第27話
「こりゃー本当にとんでもねーダンジョン攻略だな!」
高速でダンジョンを駆け抜けながら、ナジムさんが叫んだ。移動速度が速すぎて小さな声では他の者に声が届かないからだ。俺たちは予定通り初心者ダンジョンに潜っている。
道は全て俺の頭に入っており、道中見かける魔物は現れた瞬間に俺とアリエスのレーザーの魔法によって死に絶えている。ナジムさんは元々素早い動きが自慢のタイプなので俊敏2倍になった俺たちよりも素早い。マリネさんは回復魔法や補助魔法を中心のサポート役なので素早い動きは苦手な為、ナジムさんが道中ずっと抱えて走っている。
俺たちのダンジョン攻略を体験した2人は、驚きよりも呆れの方が勝っているらしく、笑顔が強張っている。
「こんな弱いダンジョンに時間をかけるのは勿体ないですからね!さっさと終わらせて、バラドスダンジョンの攻略に移りたいですからね!!」
初心者ダンジョンことカッパーダンジョンは、ボスですらオークとゴブリン3匹という弱いダンジョンな上、階層も短く、最短ルートで回ればあっという間にクリアすることができた。慣れると1日15周も回れた為、2ヶ月少々で制覇することができた。
ナジムさんとマリネさんは最終試練の際、本当にそんなものがあったことに驚き、さらに亜空間に移動すると、その異常な雰囲気に興奮を隠せなかった。そして石板を読み、全てのダンジョンを制覇するとさらに便利なスキルをもらえると知ると、俄然やる気になっていた。
ここで得られたスキルは『体力2倍』で、副賞として1万GPをもらえた。これで俺たちは体力、力、俊敏が400となり、ステータス面でも成人したCランク冒険者として恥ずかしくないレベルに到達したといっていい。
名前:オリオン
種族:人間
スキル:共通語理解、体力2倍、力2倍、俊敏2倍、完全解呪
GP:626871
称 号:異世界転生者、ファーレ神の加護を受けし者、ベトログ神の呪いを受けし者、魔力切れジャンキー、カッパーダンジョンを制した者、カルモアダンジョンを制した者、ラムーダダンジョンを制した者
体力:200(×2)
力:200(×2)
俊敏:200(×2)
魔力:200
精神力:200
そしてトリスもいつものようにさらに力を取り戻すことに成功した。鑑定によって目の前に広がる情報は全て拾うことができるようになったようだ。例えばダンジョンに罠があったとして、俺にはその罠が存在することは魔力の変化で分かるが、その罠が何の罠なのかは分からない。だがトリスに掛かれば、罠がどこにあるのか、どんな罠なのかを瞬時に把握することができるらしいのだ。これでもう罠は何も怖くない。
最後にもう一度実家や冒険者ギルドに寄り、親やエリーゼさんに挨拶を済ますと、北西にあるというバラドスダンジョンへ向けて出発した。今回は初心者ダンジョンで得た宝の殆どをエリーゼさんのところで売りに出して、その金で俺たち専用の馬車と馬を購入することにした。
バラドスダンジョンの方にここラノバから直接向かう便は乗り合い馬車もなく、必ず王都経由でなければならなかった。それならば自分等で馬車を用意し、直接向かった方がかなりの時間短縮になるとエリーゼさんに教えられたのだ。
馬車は必要なくなれば売りに出してもいいし、ダンジョンの前には馬車を預かってくれる施設もあり、馬車を宿代わりに利用するのも悪くないと考えていた。バラドスダンジョンもラムーダダンジョンと同じように通常2~3日掛けて攻略するのが普通であるが、俺たちはできれば日帰りできるようにしたいと考えていた。
1000回もクリアするにはやはり効率はとても大事なのだ!そうなるとダンジョンの傍の街までワザワザ宿に移動するのも面倒となるのだ。ダンジョンの傍には必ず飲食できる出店のようなものが存在し、食するだけならば困らない。
つまり1日の睡眠以外の殆どの時間をダンジョンに回せるということだ!ダンジョン三昧の準備は整った。いざバラドスダンジョンに行かん!!
「うわっ!このダンジョン…見た目からして禍々しいですね?1層目から毒沼だらけの平原って。」
今俺たちは初めてバラドスダンジョンに入ったところだ。念の為、最初はゆっくり様子を見ながら回ることにした。
「だな、その上現れる魔物も毒を持つ蜘蛛や蛇の化け物とか、麻痺毒を持つ蜂の化け物とか、幻を見せる蝙蝠の化け物とか、見た目も気持ち悪い魔物が多いからこのダンジョンは他に比べてちょっと人気がないんだ。
一部の暗殺業を生業にする人間には貴重な毒の宝庫らしいんだがな…」
「そんなのばっか集まるのは逆に一般人は警戒しそうね…」
「まあ、普通はここよりラムーダダンジョンに行くだろうな!だが人気がねーってのはその分素材が流通しねーのさ!だからここの魔物の素材は高値で売れることが多い。一攫千金を求める冒険者にはある意味人気らしいぜ!」
「へー、ナジムさんって意外に博識なんだね!」
「おい、意外にってのはねーだろ?俺のような速度を売りにしてるタイプは知識を持ってねーと色々と危ねーんだ。力押しできねー分、行動を読んで相手に何もさせない動きが求められるからな!!」
「普段はおちゃらけてても、やっぱりBランク冒険者なんだね!すごい!!」
「いや、逆にお前らの方がスゲーよ!大した情報も集めずにこれまで行き当たりバッタリで生き残ってきたんだからよ!!しかも回復魔法を使える仲間がいない状況でだ!俺はマリネがいなかったら何回死んでいたか分からねーぞ!」
「ナジム…」
マリネさんがナジムさんを上目遣いで見つめていた。
「マリネ?」
「それが分かってるなら、今夜は美味しいもの奢ってね。」
「おい!それとこれとは別の話だろうが!!」
「やっぱり仲がいいですね!お二人は夫婦じゃないんですか?」
「ぶっ!ばか野郎、俺たちはそういう関係じゃねーよっ!」
「えー勿体ない!マリネさんおっとり美人さんだし、プロポーションもいいし、こんないい人とずっと一緒なのに何も意識しないんですか?」
「そんなこと意識していたら、パーティーとして緊張感がなくなっちまうだろ!そりゃマリネは昔からかわいいとは思ってたし、優しくていい奴とは思っていたが、マリネは大事な仲間だからな…手を出すわけにはいかねーんだよ!」
「なんで?」
「なんで?ってのは何だ?」
「だって、遊びで手を出されたらそりゃーうまくいかなくなるでしょうけど、ちゃんと責任とってくれるなら女だって嫌な訳ないじゃない!それすら嫌な相手とずっと2人っきりでパーティーなんて組まないと思うわよ!!きっとマリネさんもナジムさんのこと嫌いじゃない筈です!」
「ちょっとアリエス、さすがにそれは踏み込み過ぎだよ!2人には2人のペースがあるだろうから!」
「マリネ!今アリエスが言ったことは本当か?俺が相手でも嫌じゃないのか!?」
「そりゃー嫌じゃないけど…夫婦になる覚悟もないのに手をだすようなら許さないわよ!こんな鈍感でまっすぐな男、悪い女に引っ掛からないか心配で、これまで幼なじみとして放っておけなかったのよね…」
「そうだったのか!じゃーマリネ、俺と一緒になろう!!俺は恋愛なんてしたことねーし、知っての通り不器用だ。どうやったらお前を幸せにできるかさっぱり分からねー!だがどうすればいいかを教えてくれりゃー、俺は全力でお前を幸せにしてみせる!!
だからこれからは夫婦として一生一緒にいてくれねーか!?」
「ナジム…嬉しいよ。よろしくお願いします!」
「うわっ♪一気にプロポーズしちゃったわ!オリオン、ナジムさんのプロポーズナジムさんらしくて素敵だったわね!!オリオンもたまにはあんな風に愛を伝えてくれてもいいのよ!」
「えっ!?俺には恥ずかしくて人前であんなこと言えないよ!」
「おいオリオン、そりゃー俺のプロポーズが恥ずかしいってことか?」
「いやいや、ナジムさんのプロポーズはカッコ良かったです!ただ俺はいくら夫婦だからって人前では言うのは照れるって話です。」
「えっ?お前らいつの間にか夫婦になってたのか!?」
「えー俺が9歳、アリエスが10歳の頃に夫婦になりました。」
「オリオン、お前そんなとこまで早かったんだな!同じ男として普通に尊敬するわ。」
「まあ最初は成り行きだったんですけど、俺はいつもアリエスと一緒になれて良かったと思います!最近はアリエスがどんどんキレイになっていくから、押し倒さないようにするのに苦労してます。」
「えっ?お前ら夫婦なんだろ?押し倒しゃーいいじゃねーか!」
「ナジムさんたちは俺の呪いのこと話してましたよね?あの呪いは実は俺だけでなくアリエスにも同じ呪いがあるんです。そしてあれから色々と呪いのことが分かり、当初考えていたよりもずっと大変だということが分かったんです。
呪いを解呪できるまでは間違えても子供を宿す訳にはいかないし、俺が我慢すれば済むことですので、今は解呪できた後の最高の楽しみと思って日々の頑張りの原動力に変えてます!」
「お前も大概真面目ちゃんだな?大抵の冒険者はいつ死ぬか分からねーからこそそういうのを我慢せず、日々を楽しんで生きてるんだぜ!」
「俺たちの呪いから生き残るにはアリエスが20歳になるまでに、俺たち2人がそれぞれ500万GPを貯める必要があるんです。それには妊娠はあまりにもリスクが高すぎるんです。出産を選択すれば間に合わなくなると思いますし、俺は俺たちの子が宿ったらその子を殺したくはない!」
「500万だと?前に聞いてたよりも倍以上になってるじゃねーか!」
「はい。200万GP貯め終えた後に、そのスキルを使うにはもう1つスキルを取得する必要があることが分かったんです。」
「なんだそりゃー!200万GPも使って覚えたのに、それを使用するのにさらに300万GP必要って…どんな意地悪な呪いなんだ!!お前たちよく腐らずに生きてんな!」
「事前に最低の可能性を予想していたからこそ、それほど落ち込まなかったですが、さすがにこれ以上を求められると絶望するかもしれませんね。」
アリエスは2人の会話を聞いて1人安心していた。これまでオリオンが一度も自分を求めてくることがなかったのは、まだお互いに肉体的に幼いことが原因とは考えていたが、精神的にはお互いに大人なのは分かっていた為、自分には女として魅力がないのかしら?と考えてしまっていたのだ。
オリオンが自分や2人の子供のことまで考えて我慢をしてくれていたと知ったことはアリエスにとってはこれまでに抱えていた不安を払拭するには十分な出来事であり、オリオンを夫として益々好きになるのは当然のことだった。
この時アリエスは、早くオリオンの望むだけ抱かせてあげたいと思った。そしてオリオンとの子供を産みたいと心の底から思うようになったのだった。
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