第19話

 俺たちは婚約もとい、婚姻を結び、再び王都へと向かっている。今回はエリーゼさんは一緒ではないので、乗り合い馬車を利用している。


乗り合い馬車とは、同じ目的地、もしくは同じ方向へ向かう人たちで集まって馬車で移動するもので、利用客は運賃を安くあげることができ、提供する方は多くのお客を一台で運べるので利益を上げやすいので、お互いに理に適ってるのだ!


問題といえば、乗り合い馬車は利益率を重視するので、護衛に付ける冒険者の質が悪かったり、ランクの低いパーティーを使用してたりする。


 今回もどうやら例に漏れずランクの低い冒険者だったようである。先ほど現れたゴブリン程度に苦戦していた。恐らくはF、よくてEランクくらいの冒険者パーティーだろう。


ただし彼らは戦闘力はそれほど高くないものの、人間性は悪くなく、一生懸命護衛の任務を全うしようと、頑張ってくれていた。しかし、運が悪いことに、乗り合い馬車を狙う珍しい山賊に襲われてしまった。


乗り合い馬車は基本、荷物に金目のものを持ってる人など殆ど利用しない。だから普通はそれを狙うような盗賊や山賊などまずいないのだが、今回は客にアリエスがいた。遠巻きからでも美少女だと分かるレベルである。拐ってどこかの貴族にでも売り付けようとでもしたのかもしれない。


山賊たちは、護衛の冒険者たちをアッサリと蹴散らし、俺たちの方へ近づいてきた。



「おい!命が惜しかったら金目の物を持ってる奴はさっさとよこせ!!それとそこの女!まだ若いがいい女だ!!俺らが十分に可愛がってやった後に、どっかの変態に売りつけてやるからこっちにこい!!」



そんなこと言われてはい行きますなんていう女いるのか?とは思うが、アリエスはすぐに動こうとした。こいつらをぶち殺すつもりなのだろう。だがそれを俺は制した。



「俺の妻にそのキタネー顔で、下品な言葉を吐くんじゃない!!殺すぞ!」



「俺の妻」という言葉を言いたかっただけでしょ?という呆れ顔をアリエスから向けられるがそんなの無視だ!



「あん?お前の妻だと?ギャッハハッハ!!こりゃいい!こんなガキが何言ってやがるんだ?誰が誰を殺すんだ!こら!」



「もういい!うるさい!その声だけで耳障りだ!!」



 俺は瞬時に移動し、男の首の骨を「ボキッ!」と折ってやった。そのまま、その様子に固まっていた仲間たちを、間髪入れずに「ボキッ!」「バキッ!」と死体へと変えていった。3分もかからずに、20人ほどいた山賊たちは全員死体へと変わっていた。



「さあ、ゴミは片付きました。先を急ぎましょう!皆さん大丈夫ですか?」



俺は起き上がってる護衛の冒険者たちに声を掛けた。どうやら軽い怪我で済んだようだ。



「あぁ、助かったよ。まだ若いのに強いんだね!さっきのは実戦空手だよね?」



「はい。これでも俺たちは一応Cランク冒険者なんで。」



「その若さでCランク!すごい!!どうりで俺たちとは次元が違うわけだ!」




 彼らは先日Eランクに上がったばかりの3人組の冒険者で、冒険者としての活動を広げる為に今回は護衛の依頼を受けたそうだ。本来彼らはガンガン攻めていくタイプらしく、誰かを守りながら戦うという慣れない戦い方に戸惑い、本来の力も発揮できなくなったようだ。


俺が「なら戦闘中は馬車の守りは俺たちがみといてやるから、魔物退治に集中したらいい!」と言うと、「それはありがたい!よろしく頼む!」とアッサリとその提案を受け入れた。


実はこれは非常に珍しい。自分等の受けた依頼に他の冒険者が助言ならともかく、口出されるのは本来プライドの高い冒険者たちには簡単に受け入れられないことなのだ。そういう意味では頭は柔らかく、生き残る為には使えるものは使う姿勢はとても好ましく思えた。


実際、彼らの動きは目覚ましくよくなった。今戦ってるゴブリンたちは前の襲撃時より数は多いのだが、難なく討伐できている。連携も悪くない。



「オリオン君、ありがとう!君のお陰で本来の戦いができてる。」



「いえ、結局俺は見てるだけで何もしてませんから。カイザーさんたちの実力ですよ。」



「俺たちはやはり攻撃に集中できた方がいいようだ!今回の依頼で護衛の仕事は向かないってことが嫌ってほど理解できたよ!」



「冒険者にとって得意なこと、苦手なことを学んでいくことも生き残る為には大切なことじゃないですか?」



「まあね。でも俺たちは今はこんなだが、必ず強くなってみせる!俺は実は剣豪のスキルを覚える為にGPを貯めてるとこなんだ!!こいつももうすぐ初級風魔法を覚えられる。こいつだってナイフ使いのスキルを覚えられそうなんだぜ!そうしたら俺たちは今よりずっと強くなれる!きっと俺たちも成り上がってやるんだ!!」



 俺は単純に彼らが羨ましかった。前向きな目標の為に努力をし、仲間と共に少しずつ成長していっている彼らが眩しかった。


それに比べて俺たちはどうだろう。ステータスは成長しない。強くなる目的でもなく、明るい未来の為に頑張ってるのでもない。20歳以降も生き残る…ただその目的の為だけに必死でGPを貯めている。


俺はそんな生活も楽しんで生きてきたつもりだった。だが彼らが今の弱さを認め、強くなって活躍する未来を夢見て嬉しそうに語り合ってる姿を見ると、俺の求めていた異世界生活は彼らのようなものだったんじゃないかと思えてならないのだ。



「オリオン、羨ましい?」



「あぁ…正直羨ましいな。俺もアリエスと一緒にいろんなスキルを覚えながら徐々に成長して、少しずつ冒険者として活躍する、そんな生活がしたかったな!いつかチートをゲットできたとしても、俺たちの場合いきなり人外になるだけだろうからな。ロープレなんかでも育成してる間が一番楽しいんだ!いきなり最強になったって、それを使って戦う相手もいないんじゃ何も楽しくないだろうからな。」



「私も同意見よ!私たちの生活ってこういう世界で生きてく上で一番楽しいところを全て奪われてる感じだよね!私が1人だったら10歳からずっと腐ったままただ生きていき、そのまま死んでいたと思うわ。


でも今は違う!私は死にたくない。長くあんたと一緒に生きたい!そして、ただGPを貯めるだけの毎日だったとしても、私はオリオンと一緒なら幸せだよ!だから絶対にあんな神様たちに負けずに長く生きましょう!!」



「ああ、俺もアリエスと一緒だったらどんな世界でも楽しんでみせる!そして2人でずっと幸せに過ごそう!!」



「うん!」



 この日、俺は前世も合わせて25年の人生で初めて異性との口づけを交わした。初めての経験なのに、想像していたよりも自然に行うことができたのに、自分でも驚いた。


そして俺は彼女の為に改めてこの呪いを必ず解いてやると心の底から誓ったのであった。




 4日後、俺たちは再び無事に王都に辿り着いた。カイザーさんたちも報酬を受け取りに冒険者ギルドへ向かうとのことだったので、一緒に向かうことにした。



「えっ?オリオンたちは2人だけでラムーダダンジョンへ潜るつもりなのか?それは幾らなんでも無謀じゃないか?2人は回復魔法も使えないんだろ?罠なんかも見抜けないんだろ?」



「はい。」



「何て命知らずなんだ!ラムーダダンジョンはこの王都でもそれなりに有名なダンジョンなんだぞ!初心者ダンジョンとは違って罠だってある。魔物だって強い!ポーションは確かにあるが、万が一ポーションでは治せない大きな怪我をすれば、外に戻ることもできなくなるぞ!


そんなのまだEランクの俺らだって分かるのに、何故そんな自殺行為をしようとしてるんだ?」



「……」



実は言われるまで考えてなかっただけである。魔物だけであれば何とかなるだろうと思っていたけど、確かにダンジョンで罠を発見できない上、怪我を回復できないのは致命的だと理解させられた。


この世界は、ゲームのようにダメージを回復させるポーションは存在するが、高価な割には性能はいまいちなのだ。そして、前にも話したが、この世界の回復魔法はとても優秀でその性能はポーションの比ではないのだ!!



「アリエス、一緒にダンジョンに潜る仲間を探す?」



「そうね、最初はその方がいいかもね!」



「よかった、思い止まってくれたか。ならギルドで募集したらいい!きっといい人を紹介してくれる!!」




 こうしてカイザーさんの指摘で、俺たちはダンジョンに共に潜る仲間を探すことになったのであった。


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