第24話

「ああ、俺たちにはトリスがいる。それがあの神様たちにでも想定できてない状況の筈なんだ。」



「どういうこと?私にも分かるように説明して!」



「簡単な話だ。さらに罠があるかを俺たちは確認する手段があるってことだ!本来はどちらかが罠が発動する直前まで分からない秘密もトリスの呪いを解呪しようとすれば分かる筈だろ?」



「あー、なるほど!!」



「というわけで早速やってみるよ!トリスもし解呪できたら俺が危ないから外に出てもらえるか?」




 トリスに向けて完全解呪を放つと、このようにアナウンスが流れた。



《対象の呪いを解呪するには、使用者の寿命を679年と254日分使用します。寿命が足りません。完全解呪は使用できません。》




やっぱり更なる罠が用意されたいたか…完全解呪のスキルは魔力でなく使用者の寿命を使用して解呪するスキルだったのか。これをクリアするにはどのスキルを取得したら使用可能となるんだ?


……。。。あっ!あった!!きっとこれだ!




「ちょっと!ずっと黙ってどうなったのよ?」



「あ、ごめん。やはり更なる罠が用意されていたよ!完全解呪のスキルは使用する人間の寿命を使用して解呪するスキルのようなんだ。そしてさすが神様の呪いだ。679年もの寿命を解呪するのに必要らしい。」



「なっ!679年!?」



「この問題をクリアする方法は、さらに『不老不死』のスキルを取得しなければならないようだな。このスキルも恐らくだが絶対に死ななくなるスキルではなく、老化による死に関してだけ防げるスキルだと思うよ。そうじゃなきゃこのスキルを取得したら呪いでも死ななくなっちゃうからな。不老不死のスキルを得るには300万GP必要だな!おそらくはこれで神様たちの用意した罠は出尽くしたと思うよ。」



「もう十分にお腹いっぱいよ!こんなの普通には実現不可能な内容じゃない!!幾つの罠を乗り越えないと私たちは助かることができないのよ!」



「大丈夫だ!俺たち2人なら絶対に乗り越えられるさっ!!あと6年半で300万GP貯めれば2人とも助かる筈だっ!3年で200万GP貯められたんだ、全然可能な筈だろ?トリスもそれまでは解呪待ってくれよな!」



「我はお前たちを信じて待つのみだ!お前たちならば必ずそれを成してくれることだろう。」



「ああ、任せとけ!」



「でも結局私もオリオンも完全解呪も不老不死のスキルも取得しなければならないのは確定ね…チートスキルを得るのは遠そうね!?私もせっかくだから完全解呪は今取得しとこうかしら。」



「まあ、いいんじゃないかな?チートスキルはともかく、今回の俊敏2倍のスキルを得られただけでもすごい戦力アップだしな!ゼウスローゼン様に感謝だな!他のダンジョンも何度もクリアすれば同じように何らかのスキルを貰えるんだろうな。それを狙うのも悪くないが、慣れたラムーダダンジョンでGPを稼ぐ方が効率は良さそうなんだよな。」



「そうね…王都にも近いのも便利だしね。」




 俺たちは結局引き続きこのラムーダダンジョンで目標の300万GPを稼ぐことにした。が、現実はそう甘くはなかった。


翌朝、俺たちがいつものようにラムーダダンジョンに入ろうとすると見えない壁のようなものに阻まれ、中に入ることができなくなっていた。



「これは参ったな。最後の試練って、本当の意味で最後ってことたったんだな…」



「そうみたいね。別の場所を見つけるしかないわね!」



「といってもな…こんな時はギルマスに相談するしかないだろ?」




 俺たちは王都にとんぼ返りして、ギルマスを訪ねた。



「お前たちが私を訪ねてくるとは珍しいな!」



「ギルマス、ラムーダダンジョン並にGPを稼げる場所を知らないですか?」



「なぜそんなことを聞くのだ?ラムーダダンジョンへ潜ればいいだろう?」



「それが…」




 俺たちはラムーダダンジョンの最終試練を乗り越えたことにより、中には入れなくなってしまったことを話した。ギルマスはその事実に驚きを隠せなかったが、これまでその事実が明るみにならなかった理由を知り納得した。普通は同じダンジョンを1000回もクリアするような冒険者などいないのだ。


冒険者は少しずつ強くなり、ある程度強くなると次の段階のダンジョンや冒険者家業へと移行していくのが当たり前だ。俺たちのようにいつまでも強くなれない冒険者の方が異常なのだ!



「他の6つのダンジョンに関していえば、3つは今のお前たちには利用そのものが不可能だ!強さも冒険者ランクも足りないからな!!初心者ダンジョンとも呼ばれるカッパーダンジョンとその上のカルモアダンジョンに関してはお前たちには物足りない格下のダンジョンだな。


ただGPだけを稼ぐならラムーダダンジョンの格上のダンジョンであるバラドスダンジョンになるんだが、あそこの魔物たちはお前らとは相性が悪い…」



「相性ですか?」



「あそこの魔物は全てが状態異常攻撃を仕掛けてくるんだ。回復魔法の使い手が仲間にいないパーティーにはあそこは下手をすると本来難易度が上のエリーゼダンジョンよりも高い難易度となる。」



「なるほど。状態異常で動けなくなればあっという間に殺られてしまうということですね…そのバラドスダンジョンはどこにあるのですか?」



「この辺りではないな。ここから馬車で北西へ5日ほど移動した辺りだ。だが仲間を増やす気がないのなら止めておけ!Bランクまでランクを上げればエリーゼダンジョンへ入れるようになる。あそこは魔法を使う魔物が中心のダンジョンだからお前らでも気を付ければ何とかなる筈だ!」



「Bランク…俺たちってあとどれくらいでBランクになれそうなんですか?」



「お前らはここ3年、素材すら持ってくることなくギルドに殆ど貢献してこなかったからな…Bランクになるにはまだそれなりに残っていた筈だ!この際、しばらくは普通に冒険者の依頼をこなしてランクを上げたらどうだ?お前たちなら半年もあればBランクに上がれるだろう?」



「普通に…ちょっと2人で話し合ってみます。相談に乗って頂きありがとうございました。」




 俺たちはそのまま宿に戻って今後について話し合うことにした。



「困ったな…こんなところでランクを上げるのをサボったツケが回ってくるとはな。」



「それは仕方ないわよ!私たちはGP集めに集中しなくちゃならなかったんだし。」



「今の俺らに取れる選択肢は3つだな、1つはギルマスの言う通り普通に冒険者家業に集中してランクを上げエリーゼダンジョンを目指すこと。


1つは回復魔法の使い手を仲間にしてバラドスダンジョンへ潜ること。


最後に一旦GP集めの効率は無視して戦力アップの為にカッパーダンジョンやカルモアダンジョンをこれまでのようにクリアのみを目標に駆け回ること。」



「うーん、今さら仲間を増やすのは難しいでしょうね。私たちのダンジョンの潜り方が変な方向で有名になってるしね…冒険者たちって安全と確実な日銭を大事にするのが当たり前で、素材も無視してクリアだけを目指すスタイルには批判的な意見しか聞いたことないわ。」



「そうなんだよな…仲間を増やすと普通に安全に配慮しながらゆっくりと進み、素材を持ち帰って確実な稼ぎを用意してあげる必要が出てくるんだよな。」



「そんなことしてるとGP集めが間に合わなくなるわよ!お金なんていくらあっても死んじゃったら意味がないんだから!!ラムーダダンジョンへ入れなくなったのは本当に痛いわね…」




 ダンジョンの名前が多く出たので纏めるとこのようになる。名前の前のアルファベットは中に入る為に必要冒険者ランクである。俺たちがクリアをしたラムーダダンジョンはこの世界では3番目の難易度のダンジョンである。



易 E カッパーダンジョン(初心者ダンジョン)

↑ E カルモアダンジョン 

| C ラムーダダンジョン 

| C バラドスダンジョン

| B エリーゼダンジョン

↓ A ギヤマンダンジョン

難 A グエンダルダンジョン




 結局この日は結論が出ないまま、イタズラに時間だけが過ぎていった。普通に考えれば仲間を増やしてバラドスダンジョンへ潜るのが一番俺たちの戦力ならば効率が良いのであろうが、仲間を増やすと俺たちの事情を本当の意味で話せない以上、動きにくくなるのは明白なのだ。



「やはり俺たちは仲間を増やすのはやりにくくなる。目的が金でなくGPだというのもあるしな。バラドスダンジョンへ潜るのは諦めよう!かといってエリーゼダンジョンなら効率よく2人で攻略できるかと言われるとラムーダダンジョンでは多少は余裕はあったとはいえ、2つも上のダンジョンだ!苦戦するかもしれない。


俺は急がば回れ作戦でいきたい!カッパーダンジョンとカルモアダンジョンを完全攻略して何らかのスキルを得られた後に、そのスキル次第で今後の方針を考えればいいんじゃないかな?」



「私はそれでいいわよ!便利なスキルを得られたら、もしかしたらバラドスダンジョンへ潜れるようになるかもしれないしね!!弱いダンジョンでもその分数をこなせばそれなりのGPになるかもだし!」



「じゃーその流れでいくか!」




 こうして俺たちの今後の方針が決まった。ラムーダダンジョンへ入れなくなったのは困った出来事だったが、ちょうど200万GPが貯まったタイミングがラムーダダンジョンを完全攻略したタイミングだったことは俺たちには実はかなり都合のよい状況であったことを俺たちは知らなかった。


本来ファーレとベトログが仕掛けていた間もなく200万GP貯まりますというアラームが発動するタイミングは198万以上のGPが貯まることで知らされることとなっていた。


だが実際にその範囲に入ったタイミングはゼウスローゼンの用意した亜空間内であった為、世界とは隔絶されていたことにより、偶然にもその知らせがファーレやベトログに伝わることはなかったのだ。


さらに2人ともその亜空間内で完全解呪のスキルを取得していた為、亜空間を出た時には既に殆どGPを持たぬ状態だったのだ。俺たちが他の転生者たちよりはるかに早いペースでGPを貯めていることなど知りもしないファーレやベトログはまだ年齢も若い俺たち2人には全く注目してなかった。


もしこの時に彼女たちに気づかれていたら、彼女たちが用意していた最後の罠をこの時点で発動され、きっと俺たちは解呪することは叶わなかっただろう。本当に俺たちは運が良かった。


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