーンジーに次々にスキルを使って攻撃を当てていっていた。
俺が復帰したことであっという間に戦いは終わった。しかし呪いは発動されてしまったのだ。トリスの話では先程のような痛みが繰り返し襲ってくるのだ。それも徐々に酷くなっていくと…そんな中、あと20万GPも貯めることなどできるのだろうか…俺もさすがに不安になってしまっていた。
しばらくするとようやくアリエスも落ち着いたようだが、まだ起き上がれないようだ。
「大丈夫か?さっきのは何だったんだ?」
「多分俺たちに呪いをかけた邪神が、もう少しで呪いを解呪されそうだったから俺たちを殺そうとあのタイミングで呪いを発動させたようです。さっきのような激痛がこれから何度も襲ってくるそうなんです。」
「何だと?お前ら邪神に呪いをかけられていたのか?」
「すいません。迷惑かけてしまいました。」
「そんなこと気にすんな!きついときは支え合うのが仲間だ!!それにしてもあれが戦闘中に襲ってきたらかなり危ないな…明日からはお前らは無理すんな!!俺たちが中心で戦うから、余裕があるときだけ補助的にだけ参戦しろ!!」
「ありがとうございます!ナジムさんたちがいなかったら俺たちは殺されてました。命の恩人です。」
「そうか。ならあの時の借りは返せたか?」
「あの時?ああ、オークキングの時の?もちろんです。こうやって一緒にダンジョンに潜ってくれてるだけでそんなのとっくにチャラになってますよ!俺たちの方こそナジムさんたちには返さないといけない借りだらけになっちゃってますよ!」
「そうか!じゃー今はとことん甘えとけ!そしてその呪いを解呪することができたらいっぱい恩返しに美味いものでも奢ってくれや!そして俺たちの結婚式に参列して祝ってくれよ!!」
「もちろんです!!」
ナジムさんとマリネさんの優しさに包まれ、俺は不安になっていた心も晴れていた。俺たちだけじゃない。今はナジムさんもマリネさんもいる。きっと残20万GPくらいどうにでもなる!
『何よ!失敗してるじゃない!!』
『あのボス戦で死ぬと思ったんだけどな…思ったよりいい仲間を持っていたようだな。でも人間はどんどん役立たずになっていくあいつらをどこまで支えていけるかな?人間は家族でもなければ使えない奴はすぐ切り捨てる生き物だ!』
『それも、そうね!』
俺たちはこの時まだ知らなかった。この時、呪いが起動状態へと変わったのは俺たちだけではなく、全ての転生者たちに等しく襲っていたことを…またその苦しみが与える絶望は、もうすぐ解呪できる未来が見えていた俺たちなんかとは比べ物にならないほどの絶望を与えることになってることを。
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