第26話

「おーきに!あんさんらが依頼を受けに来てくれた冒険者ね?」




関西弁?やはり間違いないな…



「俺はオリオン、こっちがアリエスだ。依頼を受けに来たんだが、ちょっと話が変わってしまったんだ。君のお父さんとの話し合いの結果、君をここに留まらせる説得をすることになった。」



「なっ!あのアホ親父が!そんなん気にせんで、明日からのこと話し合いましょ!」



「メネシスさんがそんなにダンジョンに拘ってる理由は俺たちには痛いほど理解できるんだ!死にたくなかったらここからは口に出す言葉をしっかり考えてから口にするんだぞ!俺たちは多分君と同じ存在だ。ファーレとベトログの名前に覚えがあるだろう?」



「なっ!あんさんらもてん…ぐっ!じゃー余計にウチがここに留まるのはあかんちゅーこと分かる筈やで?なぜおとんの言いなりになってウチをここに留まらせようとするんや!?」



「それは簡単な答えだ!俺とアリエスが君を救うと約束するからだ!!君は20歳になる直前まで生き残ってくれさえすれば呪いは解呪される!それに君が自力で頑張っても解呪は100%不可能だからだ。」



「なんやて?なんで見ず知らずのあんたらにそんなことまで決めつけられないとあかんねん!?」



「じゃー君はこの呪いの解呪の条件をどこまで理解してる?」



「そんなん20歳までに200万GP集めればいいだけや!他に何があるっていうねん?」



「それを目標にどんなに努力してもこの呪いの解呪は絶対に不可能なんだ!」



「どういうことや?」



「あの2人の神様たちの罠はもっと何重にも用意されてるってことだ!俺たちの知る限りの条件を教えてやると、20歳までにというのがまず間違いなんだ!まず俺たちのような存在同士がこうやって知り合い、年上の方が20歳を迎える前に年下の方が完全解呪と不老不死のスキルを取得してなければ解呪は不可能なんだ。つまり500万GPを貯める必要がある。」



「はっ?意味が分からないんですけど…?そんなん無理に決まってるやん…」



「完全解呪の対象は他人のみ、そして必要なのは魔力ではなく使用者の寿命を利用して解呪するんだ。さらに解呪をできるタイミングは呪いの発動直前だけのようなんだ!」



「それが本当だとして、どうしてその事実をあんたらは知ってるんや?」



「答えは簡単だ!俺たち2人は既に完全解呪のスキルを取得している。今俺は13歳、アリエスは14歳だ。残り6年ほどで残り260万ほどのGPを集めれれば俺たちも君も救うことができる。」



「それはホンマか!?どないしたらこんな糞条件の中、そないに早くそんな大量のGPを集められるんや!」



「それは努力と工夫としか言えないが、君が自力で頑張るよりは現実味があるだろ?こうして俺たちが出会えたのも何かの縁だ。俺たちは全力でGPを貯める!だから君には俺たちを信じて別の道を進んで欲しいんだ!」



「別の道?」



「そう、俺たちのような存在を呼び集める方法を考えておいて欲しい。それにその人たちを保護するための場所を用意できたらもっと助かる。そうすれば多くの存在を救うことができる筈なんだ!


俺はあの神様たちを悔しがらせる方法をずっと考えていた。それは俺たちだけ救われても一時的に悔しがらせることでしかない。だがこれ以降、誰も用意していた罠で死ぬ者が現れなければあの神様たちの悪巧みは破綻を迎えることになる!その役目をメネシスさんに託したいと思ってるんだ!!それには低ランク冒険者よりも大商人の跡取りの方が動きやすいんじゃないか?」



「……兄さん、意外に腹黒いな!だが、気に入ったで!その話乗ったわ!!私のことはメネシスでええ。今から私たちは仲間や!オリオンにアリエスだったね?これからよろしゅー頼むわ!!」




 こうして、俺たちは3人目の転生者仲間と出会うことになった。この時の俺はメネシスの実力を全く知ることなくこんな提案をしていたが、メネシスの商人としての才能と行動力は俺の予想をはるかに越えるものだった。


後にこの王都でも一番の大商人として名を馳せることになるメネシスの魂に火をつけたのは間違いなくこの時の俺の言葉だった。



 メネシスの考えがこれまでと180度変化し、商人として大成することを目標とする状況に変化したことを父であるダナルさんは大変驚き、俺らにはこれから先どんなことでも協力してくれると言ってくれた。


そして今回の依頼をキャンセルする代わりに、明日出発のバーナード商会の商隊の護衛に指名依頼で俺たちを使ってくれることとなったのだ!指名依頼は依頼の中でもギルドのポイントがとても多く稼げるのでランクアップを目指してる俺たちには非常に助かる心遣いだった。


そしてさらに驚くべき出来事だったのが、その商隊の護衛の中に俺らの知り合いがいたことだった。



「あれ?ナジムさんじゃないですか!」



「オリオンとアリエスじゃねーか!ずいぶんと久しぶりだな♪」



「わあ、本当だオリオン君とアリエスちゃんだ!ずいぶんと大人っぽくなったね!」



「マリネさん、お久しぶりです。」



「旋風の牙もこの商隊の護衛ですか?マナさんとミナさんは?」



「バーナード商会とは縁があってよく護衛の依頼を受けるんだ!実はなマナとミナはあれからしばらくしたところでパーティーを抜けたんだ。」



「えっ?何で?ナジムさんが無理やり襲ったとか?」



「ばか野郎!アリエス、お前は人を一体何だと思ってるんだ!?ただの方向性の違いってやつだな!俺はあれから強くなる為に必死で努力した!かなり無理をしてでもな。あいつら姉妹は安全にそれなりに生きていきたかった…それだけだ。あいつらは他のパーティーに移って、幸せに暮らしてる。この前ミナにガキができたって連絡来てたぜ!!」



「わあ、お母さんになったんですね!でもそれじゃー今旋風の牙は2人だけなんですか?」



「そうだな。だがあれから俺たち2人は強くなったから、2人だからって弱くなった訳じゃねーぜ!」



「それは俺たちだって同じですよ!あれからかなり強くなりましたよ!!」



「そうか!それは楽しみだ!!ところでお前らは里帰りか?」



「いえ、ちょっと初心者ダンジョンにしばらくは籠る予定です。」



「はあ!?お前らの実力で初心者ダンジョンに潜る意味なんて全くねーだろ?」



「俺たちは今ダンジョンを制覇して回ってるんです。」



「どういうことだ?」



「これは王都のギルマスにまだ口止めされてるんで他には漏らさないで下さいね!ダンジョンは999回クリアすると、最後の1000回目に最終試練として普段より強いボスと戦うことになるんです。それをクリアするとダンジョンを作った神様から特別なスキルをもらえるんです。」



「何だと!?そんな話聞いたことねーぞ!マジ話なのか!?」



「はい。これまでカルモアダンジョンでは力2倍のスキルを、ラムーダダンジョンでは俊敏2倍のスキルを得られました!ただし、卒業するとそのダンジョンには入れなくなります。」



「力2倍に俊敏2倍だと!?とんでもねースキルじゃねーか!!」



「はい。おそらく初心者ダンジョンでも同じように何かのスキルを得られる筈です。1日10回は攻略するつもりなんで、今のうちから初心者ダンジョンの地図を頭に入れこんでいってますよ。」



「おい、その話俺らにも噛ませろ!」



「帰りの護衛はいいのですか?」



「あー俺たちはラノバの街を基本ホームにしてる冒険者だからな、これが帰りの護衛となるんだ。」



「なるほど!じゃー更なる提案をしたいのですが、初心者ダンジョンを制覇したらそのまま一緒にバラドスダンジョンも制覇しませんか?あそこは回復魔法を使える仲間がいないと難易度が跳ね上がるらしいのです。マリネさんが一緒なら制覇も可能だと思うんです!!」



 俺は俺たちと同じように金よりもGPを稼ぐことを優先にできる2人を今後のダンジョン探索の仲間にしたいと思い、すぐに動いたのだ。



「俺は構わねーぜ!マリネはどうだ?」



「私はオリオン君とアリエスちゃんが一緒なら嬉しいからもちろんOKだよ。」



「おー!やった!これなら冒険者ランクを上げなくてもGPを集めることができるな!!」



「お前たち今冒険者ランクいくつなんだ?」



「俺たちはCランクですよ。」



「あれ?あの時の功績でCランクになってたよな?あれから4年も経つのにそのまんまか?」



「あれからずっとダンジョンに潜ってましたからね…素材も無視してGP稼ぎばかりしてたんで冒険者としては全く功績ないんです。宝は金にはなるんですが、ギルドの功績にはならないのが難点ですね。」



「素材を無視って…それ最早冒険者じゃねーし!」



「王都のギルドでもよく言われてました。旋風の牙はランクどこまで上がったんですか?」



「俺たちもあれから金稼ぎよりも強さを求めてきたからな…まだBランクだ!」



「でもBランクにはなったんですね!おめでとうございます!!俺たちもバラドスダンジョンを制覇したら、いよいよBランクを目指さないといけなくなりそうです。」



「お前らなら本気になりゃーすぐだろ?」



「だといいのですが…」




 こうしてひょんなことから、今後の予定が順調に決まったのであった。護衛の仕事は魔物や盗賊が近づく前に俺の弓だけで一掃することができたので何の問題もなかった。敢えて問題があったとするならば、他の護衛の活躍の場を奪いすぎてしまったくらいだろう。道中ナジムさんとアリエスからのひんしゅくの声がずっと続いていたが、「護衛の任務なのにクライアントをワザワザ危険に晒せというのか?」という俺の正論に言い返せずに黙ることとなった。


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