第20話
「オリオン、王都に戻ってたのか?」
「あっ、ギルマス!何故こんな入り口に?」
ギルドに入ったところで声を掛けられたのはギルマスその人であった。
「ちょっとな、この後少々面倒な来客があるから、その出迎えだ。」
「ギルマス自ら出迎えなんて、何だか大変そうですね?」
「まあな、ところで依頼を受けにきたのか?」
「いえ、先ほど王都に到着したばかりですので今日はゆっくりするつもりです。ひとまずラムーダダンジョンへ一緒に潜ってくれるメンバーの募集をかけようと思い、ここへやってきました。」
「あー、確かにお前たちだけではラムーダダンジョンは危険過ぎるからな!そうか…仲間が見つかればいいがな。。」
ギルマスのこの微妙な発言通り、俺たちの仲間探しは難航した。ラムーダダンジョンへ潜りたいという冒険者は多く存在しているのだが、俺たちと組んでくれる冒険者がいないのだ!
募集の内容を見て応募があったと聞き面談すると、皆俺たちの姿を見てすぐに、「はっ?ガキじゃん!」「無理無理!こんなのとダンジョンなんて行ったらこっちの命が危ないわ!」「ガキは素直に初心者ダンジョンに行けよ!」など、辛辣な言葉を投げられ、こちらの話を聞いてすらもらえなかった。
「3日も募集してこれじゃー、こりゃー仲間探しは絶望的かもな?ポーションを買い込んで、安全に配慮して2人で潜るしかないかもな…」
「そうね、こんな仲間探しでいつまでも足止めされるんなら、いっそその方がいいのかも。」
「おい、たったの3日で諦めるなんて忍耐力無さすぎじゃねーか?」
「ギルマス!いつも突然現れますね!?」
「ここはギルド内の酒場なんだからいても普通だ!それよりも、お前たちの見た目ならこんなことになることくらい予想はできたんだ。たったの3日で諦めるのは早すぎだ!」
「うーん。いい人を探すのを諦めたというより、俺たちを仲間だと考えられる人たちが現れそうにないことを早々に悟ったからの選択なんですよ!」
「そうか…しかし、リアルにラムーダダンジョンへ2人だけで入るのはお勧めしないぞ。魔物討伐だけなら心配はしてないんだが、スキル持ちでなければ、罠には慣れが必要だ!ダンジョンを舐めれば一瞬で死ぬぞ!!」
「ギルマスからいい人を紹介とかしてもらえないんですか?」
「人を頼るんじゃない!本来は他の依頼をこなしながら、王都での名前を上げ、それを元に仲間を探すのが正しい順序だ!特にお前たちのような見た目がクソ弱そうな奴等は余計にな!!」
「そんなこと言われても、ラムーダダンジョンへ潜る為に王都に来たのに、他の依頼をやる気になれなかったんだから仕方ない!それにあの件でお金には困ることがなくなってるしね。
あっ!その金で冒険者を雇ってラムーダダンジョンへ潜るのもありですね!その場合、中で見つけた宝は雇い主のものになるんでしたよね?」
「ちっ!その年で何て考え方だ!!それは契約の内容次第だな!たいていは宝のレア度により分け前がプラスされる形で契約をするのが通例だな!!」
早速俺たちは罠を感知できるスキルを持つ者と、回復魔法を使える者をお金を出して募集してみた。俺たちが子供の見た目ということもあり、相場より若干高めに設定しておいた。
それでもやはり俺たちが一緒に潜り、魔物を倒す役目を俺たちがすると話すと、皆怪訝な顔をされ、相手にもされなかった。やはり、自分等の命の危険が高いと判断されたようだ。
その中で唯一話を聞いてくれたのは、ちょっと訳ありでできれば関わり合いになりたくないと考えていた相手であった。
彼女は俺たちが王都に戻って来たその日に出会った…正確には話したことはなかったが、目を付けられてしまった相手である。あの日、ギルマスが入り口で待っていた相手が彼女の仕える者であり、俺たちは偶然にもまだギルド内に残っていた。
そして、俺はひょんなことから彼女たちの正体を知ってしまったのだ。それは単純な理由だ!俺の胸ポケにいるトリスの存在である。
『ほう、変わった奴らがいるな!』
『変わった奴ら?』
『ああ、この国の王女と何故かその傍にエルフに変装した魔族がいる。』
「王女と魔族だと!?」
俺はあまりに突飛な話だったので、つい小さな声を出してしまったのだ。ヤベッと思い、慌てて素知らぬ顔で元の作業に戻っていたのだが、どうやら彼女の耳には俺の小さな呟きは聞こえていたらしく、彼女はギルマスたちと奥の部屋へ移動する間、俺の顔をジーっと睨みながら消えていった。
そのまま俺たちは、すぐにギルドを出たので彼女とはそれ以来顔を合わしてなかったのだが、まさかわざわざ向こうから会いに来るとは…彼女の目的はハッキリとは分からないが、十中八九俺たちとダンジョンへ潜ることではないだろう。あの時の俺の台詞のこと、他に言いふらしてなどいないかを探るために近づいてきたのだろう。
「初めまして。話を聞いて下さりありがとうございます。俺はオリオン、こちらは妻のアリエスです。あなたは?」
「私はクラリスよ。私は回復魔法も、罠の探知もできるわ!本当にあなたたちが一緒にラムーダダンジョンを探索可能かこれからテストしたいわ!もしテストに合格したら別にお金もいらないわ!でも不合格なら話はなしよ!いいわね?」
「テスト?何をテストするんですか?」
「簡単な話よ!実際にラムーダダンジョンの一層をパーティーを組んで探索してみればいいわ。実戦が一番お互いの実力が分かるでしょ?一層くらいなら私1人でも全く危険はないレベルだしね。」
この人とダンジョンか…かなり危険なんだよな。。これは勘ではあるがおそらく彼女の実力はギルマスに近いものがあると思われる。俺たちでは逆立ちをしても勝てないだろう。おそらくは目的は俺の口封じだろう。俺の知った情報を外に漏らさないようにしようとしてるのであろう。
脅されるだけなら元々関わるつもりはなかったので、無条件で呑もうと思ってる。だが、もしその方法がダンジョン内で俺たちを処分することだったなら…
だがここで断れば、俺たちのことを益々危険因子として認識されてしまうことだろう。場合によっては彼女ならばどこでも俺たちを殺すことくらいなら簡単なのかもしれない。ならば、あえて相手の話に乗って、俺たちは敵ではないことを分からせたい。
「分かりました。では早速向かいましょうか!」
俺たちはクラリスと共に念願だったラムーダダンジョンへと向かっている。
「俺もアリエスも実戦空手の有段者です。それに俺は魔法や弓も使います。クラリスさんはどんな戦い方をされるんですか?」
「私は基本は魔法を使って戦うタイプよ。でも接近されればナイフも得意な方よ。」
「じゃーアリエスが前衛で俺が中衛、クラリスさんが後衛で良さそうですね。あっ、でも後衛だと罠の感知が間に合いますか?」
「罠の感知は目に見える範囲なら全て感知可能だから、大丈夫よ。」
「優秀な罠感知なんですね!頼もしいです!!んっ?どうかしました?俺に何かついてます?」
「何でもないわ。」
クラリスは俺たちのことを量りかねていた。あの時、確かにこの少年は「王女と魔族だと!?」と呟いた。普通の人間には聞き取れないほど小さな声だったが、魔族である私にはハッキリと聞き取れた。
おそらくは鑑定のスキル持ちなのだろうと予想している。だが私は通常の鑑定では正体を見破られない偽装のスキルを持っている。ならばなぜバレたのだろうか…その秘密を探るためにわざわざ仕事を休んでまでこの少年に近づいた。
調べてみてもこの少年は周りに私たちの話をした形跡は見つけられなかった。そこでラムーダダンジョンへ潜る為のパーティーを募集してるようだったので、それを利用し、近づいてみた。
しかし、少年も奥さんだという少女の反応も、まるで私に畏怖の感情を感じられない。普通、魔族は人間にとって恐怖の対象である。基本となる力や体力も魔族の方が断然優れており、さらに魔法に関していえば比べ物にならぬほど才能に差があるのだ!人間のAランクの冒険者魔法使いが、魔族でいえばそこらの農民でも使えるレベルの魔法の腕なのだ。
過去幾度となく魔族と人間は争い、魔族は人間たちを大量に殺戮してきた。だがその度に魔族は人間たちの数の暴力の力に破れてきた。魔族は1人1人がいくら強いとはいえ、総人数は数百人程度なのだ。100万を越える大軍に休む暇もなく攻め続けられれば、疲労し、魔力は尽きてゆく。魔力の尽きた魔族など、多少能力の高い人間と変わらない。
人間たちは自分達が住むには適さない辺境の死の大地を魔族に与え、人間たちの世界へ足を踏み入れることを禁じた。人間たちが魔族を滅ぼさなかった理由は簡単だ!
たった1人の魔族を恐れてるのだ。
彼は魔族でも珍しく、多種族と仲良くしたいという考えを持っており、人間との戦争には参加しなかった。だが、彼の力は魔族の中でも群を抜いてることは歴史が物語っているのだ。魔族は通常300年ほどで寿命を迎える。しかし、噂では彼は優に5000年は生きているという。
過去の戦いで人間が理不尽に魔族を1人残らず滅ぼそうとしたことがあったという。その時彼は怒り狂い、その人間の国をたった1人で滅ぼしてしまったという。彼には魔力切れや体力の減少などまるで無いように無尽蔵に強大な魔法を放ち続けていたという。
さらに救援に訪れた他国の兵たちもことごとく葬り去った上、それらの国々のトップたちの前に現れ、「魔族に対し、いや、獣人や亜人も同じだ!他人種にお前たち人間が理不尽な滅亡を与えようとするのならば、私も人間に理不尽な滅亡を与えねばならなくなる!くれぐれもよく考えて行動しろ!!」といい放ったらしいのだ。
彼は寿命により死ぬことはない、老化により老けることさえない。本当に魔族であるのかすら怪しい特別な存在である。
しかし、彼は誰よりも優しい心を持ち、争いを好まない。私の憧れの人である。
人間は彼の存在を恐れ、それ以降魔族と揉めることがあっても理不尽な殺戮は避けてきた。正当な理由もなく干渉することはなくなったのだ。その方法の1つが、魔族の強さや恐怖を幼少より子供たちに教え込み、魔族を恐怖の対象として確立させることだった。
つまり、もし私の正体に気づいているのなら、今の対応は明らかにおかしいのだ。魔族と気づいていれば、私が近づいた理由は何となく気づいてる筈だから、ダンジョンへと共に入るのにはかなり警戒されると思っていた。おそらくは何らかの言い訳を理由にやんわりと断ってくると…だが、彼らは私と連携を取るための話し合いに集中している。断ってくる気配はない。
結局そのまま、何事もなくラムーダダンジョンへ到着してしまった。
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