第15話
「エリーゼさん、あれが王都ですか?」
「ええ、あれが王都カルナックよ!大きいでしょ?」
「本当に大きな街ですね?歩いて観光なんてしたら見て回るだけでも何週間かかるか分からないですね?」
「私たちには観光なんてしてる暇なんてないでしょ!さっさと用事を済ませて、目的のダンジョンに潜るんでしょ?」
「そうだね。でもアリエスはあの大きな街を見て何とも思わないの?俺はさっきから興奮が止まらないよ!いかにも憧れのラノベの世界って感じだ!」
「まあね、私だってそれなりには感動してるわよ?だけど…田舎者とは思われたくないでしょ?」
「実際田舎者なんだからそんなこと気にする必要ないよ!感動してるならそれ前面に出せばいいさっ!」
オークキング討伐から5日後、予想してた通り俺たちは王都のギルドへ呼び出しが掛かったのだ。エリーゼさんとアリエスと共に街を出発して、馬車に揺られること5日、俺たちはとうとう王都カルナックへ到着したのだ。
道中、普通なら安全確保の為に冒険者の護衛を付けるのが普通なのだが、エリーゼさんはあっけらかんと「オリオン君とアリエスちゃんがいれば行きは安全だから経費削減!」と本当に御者の方と4人だけでの旅となった。
後からアリエスに「護衛料を請求すればよかったのに!」と言われて自分の金銭面の交渉能力の低さに落ち込んでしまったが、まあこんな女子供ばかりの馬車に盗賊に狙われないわけもなく、道中何度も襲われてしまった為に、逆に気を抜く暇がなかったのですぐに立ち直れたのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
それと今回の盗賊退治で俺たちは初めて人間を殺したことも、今後のことを考えればよい経験だったのかもしれない。いざというときに体がちゃんと動くか分からないままでは危険だからだ。
これからダンジョンに挑むのだが、ダンジョン内では冒険者同士の揉め事には国やギルドは基本不干渉なのだ。たとえ強姦されようと見つけた宝を奪われようとさらには殺されようと、ダンジョン内での出来事は全て外とは関係ない。だからこそ、一度は経験しておくべきだとは考えていただけにちょうど良かったといえる。
俺たちはこれまで実戦空手で本物の人間の体を何度となく破壊していた経験もあり、相手が悪者だということもあって、俺もアリエスも何の迷いなくアッサリと瞬殺できた。
俺たちの実戦空手により盗賊たち関節や骨が容赦なく破壊されていく様を見たエリーゼさんと御者の男性は多少引きつった顔をしていたのには笑えた。俺も地球にいるときにこんな戦い方を見たら引くどころか吐いてしまったことだろう。
今の俺たちの身体能力は成人前では最高まで上がってる。これは地球でいえば成人男性のちょうど2倍程度の力があり、同じく2倍程度の速度で動ける程度の能力ということである。この状態でも地球であったらいつでもオリンピックで金メダルを量産できるだろうと思う。
それですらこの世界では所詮成人前の子供の能力でしかないのだ!これ以上は能力を上げる手段を持たぬ俺たちは、成人して鍛えぬいたこの世界でも本当の意味で強者たちには絶対に勝てないのだ!
その事実を俺たちはすぐに知ることとなるのだった。
「ほら、着いたわよ!2人とも馬車から降りて!」
「あー、お尻と腰が痛いわ。やっぱり長時間の馬車移動は辛いわ。」
「だな。しばらくは馬車には乗りたくないな。」
「何言ってるのよ!これでも20年くらい前に馬車にサスペンションって部品が開発されて、移動が革命的に楽になったのよ!!これで文句言うようなら、昔の馬車には絶対に乗れないわね。」
「へー。これでもサスペンションついてたのか…それにしては揺れたよな?」
「だね!やっぱりあっちみたいな乗り心地は難しいんでしょうね?」
「それか俺たちみたいに理論は知ってるけど、細かいとこまで知らない人間が開発したから中途半端とか?」
「それはあり得るわね!サスペンションはラノベでもよく出てきてたけど、どんな装置かは何となくの知識しかないわ。」
「あんたたちさっきから何言ってるのよ?行くわよ!」
俺たちは王都の冒険者ギルドに足を踏み入れた。中は俺たちの住む街とは大きく違い、受付が1つではなく、受注専用、報告専用、素材買取専用、ギルドへの依頼の受付と合計7つもの受付カウンターが存在した。
さらにギルドの隣には巨大な酒場が併設されており、いかにも冒険者という出で立ちの者たちが酒を頼んでいるようだ。
「おぉー。これぞイメージ通りの冒険者ギルド…そして受付嬢が可愛いのもやはりイメージ通りだ!!」
「ちょっとオリオン君?それって私が可愛くないように聞こえるんだけど?」
「えっ?いや、エリーゼさんは可愛いというよりも、とても綺麗です!」
「あら、分かってるならいいわ!!さっ、行きましょう!」
「あれ?エリーゼじゃない!今日はマスターの呼び出し?」
「そっ!マスターはいる?」
「奥にいるから、入っていいわよ!」
「この子たちも一緒に呼ばれてるんだけど、一緒に入ってもいいかしら?」
「ええ。だいじょうぶでしょ?」
「2人とも着いてきて!」
「「はい。」」
エリーゼさんに連れられ奥に進むと、『ギルドマスター』と書かれた部屋の前で止まった。
「マスター!ラノバ支所のエリーゼです。召集に応えご要望の冒険者と共にやって参りました。」
「入れ!!」
凛としたカッコいい女性の声が返ってきた。
へー、ギルドのマスターって男のイメージだったけど女性なんだな!
何て軽い感じで部屋に入ると、俺たちは一気に臨戦態勢を取る羽目となってしまった。部屋に一歩入った瞬間にそこにいた金髪の女性からとんでもない殺気を浴びせられてしまったからだ!考えるよりも先に命を守るために構えるしかなかったのだ!!
「なっ!エリーゼさん、この方がギルドマスターで間違いないですよね?俺たちは彼女を何か不快にさせてしまったんですかね?」
エリーゼさんは殺気にヤられてしまい、返事もできないようだ。
「ほう!即臨戦態勢に入るだけでなく、すぐに喋る余裕すらあるか…成人前とはとても思えぬ大した胆力だな!!」
「それはどうも。ということは、これは気分を害したのではなく、俺たちを試したということでいいでしょうか?」
「あー。そうだ。今のすら耐えられない奴らにオークキングを倒すことなど絶対に不可能だからな!」
「じゃー俺たちは合格ですか?」
「女の方は臨戦態勢には入れてるが、喋る余裕まではなさそうだがな。」
よく見るとアリエスは、その言葉を受け悔しそうな顔をしている。
「あの…いつまでこの殺気を出し続けるんですか?」
「あー、軽く殺気を込めてただけだから解除するのを忘れるとこだった。」
これで軽くか…おそらくはそれは嘘ではないだろう。やはり異世界にはこんな強者もいるよな!!絶対に敵対したらいけない相手だ!しかし、まだ解こうとしないか…ならば。。
俺はギルドマスターへ殺気を返し、その場の空気を中和させた。それによりエリーゼさんはぺたりと座り込み、アリエスは自分の頬を掌で叩き気合いを入れたようだ。
「オリオン、ごめん。いきなりで対応がしきれなかった。」
「ああ、でもまだ気を抜くなよ!おそらくはさっきより強烈なのが来るぞ!!」
「よく分かったな!」
と言いながら、ギルドマスターは先程とは比でない殺気をこちらに浴びせてきた。くう。これはきつい!!動けないことはないが、まともに動ける気がしないな…これはさすがに返せない。
せっかく回復していたのにアリエスは再び固まり、エリーゼさんは涙を流しながらブルブルと震えている。
「凄まじい殺気ですね。このレベルの殺気を感じたのは2度目です。これは俺には返せません。」
「ほう、まだ喋れる上、同レベルの殺気を経験したことがあると言うか?」
「はい。以前ちょっとありまして。」
それはほんの少し前にトリスの殺気を浴びてたからこそ耐えられるものだった。トリスはあれから俺の胸ポケットに住み着いてる。神獣は食べ物は必要ないらしいが、魔力を摂取した方が調子がよいということだったので、寝る前に毎日魔力を好きなだけあげている。
最近では心話が近距離なら使えることが分かり、心の中で意識して話せばわざわざ声に出して話さなくとも、いつでも会話ができるようになっていた。その為、ここへ来る馬車の中でも色々と会話はしていた。
「面白い奴だ!だがお前のことは気に入った。たしか実戦空手を得意とするのであったな?どこまでやれるか直接試してやろう!」
うおっ!まさかの定番のギルマスとの直接対決か!こういうのはやっぱりラノベ好きとしては燃えるな!!せっかくだから魔法も使って本気で戦いたいが、それはさすがに不味いことなりそうだ。
「試すってどうするんですか?」
「決まってる!私と戦え!!安心しろ殺さない程度の手加減くらいはできるようになってきた。」
「ん?今のセリフ、全然大丈夫じゃなくないですか?」
「気にするな!お前は私を殺す気で来ねば、一瞬で終わるだけだ!」
「うへ。しんどそう…でもワクワクしますね♪」
俺の嬉しそうな顔を見て「ほうっ」とギルマスも嬉しそうな顔をしたのは言うまでもないだろう。
俺たちはギルマスの案内でギルド地下にある訓練場に案内された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます