第30話
同じ日、同じ時間に起こったその呪いにより苦しむ人間たちは、その家族や仲間、友人たちから教会へ救いを求めて数多くの報告が上がった。そして、その殆どが口々にファーレとベトログという神様から呪いを受けたと報告を上げた。
教会は神を名乗るそのファーレとベトログから呪われたという人間達を調べたが、どんなに力のある司祭の力でも解呪は叶わなかった。そして、その結果を見た転生者たちはさらに絶望し、半数以上の者が教会関係者たちの目の前で自殺することとなった。その結果が教会上層部や王族、多くの人々に益々の混乱と恐怖を植え付けることとなった。
「この世界は神の怒りに触れたのか?」
「呪いを受けた者たちに身分や生まれの地域、年齢に共通するところは一切なかったらしい!」
「呪いが発動すれば死ぬほどの痛みと苦しみを与えられ、自ら死を選択するまでどんどん苦しみの時間が長くなっていくらしい!」
「神にどんなに許しを乞うても一向に改善する見込みはないらしい。」
「このままでは民の神への信仰心にも悪い影響を与えかねない!」
このように教会上層部は危機感を覚えていき、この呪いを受けた者達を世間から隔離した場所へ追いやることにした。最低限の食事は与えられるが、外に出ることも許されず、家族との面会すらも一切許されなかった。
正に生き地獄…
同じ境遇の者たちも、皆自殺するのは怖いが、生きてるのも地獄。呪いからくる日々の痛みと苦しみは益々酷くなっていくばかりで僅かばかりの希望すら見当たらない。
施設の中の生者は、1人、また1人と自殺により減っていった。そんな中、たった1人の者だけは希望を捨てていなかった。
それはあの時俺が救う約束をしたメネシスだ!メネシスはその隔離された施設の中に閉じ込められた当初から「必ずうちらを助ける為に救世主が来てくれる。その人の名はオリオン!ほんでその妻はアリエスや!諦めんと頑張ろう!!」と皆を励ましてきた。
メネシスの言葉は絶望していた彼らの心には当初全く響かなかったが、余りにずっとその名を救いの救世主として語らい続けられた為、さらに絶望していく心の中で、「本当に救ってくれるなら何でもする!一生の忠誠を誓うから、この苦しみから救ってくれ!!」と神から騙され貶められ、祈る対象を失っていた彼らには、神の代わりに祈る対象がオリオンとアリエスの存在となっていった。
しかし無情に流れる日々の中、そのメネシスですら絶望に心が支配されてきていた。そんな時彼らは突然訪れたのだった!
あどけない顔をした普通の少年と美しい顔をした少女は、メネシスの前に現れにっこりと笑いかけた。
「メネシス、待たせて済まなかった。まさかこんなことになってるなんて予想もしてなかった!皆と同じであの神様たちに邪魔されて苦労したけど、何とか解呪できるようになったよ!お待たせ!!」
彼の一言はメネシスだけでなく、その場でそれを注目していた者たちの心を震わせた。
「オリオン!!アリエス!!」
メネシスのその叫びで、この2人が自分達を救いに来てくれた救世主その人であるとを皆理解した。
俺たちはそこにいた転生者たちを順番に全員解呪してあげた。自分のステータスを見て呪いが解呪されてるのを確認すると皆一様に俺たちに感謝の祈りを捧げた。そして何故かひれ伏し、俺が他の者たちの解呪をしてる様子を見ては涙を流していた。
俺はよっぽどここでのことが辛かったのだろうと思い、
「もう大丈夫です!俺たちはあの邪神の呪いは乗り越えました!これからの人生はきっと良いものになる筈です!俺にできる範囲で皆さんを手助けをするつもりですので、何かあれば相談して下さい。」
と声を掛けただけなのに、再び涙をしながら拝まれることとなってしまった。
「オリオン、おおきに。ほんま助かったわ!」
全員の解呪を終えたところでメネシスに声を掛けられた。
「間に合って良かったよ!480万GP貯まったところで、あの神様たちからの最後の嫌がらせを受けて、俺たちもまともに戦うのに苦労するようになったんだ。それを一緒にダンジョンに潜っていた仲間にずっとフォローされながら、何とか残り20万ポイント貯めることに成功し、解呪することができたんだ!
まさか俺たち2人だけでなく、他の転生者たちまでみんなあの苦しみを受けていたなんて思いもしなくて、ここを来るのに時間がかかってしまった。知らなかったとはいえ本当に済まなかった。メネシスのお父さんもすごく心配していたよ!」
「うちのおとんと会ったの?」
「ああ。メネシスのお父さんを中心に、ここにいる人たちの家族たちが、呪いを受けた者たちを解放してもらおうと国に訴えを上げようとしていた。俺たちはそこでここの情報を得ることができ、ここに来ることができたんだ!」
「そういえば、ここは教会によって封鎖されていた筈や!どうやって中に入ってこれたんや?」
「入らせて下さいと頼んだんだ!」
「それでよう入れてくれたな?」
「そんな筈ないじゃない!「帰れ!」って追い返されたけど、無視して押し入っただけよ!武力に出た人たちは、武力で返したわ!殺さない程度に両手両足を痛め付けてきたから、回復魔法でも使わない限りしばらくは動けない筈よ!!」
「うわー!教会相手によーやるな!でも清々するわっ。私たちをまるで厄介者とばかりに隔離してくれたからな!!あの神様たちの次にムカついてたわ!でもそれなら教会の奴等がここに来るんとちゃうか?」
「かもな。でももう呪いは解呪したんだ!隔離する必要がないだろう?解呪しに来たって言っても誰も信じてくれないから仕方なく無理やり入ったんだが、調べてもらえば解呪されてることが分かるだろうから、文句を言われる筋合いはないな!教会の奴等より俺は同じ転生者の仲間たちの方が大事だからな!!」
「そりゃそうや!うちからもちゃんと文句言うたるわっ!」
そんなことを話してると、大勢の兵士が中に入ってきた。
「お前らが侵入者か?一体何者だ!?」
「それは入る前に説明した筈ですが…俺はオリオンです!そして彼女が俺の妻のアリエスです。2人で王都を中心に冒険者をしています。」
「その冒険者風情が何故教会に逆らってここにいる?」
「それも説明した筈ですが?ここにいる者たちを解呪して救う為ですと!実際全員解呪は終わってますので、調べてもらえれば分かると思いますよ!!もう呪いで苦しむことはないですから!」
「な、なんだと!?ここにいる者たちは大司教様ですら解呪できなかった者たちなのだぞ!!何故一冒険者風情にそのようなことができるというのだ?」
「そんな自分の持つスキルについて冒険者が何でもベラベラと喋ると思いますか?嘘だと思うなら、ここにいる者たちを調べてみて下さい!」
それから数時間後、俺の言ってることが全て事実であることが判明し、教会関係者たちは困惑していた。
「まさか…本当にあの呪いを解呪できてるとは…これではもう奴等をここに留めておく理由がない!そしてそれを成した奴を捕まえることはできまい!」
「だがこのまま解放などしてしまえば、教会の無能っぷりを世間に晒すことになりかねないぞ!!教会が全く手がでなかったから隔離までしていたのに、ポッと現れた一介の冒険者が全員あっさりと解呪して救ったとなれば…」
「ならば全員殺すか?」
「最初からそうしておけば良かったのだ!一度呪われた者たちなど、きっと魂まで穢れてるに違いない!!」
『はぁ…どうしてこうも定番のような考えに落ち着くかね?』
「誰だ?どこにいる!出てこい!!」
『そこにはいないよ!外にいるから出てきたらいい。』
俺が使ってるのは、そよ風を同時に2つ発動し、離れたところに音を一方的に拾い再生させる魔法である。先程までは、建物の中で教会関係者たちが話してることを外で転生者全員で聞いていたのだが、最後はこちらから音を送ったのだ。
「今の声はお前か?」
「ええ、そしてあなたたちの会話はここにいる全員で聞いていました。あなたたち最低ですね…教会の底がしれます。
普通に解放してくれていたら、教会の悪い噂など立てないように、みんなに注意しておこうと考えていたのに…これじゃー俺たちはこのまま殺されるか、あなたたちを倒して教会の敵になるかしかない。
最後の通告です。俺たちを速やかに解放して下さい。これ以上留めようとするならば、俺たちを殺そうとしてると判断し、あなたたちを排除することにします!」
「煩い、黙れ!!さっさと死ね!皆殺しにしろ!!!」
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