第17話

「えっと…」



 ギルマスは俺の目をしっかりと見据え、そこには話さなければどうなっても知らないぞ!とばかりの無言の圧があり、俺はどうするべきか迷ってしまった。


ギルマスとの戦いが楽しくなって、ついつい後先考えずに本当の実力を見せることにしてしまったちょっと前の自分を恨んでしまう。これは…さすがに何も話さずに見逃してはもらえなさそうだと判断した俺はようやく口を開いた。



「ギルマス、俺の力のことを話せというのであれば2つ約束をして下さい!」



「何だ、言ってみろ!」



「今から聞く話を絶対に他言しないこと。そして、俺たちをラムーダダンジョンに自由に入れるランクまで冒険者ランクを上げて下さい!」



「何だそんなことか!全然構わないぞ!ならさっさと話せ!!」



「えっ?そんなにあっさりでいいのですか?」



「元々お前の能力についてはエリーゼにも他言無用と言っていた。それに先程の戦いでお前たちがオークキングとオークジェネラルを討伐したことは間違いないと確認が取れた。お前ら2人がCランクに引き上げることは決定していたのだ!


何も言わずともその2つの願いは叶っていたのに、余計なことを言ってしまったな!!」



ガーン…やっちまった!



「くそっ!やられた。でもこれで話さないわけにはいかなくなりましたね。俺の先程使った魔法は全て生活魔法です。正確にはそれを組み合わせて合成した合成生活魔法ですね!」



「おい、待て!お前はあれをただの生活魔法だとでも言うのか?」



「いえ、ただのとは言ってません。かなり作り替えられた生活魔法ですね。論より証拠です。普通に生活魔法を使えばこうです。我は願う、闇に灯す光源のしずく…ライト!」



俺の目の前には小さな光の玉が浮かんでいる。



「このように詠唱をすれば必ずこの大きさ、この輝きの光の玉となり、変更することはできません。しかしこの詠唱した時の感覚を、感覚だけで再現し、同じくライトを発動させればこうなります。」



さらにもう1つの光の玉が浮かび上がる。



「このままではただ無詠唱で発動しただけで何も変わりません。しかしこれを意識して作り替えると、こんな風に大きくも小さくも、眩しくも暗くも、さらには三角や四角、さらにはこんなギルマスの姿にでもできます。」



目の前には次々と形を変えていくライト、そして今ではギルマスの大きさ姿をした光輝くものが現れ、ギルマスに向けて手を振っている。



「このように無詠唱で放った生活魔法は魔力やイメージの使い方次第でどうにでも作り替えられる事実を俺は1歳になる頃に発見しました。それから訓練を重ねて今では先程使ったような攻撃魔法さながらの魔法にまで昇華することに成功したんです。


この技術は誰にでも努力次第で使用可能なものです。俺は8年の努力でここまで使えるようになりました。元々魔法を得意とする人がこのことを知ればもっと凄いことができるようになるかもしれません。人間には悪人も大勢います。こんな技術が世界に広まれば下手をすれば世界を混沌に変えうる恐れがあると考えてます。


だからこそこの件は確実にここだけで留めておいて下さい!!」




あれ?何かみんな固まってるぞ?初めて話を聞く2人はともかく、なぜアリエスまで固まってるんだ?



「あのさ…オリオン?何その1歳になる頃には今の事実を発見したって話!あんたどこの天才なのよ!!いやまあ、この事実を発見した時点で天才なのは認めてたんだけどね…さすがに1歳になる前はないでしょ?色々知っていた私でも引いちゃったわよ!!」



「えっ?そうなのか?」



「当たり前よ!!それにね、オリオンに習って私も必死で訓練を重ねてるけど、あんたの魔法のコントロールは異常よ!その大きく小さくってのも1ヶ月程度の訓練じゃー私には殆どできなかったわ。そのうち絶対にできるようになってやるんだけどね!


多分だけどね、魔法を得意とする人がその技術を知ってもあんたみたいにはそうそう使いこなすのは無理だと思うわよ!魔法を得意としてるだけでスキルに頼ってるだけだからね。スキルでコントロールすることを全て感覚とイメージだけで制御することができないとできない技術なんだから!!


だけど、この技術は世界には広げてはいけないのは賛成よ。どこの悪党にあんたみたいな天才が現れるか分からないからね!!」



「俺って天才だったの?努力家な方だとは自分でも思ってたけど…」



「あんたは天才で努力家なのよ!だから実戦空手でも魔法でも弓でもそこまでの技術を手にしてるんじゃない!!私はあんたとパートナーになって、自分がいかに大した努力しかしてなかったんだって思いしらされる毎日なのよ!あんたが3つの世界で達人級の腕を磨く間、それ以上の時間があった私は1つの世界でようやくあんたと対等でいれる程度。


もしあんたが悪人だったら、嫉妬で間違いなく隙をついて殺してたわ!!」



「えっ?そうなの?」



意外だった…俺はずっと実戦空手でアリエスには僅かに勝てず、目標としていた憧れのお姉さんだったのだ。そんなアリエスから殺したくなるほどの嫉妬を受けていた事実は意外以外の何物でもなかったのだ。



「俺はずっとアリエスを目標にして実戦空手を頑張ってきたし、結局一度も勝てない憧れの存在だったんだけどな…嫉妬されるのはおかしくないか?」



「私はね、あんたが魔法を使えることは知らなかった。それでも弓を練習しているあんたをたまたま見て凄いと思ったわ!だからこそ、その対等に誇れるたった1つだけのもの…実戦空手だけはあんたにも絶対に負けたくないって必死に努力し続けたの!!それなのに、私にはあんたを大きく引き離すことはできなかった。それがどれだけ悔しかったか分かる?」



「分からないよ!一度も追い付けてもないのに嫉妬を受けるなんて…」




「おい!いつまで2人で青春のやり取りを続けてるんだ!?そろそろ話を戻させてもらおう。オリオンのその魔法のことは他に誰が知ってる?」



「ここまで知ってるのはここにいるメンバーだけです。ただ、オークキングを討伐したときに旋風の牙の皆さんには見られてはしまいましたが…これが何なのかは話してません。」



「そうか、では今後もこのメンバー以外にはこの情報は漏らさないようしてくれ!その技術の習得が実際どの程度困難なのか不明ではあるが、この情報が広まることは確かに危険だと私も判断した!」



「分かりました。」



「それとな、オリオン、アリエス、お前ら本格的にこの王都に拠点を移さないか!?」



「「えっ?」」



「お前たちの存在はどうしても今後目立ってくるだろう。特にオリオンはまだ未成年だ!生まれ育った街では当然それを誰もが簡単に知ることができる。


これからの冒険者の活動を実戦空手のみで行うのならば何も言うつもりはないが、もし魔法を使うつもりならどこで誰がその様子を見ているか分からない!必ず近い将来お前は街の皆に問いただされる時が訪れるだろう。


その前にここに拠点を移せば、お前らの年齢を知る者などおそらくいまい。お前たちは一応11歳ということにしておけばオリオンが魔法を使ってたとしてもそういうスキルを持ってるということで深くは追及されないだろう!」



「話は分かったのですが、何故10歳ではなく11歳なのですか?」



「そんな強力な魔法を連発するのはどんな天才であっても10歳でもおかしな存在だということだ!11歳であればただの天才で納得される筈だ。それ以上になると今度は見た目が釣り合わなくなる。」



「なるほど…確かに遠慮せずに力を使えることはメリットですね。それに今後はラムーダダンジョンでGP稼ぎを頑張るつもりだったのでちょうどいいかもしれません!


ただ親が許可をしてくれるかどうかですね…なにせまだ成人前なので…」



「今回は何と言ってここまで来たんだ?」



「ギルドの依頼を達成したら、本当に俺たちがやったのか審議が掛かったので王都に念のため呼ばれたとだけ。」



「ならオークキングの話などはしてないんだな?」



「勿論!そんな話をしたら、気絶されちゃいそうです。」



「じゃーこうしよう。今回私に会って気に入られたと、そして冒険者として修行をつけてもらえることになったから王都へ行くことにしたという流れでいいだろう。私から手紙を書けば親御さんも疑いはしないだろう。


今回の報酬はオークたちの分も合わせて550万ラナだ。親御さんたちには10万ラナの報酬はちゃんともらえたくらいの話にしておけ!あとは残りの金でこの街に小さな家を買うなり、金をギルドに預けて宿を取って生活するなりしたらいい!」



「ギルドにお金を預けられるのですか?」



「あー支所ではそのサービスはなかったか。王都ではギルドにお金を預けられ、好きなときに必要な分だけおろすことができる。また、冒険者ランクに応じて利子はかかるが借金をすることもできる。


冒険者には急に武器の修復、交換が必要になったりで予定外の出費がかさむことがあるからな!」



「なるほど。それは便利ですね!俺たちみたいな小さいのが大金を持つと狙われそうですしね!!ギルドに預かってもらってた方が安心ですね!」



せっかくなので俺たちは270万ラナずつ王都の冒険者ギルドに預けてきた。現金で受け取った10万ラナを2人で分けてそれぞれの親に渡して、今回呼ばれた件は無事片付いたことを納得させれば一応は一段落である。


冒険者ランクは本当にCランクとなり、一人前の冒険者と呼ばれるランクになってしまった。これで気兼ねなくラムーダダンジョンに潜ることができるのだが、王都へ拠点を移すことになった為、まずはラノバの街に一度戻って今後のことを親にきちんと話すことにしたのだった!



帰りもやはりエリーゼさんに無料で護衛に使われたのは言うまでもないだろう。


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