第16話

「ねえ、あんな化け物と戦って大丈夫なの?」



アリエスは心配してくれてるようだが、



「死なないよう手加減してくれるって言ってるんだ!こんな格上との戦いなんて燃えるじゃないか!!さっきから俺の技がどれくらい通じるかワクワクがどこまでも止まらない!!」



「はぁー呆れた。この状況をそんな楽しそうにできるあんたの精神を疑うわ!」



「オリオン君、気をつけて。殺さないつもりで手加減しててもあの人の戦闘能力なら全てがあなたの命を奪う可能性を持つ攻撃となるわ。仮にそれで君が死んでも、たかがFランク冒険者がオークキングを倒したと偽証したから仕方ない!で済まされるからね。さすがにそれを狙いはしないでしょうけどね。」



「だろうね。ギルマスがそんな下衆ではないことは先程のやり取りで分かったから。そうしたいなら最初から殺気で実力を量ったりせず、いきなり実戦で殺してくるって!!ギルマスはただの戦闘狂だ!単純に強い奴が好きなんだ!!」



「戦闘狂なのはあの顔を見れば分かるわ。オリオンが未成年なことなんて、てんで気にもせず、実力者だと分かればあんな楽しそうに笑えるんだから。」



「まあ、それは俺も人のこと言えそうにない。自分がこんな戦闘狂だったとは知らなかった。死ぬ恐れがあるって聞いてもワクワクが止まらない。まあ、ギルマスに胸を借りるつもりで本気で挑むさ!」




 ギルドの訓練場は小学校の校庭程度の広さはあり、回りはフェンスで囲まれ、その外側に観覧席のようなものがある造りとなっていた。



「あのフェンスには防壁の魔道具が使われてるから観覧席には戦闘の影響はない造りになってるのよ。滅多にないけど、高ランク冒険者同士の決闘などにも使われることがあるからね。」



「へえ。」



エリーゼさんとアリエスは勿論観覧席に移動した。




「さて…早速始めるとしよう。まずはお前から自由に攻めてくるがいい!」



「サービス精神旺盛なんですね?ではいきます!!」




 俺は真っ直ぐギルマスへ向けて駆け出した。そしてそのまま普通に殴り掛かってみた。



「そんな単純な攻撃が私に通じるとでも?それとも腕を1本寄越したいのか?」



ギルマスが俺のパンチに合わせ手を砕かんと掴みにかかってきたところ、俺はこれまで落としていた速度を一気に解放させた。それまで速度をわざと1割ほど落としていたのだ。その速度の差にタイミングを外されたギルマスの腕を狙い、俺は逆に掴み返そうとした。


しかしギルマスは既にそれにも対応しており、俺のその手を手の甲の回転を利用して弾き飛ばした。だが俺もその時には逆の手がそのギルマスの手を掴みに掛かっていた。だが、ギルマスはそんなことは重々承知とばかりにさらに逆の手であっさりと俺の手を掴み上げた。


ギルマスは掴んだ俺の手をグルンと回転させ、関節を極めようとしたが、俺は自分からその方向へ飛び上がり、その勢いのまま膝蹴りをギルマスの顔面へと向けた。ギルマスはそれにも軽く対応し、避けるどころか手首を掴んでいない手でその膝をも掴み取りにきたのだった。


俺はそれに気づき空中でさらに体を捻り、蹴りの軌道を大きくずらした。手首を掴んでいたギルマスの手を狙ったのだが、それすらもギルマスには簡単に対応されてしまう。手首を掴んでいた手を更に捻りながらそのまま空中に捨てられ、晒されてしまった俺の背中に向けて蹴りを入れた。軽く蹴られただけのようだったが、10メートル近く吹き飛ばされてしまった。



「ぐはっ!」



痛みにこらえながら俺は空中で体制を整え、受け身で勢いを殺しつつ着地と同時に再びギルマスの方へ駆け出した。まだ呼吸もできないが、ここで止まれば俺の体は数秒は動けなくなる。あのギルマスがそれを見逃してくれる筈がない。


ギルマスもそれが分かってるのか、呼吸を整え回復の暇を与えないよう自ら前に出た。俺たちは再び合いまみえ、実戦空手の技や関節の取り合いを繰り返していった。



「すごい!オリオン君あんなに強かったの?」



「あれは実戦空手の技術だけなので、オリオンの本当の実力の半分も出してないですけどね。あれくらいなら私も同じことができますよ。あれはギルマスがオリオンにスピードを合わせてくれてるからいい勝負ができてるように見えてるだけですね。」



「あれで半分も実力を出してないのね…とんでもない未成年ね。」



「とんでもないのはギルマスです。私もオリオンもラノバの街では他に相手はいないくらいの実戦空手の腕を持っていたんです。それをステータスの差を全く利用せずあんなにあっさりと技術だけでねじ伏せていくなんて…あんなことされたら、普通に心を折られますよ!」




 その頃俺は心が折れるどころか、燃え上がっていた。そして実戦空手だけの勝負でこの戦いを終わらすのを本気で勿体なく感じ始めていた。



「お前の実力はおおよそ理解した!未成年でそれだけ戦えるのは驚きだが、ただそれだけだ!お前ではオークキングどころかオークジェネラルですら倒せない。」



「それは実戦空手ではでしょ?」



「お前は未成年だぞ!他に何がある?」



「ギルマス、ここからは俺も出し惜しみなく本気で戦いたい!俺は弓を使いたい。ギルマスも何か武器を持ってくれないか?」



「武器を使えば急に強くなるとでもいうのか?舐めるなっ!!お前ごときに武器など必要ない!使いたいなら勝手に弓でも剣でも使え!!!」



「舐めてるつもりはないのですが、オークジェネラルを倒した技をお見せしようと思ったから弓が欲しかっただけです。一応言っときます。逆に俺を舐めすぎないで下さい!避けてくれるのを信じて殺す気で放ちますからね!」



「ふん!面白い!!やってみろ!しかし、矢を持たぬのか?」



「俺には矢なんて必要ないんです!いきますよ!!」




 俺はギルマスに向けて氷の矢を放った。もちろんオークジェネラルに放ったのと同じくそよ風で高速回転を付与している。



「ん?魔法?いや未成年が?」



ギルマスもそれに困惑した。だがそれでも、迫ってくる矢の性質を直感で感じとり、弾くつもりだったにも関わらず慌てて避けることにした。それは正解だったことは通り過ぎた矢を見ながら苦笑した。


だがそれで終わりではなかった。俺は既に3本目の矢を放ったところだった。2本目は既に避けたギルマスの脳天に向けて一直線に迫ってきていた。これまでの抑えた速度ではこの矢は避けられず死ぬことになると理解させられた。



くはははっ!本気で私を殺しに来るか!おもしろい!!



ギルマスはこれまで押さえていたステータスも殺気も解放して、その矢に向け技を放った。



「爆流破!」



ギルマスの放ったパンチと俺の矢がぶつかり、大爆発を起こした。そしてさらに追撃で迫っていた数本の矢に向けて、



「風蹴乱舞!」



強烈な竜巻を巻き起こす連続蹴りを放ち、その全てを吹き飛ばしてみせた。




だが俺の攻撃はここからだ!左手にウォーター、右手に点火、オークキングに最初に放った高熱スチームをギルマスの周辺に放った。



「これは!アチチチ!ちっ!嫌な魔法を…」



ギルマスは超高速で俺に向けて殴り掛かってきた。俺はその速度に反応もできずに吹き飛ばされ…ることはなかった。ギルマスの手は俺の体に触れることすら叶わずすり抜け、その勢いのまま若干バランスを崩してくれた。


これはウォーターとライトを組み合わせて作り出した俺の幻である。いうなれば蜃気楼のようなものである。ギルマスの性格なら、高熱スチームの対処に俺への攻撃を選ぶと確信していた。



「くらえ!」



俺がバランスを崩してるギルマスに放ったのはウォーターを使い強力圧縮した水のレーザーにそよ風でさらに高速回転を加えたものだ!



高速で移動するこの魔法は、さすがに掠りくらいすると思っていたのだが、ギルマスはそれすらもあっさりと避け、そのまま俺の懐まで入り込み一発の腹へのパンチのみで俺の意識は奪われてしまったのであった。



はははっ!さすがに実力差がありすぎるわ…早すぎて目で追えても体が全く反応もできないなんてな。。




「おい、エリーゼ!こいつは何なんだ!?本当に未成年なのか?」



「教会との照合によれば間違いなく未成年の筈なんですが…魔法を、しかも合成魔法を使ってましたよね?」



「あー間違いない!あれならば戦い方次第ではオークキングでも倒せるかもしれないな…とんでもないガキだ!!まさかこの私が怪我を負わされるとはね!」



高熱スチームで多少は火傷をしていてくれたらしい。ざまぁみろ!



「アリエスさんはあの力のこと何か知ってるの?」



「私は知っていても何も話しませんよ!だって仲間ですから!!答えるとは思えないですが、知りたいなら本人に聞いて下さい。」



アリエスの言葉を受け、ギルマスは肩をすかした。もうこれ以上はアリエスには問い詰める気はないようだ。



「おい、エリーゼ!今見たことは誰にも話すな!!分かったか!?」



「はい!」




 俺が目を覚ますとそこはギルマスの部屋の中だった。どうやらソファーで寝かされていたらしく、傍にはアリエスとエリーゼさん、そして少し離れたデスクにはギルマスが鎮座していた。



「起きたか!思ってたよりも早かったな!?」



「俺…どのくらい寝てました?」



「だいたい30分くらいだな。」



「ここまでアリエスが運んでくれたの?」



「えーとね。言いにくいんだけど、ギルマスがお姫様抱っこで運んだのよ!」



「ええー!?何故そんなことに?」



「知らないわよ!気づいたらオリオンを抱えてたんだもん。運んでくれてるのに私には何も言えないわよ!」



「それもそうか…ギルマス、俺を運んで下さりありがとうございました。」



「構わないさ!それよりもお前に聞きたいことがある。お前が使ったあの魔法、あれは一体何なのだ!?」


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