第21話

 入り口でギルド証を見せ、俺たちはラムーダダンジョンへ入っていった。初めて入るダンジョンは想像していたものとは違い、入るなり明るい光に包まれた、だだっ広い草原が広がっていた。



「これがダンジョン!?まるで外と変わらないじゃないか!」



「空に太陽もあるわよ!」



「このラムーダダンジョンには基本的に太陽や月のようなものがあるわ。ただ…実際はそこにあるわけでなく、ダンジョンがそう見せてるだけなの。それでも外と同じように昼も夜も感じられるから助かるわね。」



「へー、もっと洞窟のようなものを想像してました。」



「私も…これはすごいわね。」



「ダンジョンに入っただけでそれだけ感動できるのは羨ましいわね。でも、もうダンジョンの中だから警戒はしないと死ぬことになるわよ!」




 クラリスさんの言うように、前方から狼の群れが近づいて来ていた。銀色の毛並みが美しい、シルバーウルフである。前に倒したダイヤウルフよりもかなり格上の狼で、知能もそれなりに高いという。



「あいつらは俺がやります。大丈夫とは思いますが、もし抜けられたらいけないんで一応警戒しといて下さい。」



そう言い、俺は弓を構えた。いつもの氷の矢である。射程に入るなり急所に向けて次々と射ていくが、何匹かはギリギリで避けられ、急所を僅かに外されることとなった。



「さすがに一匹一射とはいかないか。1層でこれは楽しみだな!」



倒しきれなかったシルバーウルフたちに追撃の矢を放ち、止めを刺していく。




「あー!やっぱりオリオンは全部1人で倒しちゃうんだもん!そこは1匹くらい私にも回すべきでしょ?初ダンジョンの初戦闘だったのよ!!」



「アリエス…そこまで考えてなかった、ごめんよ。じゃー今回もあれはアリエスに任せるよ!」



目の前にはまた新たに3匹のシルバーウルフたちが近づいて来てるのが確認できたのだ。



「今度は私だけで倒すから、オリオンはピンチにならない限り手を出さないでよ!!」



 そう言い残し、アリエスは素早く前へ駆け出した。




「へー、あの子もそれなりの戦力はあるのね。2人とも予想していた以上だわ!」



「ありがとうございます。一応これでもCランク冒険者なんで。」



「それにしても無詠唱で魔法を使いこなしてるなんて、かなりの魔力コントロールの持ち主なのね!!」



「それが分かるということはやはりクラリスさんも無詠唱で魔法を使えるのですね?」



「そうね。私もある程度は無詠唱で魔法を使えるわ。」



「流石ですね。」



「私の戦いも見もせずになぜ流石だと思えるのかしら?」



「それはクラリスさんも、もう分かってるでしょ?」



「ふーん。誤魔化そうとはしないのね?」



「クラリスさんを誤魔化そうとしても、俺なんかでは誤魔化されたりしないと思ったからこその真摯な対応のつもりです。最初に断っておきますが、俺はあなたと敵対する意思は一切ありません。俺の知ってしまったことは妻のアリエスにすら言うつもりはありません。だから、このまま仲良くできませんか?」



「それはあなた次第かしら?何故私を恐れないの?何故ダンジョンまで一緒に着いてきたの?殺されるかもと思わなかったの?」



「それはもちろん考えました。だけどそれを目的にしてるとは思えなかったからです。これは俺の勘ですが、あなたの実力ならば、街中だろうとどこだろうと俺たちの命を刈り取ることはそれほど難しいことではないのではないですか?でもそれをしなかった。それはあなたが優しい人だから、できれば俺たちを殺さずに済ませられないかと考えて下さったからだと考えました。」



「どうかしらね?ダンジョンへ呼び込めばたとえ殺しても面倒にならないからかもしれないわよ?」



「どこだろうとバレずに殺れるのに、ワザワザギルドを介して俺たちの前に現れ、堂々と一緒にダンジョンに潜った上で殺そうなんて自分を疑われるようなことを普通はしないでしょ?仮に念のためにダンジョンで殺そうとするにしろ、俺たちがダンジョンに入ろうとしてることは丸わかりなんですから、時期を待って中で殺せば済むことです。


俺はクラリスさんが悪い人とはとても思えないです。」



「人間には私たちは存在そのものが悪なんでしょ?」



「教会の教える一般的な教育ではそうですね。俺は人間であろうと、他の種族であろうといい人もいれば悪い人もいるのを知っています。あなたは魔族ですが、きっといい人です。俺はそう思う自分の勘を信じたいです。」



「人間なのに珍しい考えをしてるわね?あなたは人間でも魔族でも仲良くできると思ってるの?」



「国として言えば難しいことかもしれません。過去の争いの歴史や、教会の教えの影響があります。だけど個人的な繋がりでいえば、全然可能だと思っています。俺はクラリスさんと、いや魔族であるクラリシア・ブリジストンさんとも友達になりたいと思っています。」



「何故その名まで!?やはりあなたの鑑定は偽装の効果も破れるスキルなのね?」



『えっ?トリス、偽装を破って鑑定していたの?』



『どうやらその能力は残っていたようだな。力を失っていたから我も今知ったぞ!』



『どうりでワザワザ会いにくるわけだ…』



「一応そうなんですが、俺に分かるのは名前と種族だけなんです。だからクラリスさんの強さなんかは全く分かりません。」



「まあそうだろうな。私のスキルを知っていれば、私に罠を感知できるスキルなどないことはすぐに分かっていただろうからな!お前は私の嘘を全く疑う感じがなかった。」



「えっ?そこが嘘なんですか?なら罠にハマったらクラリスさんも危ないじゃないですか!?」



「あー、だがダンジョンの罠はコツさえ掴めばスキルなどなくても見分けられるようになるのだ!お前もできる筈だぞ!!」



「えっ?本当ですか!?」



「ああ、無詠唱の魔力のコントロールができる者であれば可能だ!ダンジョンの罠には必ず微量ではあるが魔力の変異が残留する。つまり魔力に違和感を感じられるのならば見るだけで罠は見分けられるのだ!」



「マジですか!それなら俺たちだけでもダンジョンへ潜ることが可能となるじゃないですか!!やった♪クラリスさんありがとうございます!!」



俺は嬉しすぎて、警戒はしながら話していた筈なのに、ついクラリスさんの手を握り締め、お礼の言葉を述べていた。



「そ、そんなに嬉しいことなのか!?」



「信じてもらえるか分かりませんが、俺たちは2人とも生まれながらに呪われてるんです。20歳になるまでに少なくとも200万GPを貯めないと死んでしまう呪いです。だから、少しでも効率よくGPを稼ぐ方法が必要だったんです。だからこのダンジョンで少しでも効率よくGPを集めたかったんです。」



「まさかあなたたち人間なのに『呪い子』だったの?」



「呪い子?それは魔族の子にも俺たちと同じような呪いを受けて生を受ける者がいるということですか?」



「そうね…かなり稀な話なんだけど、過去に何度か報告があったわ。彼らは悲しいことに子供の頃に全員亡くなるのが運命付けられているの。」



「子供の頃?20歳ではないのですか?」



「魔族は30歳で成人よ。20歳なんて体も発育途中の今のあなたたち程度でしかないわ。魔族に伝わる呪術払いの踊りでも効果はなかったわ。あれは余程強い呪いのようね。」




なるほど…まさか魔族にも転生している者がいたなんて!しかし酷い…!!GPをスキルに変えれるようになる前に死を迎えることになるなんて…でもそれじゃーファーレは嘘をついたことにならないのか?


いや違う、人間に転生した者に完全解呪を使ってもらえれば解呪は可能となるのか…この世界の人間と魔族の関係を考えれば、それだけで死の宣告といっても過言じゃないじゃないか…


改めてファーレとベトログは糞だ!



 俺たち以上に苦難に晒されていた他の転生者たちに想いを馳せ、俺はあの邪神たちに怒りの気持ちを高めていた。アリエスからあの神たちの罠を教えられた時、実は俺はそれでも異世界へ転生させてくれた2人の神に感謝すらしていた。しかし他の転生者たちの話を少しずつ知り、トリスから得た情報などからあの2人の神の本質を知れば知るほど、それが間違いだったことを知ることとなった。


俺たちの人生はあの神たちの娯楽の為にあるのてはない!俺たちが幸せになる為にあるべきなのだ!!




「俺たちはおそらくその呪い子と同じなんだと思います。でも俺たちは必ず生き残ってみせます!可能性は0ではないんですから!!」



「そうか…どうやら本当に私のことを他にバラすつもりはないようだな!」



「はい。正直そんなことに首を突っ込んでる余裕は俺たちにはないからです。クラリスさんがいい人なのはもう分かりましたから、たとえクラリスさんが王家の者を殺したとしても、俺はクラリスさんがそれをするだけの何らかの理由があったと考えると思います。」



「そんなことしないさ。私は人間と仲良くしたいと考えてる珍しい派閥の魔族なのだ!たまたま私には変装と偽装のスキルがあったからな、それを利用して人間の国で生きていたら、たまたま今の仕事にスカウトされたというだけだ。


それにな、今の主である人は中々に人間のできた方なのだ!私はその方の一生分くらいは彼女の傍で仕えてもよいと考えてるのだ。」



「そうでしたか!なら俺もそれを是非応援します!クラリスさん、改めて俺たちと友達になってもらえませんか?それとももう俺たちとは関わりあいにならない方がよいですか?」



「言っただろ!私は人間とは仲良くしたいという派閥の魔族だ。友達になることも嫌な訳がないだろう。仕事が休みの日はたまにはお前たちのダンジョン探索を手伝ってやってもいいぞ!」



「ほんとですか!?助かります!!」



「彼女の戦いも終わったようだし、それではまずは罠の見分け方を教えてやろう。」



「お願いします!」




 こうしてクラリスさんのお陰で俺たちは2人でもダンジョンへ潜るための最低限の技術を得ることができた。これにより俺たちのGP稼ぎは爆発的に効率的になっていった。


だが俺たちはまだ知らない。俺たちの存在の影響で、彼女の運命を大きく変えてしまうことになることを…



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