第25話

 初心者ダンジョンと呼ばれるカッパーダンジョンは王都からよりも俺たちの故郷であるラノバの街からの方がはるかに近い。なので先に王都から近い場所にあるカルモアダンジョンに潜ることにした。



 カルモアダンジョンはオークやオーガなど力が強い魔物が中心の初心者ダンジョンをクリアした者たちが好んで攻略するダンジョンである。その力強い一撃をまともに食らえば俺たちもただでは済まない。


ただし、まともに食らえばである。俺たちは素早い魔物の多いラムーダダンジョンでずっと戦ってきた上、さらにそのクリア報酬で俊敏2倍のスキルを得られたのだ。カルモアダンジョンの魔物たちの攻撃など止まったように見える。



 当初はカルモアダンジョンを1日2攻略を目指して挑んだのだが、あまりに楽勝過ぎて1日に4攻略可能であった。そのクリア報酬はラムーダダンジョンと同じで、宝箱と副賞で100GPが得られた。


つまり毎日400GPを確定とし、さらに魔物を討伐した分のGPが稼ぐことができたのだ。カルモアダンジョンに潜り出して10日経った頃には、慣れてきたのと地図も頭に入りさらに効率が上がり、1日5攻略が可能となった。



「これならラムーダダンジョンへ潜ってるのと、それほど効率も変わらないんじゃない?」



「そうだな!これも俊敏2倍のスキルを得られたお陰だけどな!」



どんなに魔物を素早く倒せても、移動に時間が掛かってはダンジョン攻略は1日に何度もできない。これを可能としてるのは、これまでにない移動速度を得られたからだということは間違いない。



 カルモアダンジョンに潜り出して200日ほど経った頃、とうとうカルモアダンジョンも卒業の時を迎えた。ラムーダダンジョンの時と同じく、頭にアナウンスが流れたのだ。



『カルモアダンジョンを極めし者たちよ、最後の試練を乗り越えよ!』



その流れと共に現れたのは、本来このカルモアダンジョンのボスであるブラックオーガが4体であった。普段はブラックオーガ1体に普通のオーガが3体の編成である。どうやら最後の試練はボス敵4体というのが流れのようである。


ブラックオーガとは『鬼化粧』という固有スキルを使用して力と素早さを2倍にする代わりに、バーサク状態…つまり防御の一切を捨て、ただ攻撃のみを繰り出す存在へと変貌するのだ!


俺たちはそれを使うまで待ってやる必要などない。ブラックオーガが現れると同時に俺は弓を3匹の額に向けて放ち絶命させた。アリアスも残る1体の額に向けて水のレーザーを放ち絶命させた。


開始2秒で戦闘終了であった。



 その後は前の時とほぼ同じ流れで、中心に転移の魔法陣が現れ、あの不思議な亜空間に飛ばされ石板からスキルとGPを得ることができた。今回得られたのは『力2倍』のスキルと2万GPの副賞だった。



「やった!俊敏に加えて力も2倍だ!こんなに楽だったのに、こんな素晴らしい能力をもらえて、なんだか申し訳ないくらいだな!」



「本来は初心者ダンジョンから順番にクリアしていく設定だった筈だし、仕方ないんじゃない?次のカッパーダンジョンはもっと楽勝な筈でしょ?」



「そうだよな!この調子でカッパーダンジョンもさっさと終わらすか!」



「オリオン、アリエスよ!主であるゼウスローゼン様の力を吸収したことで我の力もまた少し復活されたようだ!」



「おお!今度はどんな力が復活したんだ?」



「鑑定で対象の持つスキルまで分かるようになったぞ!」



「おお!それじゃー事前に相手の能力が丸分かりじゃないか!!」



「これで我も少しは2人の役に立てるかもしれんな!」



「まあ次のカッパーダンジョンではその必要はないかもしれないけどな。トリスが俺たちの役に立ちたいと思ってくれるだけですごい嬉しいよ!」



「こうして我が力を取り戻してるのもお前たちのお陰なのだから当たり前であろう!お前たちが300万GP貯めることが我の解呪とゼウスローゼン様の復活に繋がるのだからな!!」



「そうだな。俺たち3人は同じ目標を持つ仲間だもんな!トリス、頼りにしてるよ!!」



「そうよ!私たちは仲間なの!!一緒に頑張りましょ!」



「仲間か…悪くないな!」



トリスが嬉しそうにそう呟いたのを見て俺は何だか嬉しくなった。




 その日のうちに王都のギルドに戻り、ギルマスにしばらく王都を離れ故郷に戻るとだけ報告し、翌朝出発の故郷への片道の護衛の依頼を受けることにした。報酬が普通よりかなり安めだったので誰も受け手がいなかったようだ。どうせ移動するのだから、少しでも依頼をこなしてランクをBランクに近づけたかったのだ。



依頼主は王都の結構大きな商会の娘さんらしく、もし依頼を受ける冒険者が現れたら商会に顔を出すように言われていたらしいので、早速アリエスと一緒に顔を出した。


そこはバーナード商会という有名な商会らしく、立派な建物だった。俺たちが入ってすぐのところにいた従業員に依頼を受けて来たことを伝えると、慌てた様子で奥の部屋に案内された。


そこでお茶を出され、待つこと数分、立派な服を着た大きなお腹をした男性が静かに現れた。



「私はこのバーナード商会の代表を務めるダナルと申します。明日の朝出発の護衛の依頼を受けて下さったと伺いました。しかし、あの依頼はCランク以上の冒険者に限定していた筈ですが?」



「俺たちは3年以上前からCランク冒険者ですよ!ずっとダンジョンに潜っていたのでランクは上がってませんが、実力は保証します。」



「なるほど、ダンジョンに…しかし、よくあの金額の依頼を…受けられましたね?」



「あー、俺たちの故郷がラノバの街なんです。急に故郷に戻ることになったので、ついでに依頼をこなしておこうと思っただけなのです。俺たちは正直お金に困ってないので、金額は全然気にしないで下さい。」



「何?それは困る…君たちには悪いがこの金を持って何も聞かずに帰ってくれないかね!」



「これは?」



「依頼料の倍の額だ!これを持ってさっさと依頼を断ってきてくれ!!あの依頼は受け手が出ると困るのだ!!」



「依頼を出したのに依頼を受けられると困る?どういうことでしょうか?」



「それは君たちには関係のないこと。頼む、娘に気づかれる前にさっさと帰ってくれ!!」



「娘さん?確かその娘さんが依頼主でしたよね?しかし、俺たちは本当に別にお金に興味はないんです。依頼を達成してランクを上げなければエリーゼダンジョンへ入れないので依頼を受けてるだけなんです。依頼を断れというのならばそれなりの理由が分からないとこちらも引く理由がありません。」



「くっ、こんな時に融通の利かない冒険者が来てしまった。いや、そんな人間でなければあの依頼を受けようなんて物好きはいないか…分かった手短に理由を話そう。


私にはメネシスという今年11歳になる娘がいるのだが、その娘が幼なじみたちと冒険者になって、先日Eランクに上がったのだ。そして初心者ダンジョンで自分たちを鍛える為にラノバの街へ拠点を移すと言ってきたのだ。


もちろん私はそれに反対した。この商会を継いで欲しいと考えているからな!商人をするのにも最低限の戦闘はできた方がいいと冒険者をしてることは見逃していたが、この街を離れること、危険なダンジョンに潜ることはとても許容できないのだ!!そこでその幼なじみたちとその親に頼み込み、冒険者のパーティーを解散してもらったのだ。


だがメネシスはそれでも諦めなかった。パーティーではなく、1人で初心者ダンジョンに潜ると言い始めたのだ!これには私だけでなく、これまで黙っていた妻も大反対した。


そして長い話し合いの行ったにも関わらず、メネシスは一向に折れず、これまでに冒険者で稼いだ金であの依頼を出したという訳だ。私はそれをいいことにメネシスに条件を出したのだ。


安全の為にも護衛は商会でも普段利用するCランク以上の冒険者パーティーであること、期限までに依頼を受ける者がいなければラノバ行きは諦めることと。本来はCランクパーティーを依頼するにはあの額では必要な額の半分にも満たない。そんな依頼を受ける者がいるなんて思わなかったのだ!」



「うーん。話は分かったのですが、何故そこまで反対する必要があるのですか?ダンジョンを危険視する気持ちは分かりますが、初心者ダンジョンならEランクに上がれる実力を持った冒険者ならばそれほど危険視するレベルではない筈です。娘さんだけでダンジョンに潜るのであればさすがにあれでしょうが、その幼なじみたちと一緒なら反対する理由が正直見当たりません。そこを含めてもう1度話し合われた方がよいのでは?」



「理由はあるのだ!理由は分からないが、メネシスはGPを使って強くなることができない子なのだ!!だから、パーティーを組んでいた幼なじみたちからも一緒に今後も一緒にやっていけるのかを危ぶまれていたのだ。私は親としてできるだけメネシスを傷つることなく冒険者のやめ時を提供してるに過ぎないのだ!ここまで話したんだ!分かっただろう?さっさとその金を持って帰ってくれ!!」




あーなるほど。それで全てが納得いった!メネシスさんはきっと俺たちと同じ転生者だ!!だからダンジョンに拘る気持ちは分かるし、それを心配する親心も分かるな…



「ねえオリオン、メネシスさんって多分私たちと一緒よね?」



「おそらくそうだな!ダナルさん、俺たちとメネシスさんを会わせてもらえませんか?同じ冒険者として俺たちから説得してみますので。おそらく俺たちならばここに残ることを了承させられると思いますよ。」



「本当か?」



「ただし、俺たちと会うときは3人だけにしてもらえますか?」



「それはいいが…本当に大丈夫なのか?」



「逆に聞きますが、このまま依頼を受ける者が現れなかったとして、本当にメネシスさんが諦めると思いますか?1人でこの街を飛び出したりしないと断言できますか?」



「う。それは…」



 こうして、おそらく俺たちと同じ転生者であろうメネシスさんと会うことになった。さて、どんな人なんだろう…




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