第18話

「オリオン、お前アリエスと婚約しろ!」



「えっ?何それ?今の話聞いて何でそんな話が出てくるんだよ?王都にアリエスと一緒に冒険者としての修行に行くってはなしだよ!?」



「それは分かってる。だが、これからずっと一緒に命を預け合っていくんだろ?それはある意味夫婦のようなものではないのか?それに知らない街でお前があんなかわいらしい女の子と2人でずっと過ごすのに、手を出さずにいれるとは思えんのだ!」



「えっ?どういうこと?俺って父さんからそんなに節操なしに思われていたの?」



「節操なしとは言っとらん!ただお前が人一倍異性へ興味を持っていたことは俺やミランダにはよく分かっていた。お前が4歳で母であるミランダの裸をそういう目で見ていたのに気づいた時には俺は凍りついたぞ!」



「えっ?」



それは俺が16歳で転生したから、中身は思春期の童貞高校生レベルだったから仕方のない状況だっただけで…まさかガラバスがそれに気づいていたとは…しまった。言い訳が思い付かない。。



「それだけじゃない。俺が弓を教え始め、ハンター仲間に会わせた時にも、まだ5歳だったお前は俺たちとそんなに年齢の変わらないナジェルの胸元を見てずっとイヤらしい顔をしていたんだぞ!あの後俺が仲間たちに何て言われたか分かるか?「お前、あんな小さな子供にどんな教育してきたんだ!?まさかガキの前でそういうことばっかしてんのか?」と俺たち夫婦の情事のことまで疑われたんだぞ!


俺も男だ、そういうのに興味を持つ気持ちは分からないではない。…が、お前の場合は理由は分からないが、ちょっと…いや、異常なほど早くからそういうことに興味を強く持ってしまったようなのだ!」




それは俺が転生してー。駄目だな…その説明を省いて何て言いわけしても信じてもらえない。




「俺はお前が女を幸せにしてやれる度量があることは分かっている!そういう面でいえばお前は俺の自慢の息子だ!!しかし、そちら方面に関しては正直性欲が強すぎていつ暴走するか心配でならんのだ!!


アリエスはブラウスの娘だ。あいつは厳しいとこもあるが根は優しい奴なんだが、娘のこととなると人が変わるところがある。だが幸いにも、あいつはお前のことを認めてくれている!お前にならアリエスを嫁にやってもいいと言ってくれているんだ!!


だがもしお前が婚約もせずに、アリエスに手を出そうものなら、あいつは俺とお前を殺そうとする!!間違いなくそうなる!だから一緒に行きたいならちゃんと婚約してから行け!お前もアリエスのこと気に入ってるんだろ?」




アリエスのこと…確かに気に入ってるな。死を覚悟した時にはアリエスのこと好きなんだろうなとは思ったな。しかし俺はまだ9歳だぞ!そんな心配されるような年齢じゃない筈なんだが…


だが、今の話を聞く限り自業自得なんだよな…




「アリエスのことは好きだけど、やっぱり婚約は早くない?俺まだ9歳だよ!」



「早いものか!早いやつらなんて5歳でも婚約してる奴等がいるらしいぞ!!」



「それって貴族や王族の話だよね?」



「そりゃーそうだが…俺はお前が婚約もしないのなら、この話には反対させてもらおう!お前のいう通りお前はまだ9歳だ、家を出て1人立ちするにはまだ少し早すぎるだろう?」



「ガラバスの言う通りよ!私もまだそれは心配だわ!!せめて10歳になるまではここにいなさい!この街でも冒険者としては十分働けてるんでしょ?」



「そうだけど、これは俺たちにとっては大きなチャンスなんだ!俺王都に行きたいんだ!!」



「じゃー1人で行くか、婚約して2人で行くことだ!」



「なんだよそれ!俺たちはパーティーなんだよ!!別の街で過ごしてどうするのさ!?だいたいさっきから婚約、婚約って言ってるけど、アリエス抜きで決められるような話じゃないだろ!!」



「それもそうだ!じゃー今からアリエスとついでにブラウスともその事をしっかりと話してこい!」



「そうね、それがいいわ!」




 何だか訳が分からないまま、俺は家を追い出されアリエスの元へ向かってる。俺は行って何を話せばいいんだ?


簡単に許可をもらえてとんぼ返りで王都へ戻るつもりだったのに、妙なことになってしまった。



この状況をどう説明しようかと考えていたら、もう道場へ到着してしまった。早いよ!何も考え纏まらなかったよ!


道場に入りしばらく歩いていると、アリエスとバッタリ会ってしまった。どうやら実戦空手の型の練習をしていたようだ。



「オリオン、どうしたの?親にはちゃんと話したの?」



「ああ。それが親から王都行きを反対されてしまったんだ。」



「えっ?そうなの?何で?」



「あの…その…」



言える訳がない!俺がアリエスに手を出すに決まってるから反対されたなんて…



「もうっ!どうしたのよ!ハッキリしないわね?」



「アリエスは許可もらえたのか?」



「うちはね、オリオンが一緒だと言ったら許可をもらえたわ!それにしても困ったわね。おじさんやおばさんは絶対に駄目って言ってるの?」



「いや、1つだけ条件を飲めば許可するとは言ってくれてるんだが、それがあまりにも突飛な内容で困ってたんだ。」



「突飛な条件?何?おじさんたちも連れていけとか?」



「違う!…俺がアリエスと…婚約すること…」



「えっ?何でそんなに小さな声で言うのよ?私がなんなのよ?」



「だから俺がアリエスと婚約するなら2人で王都に行ってもいいって言われてるんだ!」



「えっ?えええー!?」



「なっ!突飛な条件だろ?俺が俺たちだけで決められる話じゃないだろ!!って言ったら2人は俺にアリエスとブラウス師範にそのことをちゃんと話してこい!ってここへやられたんだ。」



「で、あんたはどうしたいのよ?私と婚約したいわけ?」



「えっ?俺はアリエスのこと好きだし、婚約が嫌とかそんなことはないんだけど、まだそういうのは早すぎるんじゃないかとは思ってるな。」



「私のこと好き…そっか、そうなんだ!…なら私は婚約してあげてもいいわよ!」



「えっ!そんなにアッサリ決めていいのか?アリエスは本当に俺でいいのか?」



「オリオン以上の男なんてそうそういないわよ!それにね、私たちは同じ秘密を持ち、それを乗り越えないといけないんだよ!これ以上に運命を共にするのに相応しい相手なんていないわよ!」



「まあ、言われればそうだよな!これで一緒に王都に行けるな!…なあアリエス、ところで婚約って具体的に何をすればいいんだろ?」



「えっ?親たちの前でそれを誓い合うとか?って、私が知るわけないじゃない!父さんに婚約のこと話して、それも確認しましょう!」




 それからブラウス師範に婚約のことを伝えると、反対されるどころか何故かものすごく喜ばれ、翌日両家の家族全員で集まる流れとなった。俺は家に帰され、婚約することを2人に話すと、2人は異常なほど喜び、「明日への準備をしなくっちゃ♪」とミランダは張り切って何かの準備を始めた。


ガラバスはといえば「祝い酒だ!」と叫び、俺に酒を飲まそうとしてきやがった。「俺はまだ9歳だからお酒なんて早い!」とピシャリと断ったら、一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに上機嫌で酒を1人で煽っていた。やはりこの姿はドワーフにしか見えない。



 翌朝2人に連れられ、道場へと赴いた。そこにはいつもの動きやすそうな格好ではなく、女の子らしい可愛らしいドレス姿をしたアリエスがいた。なんと化粧までされていた。見慣れないその姿に俺はドキッとして思わず固まってしまった。



「ちょっと、何か一言くらいないの?」



しばらくポーっと呆けてると、アリエスの方から声を掛けられてしまった。



「あ、あぁ。とても綺麗で見惚れてしまいました。」



「ぷっ。何で敬語なのよ!?」



「あっ、つい。でもその姿は何なんだ?」



「えっ?オリオンはおばさんたちに何も聞いてないの?」



「えっ?何か母さんが準備をしていたけど、何をするかは結局何も教えてもらえなかったな。」



「そうなの?何かねこの世界でいう婚約って向こうの結婚と殆ど変わらないみたいなの。婚約は2人が将来を共に過ごすことを誓うことで、結婚は家族を作り繁栄させることを誓うことらしいの。


つまりは今日これから行う婚約って向こうの結婚式と変わらないってことね。そしてこっちの結婚っていうのは周りの人にこれから子作りを頑張ります!協力をお願いしますって宣言のようなことらしいの。」



「なんだそれ?それに意味はあるの?」



「こっちで子供を産むってことは、向こうよりもかなり大変なことらしいのよ。だから事前に周りに協力を仰いでおくことで何があっても対応できるようお願いしておかないと大変なことになるらしいわ。」



「なるほど…ということは?俺たちはこれから向こうでいう結婚式をするってことなんだよな?」



「そっ!」



「そって軽いなー。つまり一気に夫婦になるってことだろ?」



「そうみたいね。この流れだし、もうやるしかないんじゃない?」



「じゃーやっぱりキスするのか?」



「こっちじゃキスはしないみたいね。2人で神様にお祈りするだけみたいよ!残念だった?」



「べ、別に!」



ちょっと期待してしまったことはわざわざ言うべきではないだろう。




 この日俺とアリエスは婚約し、晴れて夫婦となった。思っていた婚約とは違ったが、それも今日はいつも以上に綺麗なアリエスの姿を見られたことで俺は満足してしまった。


 この世界にも色々と慣れたと思っていたが、文化はやはり違うし、共通語理解のスキルの力で言葉を理解し、読み書きもできるのだが、たまに今回のことのように言葉がずれて訳されることがあるのは多少は仕方ないことなのだろう。


スキルとて万能で完璧ではないということなのだろう。



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