第22話
俺たちが初めてダンジョンへ入って3年以上が経った。俺たちはすぐにダンジョンに慣れ、次々と沸く魔物たちを倒して回った。普通の冒険者ならば魔物の素材を剥ぎ取って、それを収入とするのだが、俺たちはそれを一切無視している。
かといって俺たちの収入は全くないのかといえば、それなりにはある。ダンジョンにはたまに宝箱と呼ばれる箱が置かれてることがある。その中にはダンジョンの外では手に入らないような道具や装備品が手に入ることがある。
ダンジョンではその宝箱が確実に入手できる場面が1つだけある。それはダンジョンのボスを倒した直後に現れる宝箱だ。中身は俺たちにも使えるものは使い、そうでないものは全て売っている。それだけでも俺たちには十分な収入になるのだ。
今日も俺たちはダンジョンを駆け巡っていた。通常のこのラムーダダンジョンは慣れた冒険者でも探索に2日は掛かるダンジョンである。だが俺たちは、高値で売れる素材ですら無視して探索速度を上げている為、日帰り探索をギリギリで可能としていた。
普通にそれを生計としてる冒険者たちからすれば理解不能な行動である。最初の頃は俺たちの倒した魔物をもらっていいか?と聞かれたりしたが、構わない!と繰り返し伝えていたら、今では誰も聞かずに解体するようになった。それで儲けを出した冒険者たちは、たまにギルドで俺たちを見かけるとご飯を奢ってくれたりする。
いつの間にか、俺たちは周りの冒険者から『特急ギャンブラー』と呼ばれるようになっている。確実な儲けを捨ててまで、ひたすらボスを倒して一攫千金を狙ってると思われているのだろう。
何故そこまでして日帰り探索に拘っているかといえば、ラムーダダンジョンの最奥にある巨大な扉をくぐった先にいるボスを倒すと、必ず罠のない宝箱が1つと、副賞がクリア報酬として与えられる。
俺たちの目的はその副賞だ!GPを500ポイント貰えるのだ。毎日500ポイントを確実に+αで得られるのは俺たちにはデカイ。この分だけでもこの3年で50万GPも稼ぐことができたのだ。
魔物を倒したりした分も含めると、まだ俺は12歳、アリエスは13歳にも関わらず間もなく200万GPが貯まろうとしていた。これは予想していた以上にずっと早い!GP集めは今のところ順調だといえるだろう。
俺たちの夫婦生活はといえば、3年前から特に何も発展していない。たまにキスをする程度で、それ以上の行為は一切していない。これには理由がある。俺たちが若すぎるのもあるが、呪いを解呪するまでは子供を作るわけにはいかないと考えてるからだ。
あの神様たちが他にどのような罠を仕掛けているか分からない以上、解呪が完了するまでは身軽な身であることが求められる。ただ、夫婦になったことで宿の部屋は同じ部屋を使うようになった為、自然と2人の距離は近づいた。そのことで、アリエスは分からないが、俺は時々美しい妻であるアリエスを意識し、1人悶々と過ごすことはある。
俺は早くそちらでも夫婦になれるように今日もGP稼ぎに精を出すことにした。今日も慣れた様子でボス部屋の扉を無造作に開ける。いつもならばキメラロードとゴブリンロード3匹がそこに存在し、俺たちを待ち構えているのだが、なぜだか今日はその姿が見えない。
「あれ?キメラロードは?」
「何もいないわね?」
「どういうことだ?こんなことは初めてだ!」
俺たちが戸惑っていると、頭の中に不思議な声が聞こえてきた。
『ラムーダダンジョンを極めし者たちよ、最後の試練を乗り越えよ!』
その声と共に、部屋の4隅にキメラロードたちが現れた。
「これは!キメラロードが同時に4体だと!?」
「考えてる暇はなさそうよ!1匹だけでもさっさと減らさないと面倒なことになりそうよ!!」
アリエスの指摘は間違いなかった。現れた4匹のキメラロードは俺たちを無視して、別のキメラロードへ向けて移動を開始したのだ。キメラロードとは人工的に様々な魔物の遺伝子を無理やり結合させられた魔物である。
基本となるその姿は獅子なのは決まっているが、個体によって多少そのフォルムが違う。蝙蝠の羽を持っていたり、蛇の尻尾をしていたり、ドラゴンのような羽を持っていたりと、通常のボス戦でも毎回多少の見た目も強さにもランダム性があった。
そして共通するのが、仲間の魔物を生きたまま補食するところだ!共に現れるゴブリンロードを食べることで、その力の一部を自分の能力とするのだ。ゴブリンロードの腕や顔だけが、体から生えてる姿は怖いを通り越して気持ち悪いといえるものだった。
いつもはそんな事態にならないよう先にゴブリンロードたちを瞬殺してしまうのだが、今回はいつも以上にそれが必要なようだ。俺たちは一番距離の近かった、蝙蝠の羽を持つキメラロードへ向けて魔法を放っていく。
ウォーターの魔法でレーザーのようにした魔法である。3年の努力でアリエスも今では攻撃魔法並の魔法を使えるようになっている。残念ながら2種類の魔法を組み合わせることはまだできない。
俺はいつものように、そよ風の魔法もプラスし威力を上げていく。3年前とは違うのはその連射能力である。魔力の扱いがさらに向上し、できることの幅が広がっていってるのだ。
俺らの放ったレーザーは、キメラロードの体を数秒の間に200以上の穴を空けてゆく。耐久力の高いキメラロードもさすがにそのまま倒れることとなった。
俺らが攻撃を開始すると同時に、俺らの倒したキメラロードを補食しようとしていたキメラロードは踵を返したように俺たちから離れていき、現在補食している他のキメラロードの方へと移動を開始した。俺たちは1匹目を倒し終えた瞬間、その逃げたキメラロードを倒しにかかったのだが、補食を終えたキメラロードもそのキメラロードの方へ高速で移動を開始しており、2つになった獅子の首が俺たちの放ったレーザーに向けて次々と炎の塊を飛ばして霧散させていく。
それでも逃げたキメラロードには数十の穴を空けてるのだが、倒しきれていなかったようだ。2つ首のキメラロードが俺たちとの間に入り、そのキメラロードを守る。2つある首は1つは俺たちへ次々と炎の塊を飛ばし、もう1つは瀕死のそのキメラロードを補食を始めた。
「くっ!間に合わない!!3匹分の合成キメラロードか…強そうだな。」
「もう1匹倒したかったわね…あの姿はまるで獅子のケルベロスね。」
獅子の巨大な体から3つの首が生えており、アリエスが冗談で言ったが、同じ3つ首でも犬の頭であるケルベロスよりも獅子の頭であるこのキメラロードの方が見た目がゴツいものがある。
補食を終え、勝ち誇ったような満足顔で此方を眺めるキメラロードに俺たちは辟易した。
3つ首になったキメラロードは、素早さも大きく上昇していた。決して油断してはなかったのだが、予想をはるかに越える速度に一瞬反応が遅れてしまった俺の隙をキメラロードたちは見逃してはくれなかった。慌てて後方へ飛び距離を取った俺に狙いを定め、追撃の連続噛みつき攻撃を仕掛けてくる。
3つの首が互いに連携を取り攻撃を仕掛けてくるので、完全に避け続けることは叶わず、致命傷は避けたが多くの傷を負うこととなっていた。その勢いに押され、俺はとうとう壁にぶつかってしまう。
背中には壁、目の前には大きな牙を輝かせ俺を補食しようとする巨大な獅子の頭たちが迫ってくる。その時、俺に止めを刺そうと詰め寄っていたキメラロードが苦悶の表情を浮かべた。アリエスが本体の後ろ足の膝関節を砕いたのだ!
アリエスの作ってくれたこの一瞬のチャンスを無駄にできる筈がない!俺はその隙に覚悟を決めキマイラロードの体の下に滑り込んだ。キマイラロードのお腹の下まで潜ったところで、再び水のレーザーを放った!今度はバカみたいに太い水のをドリルのように高速回転させたものだ!!
俺の魔法はキメラロードの腹から背中に直径1メートル以上もある巨大な穴を空け、その先にあった首の1つを吹き飛ばした。
「やったか?アリエス、助かった!」
「オリオン、まだ終わってないわ!攻撃を続けて!!」
アリエスはもう片方の後ろ足の膝関節も折りながらそう叫んだ。よく見ると、先ほど折れた筈の後ろ足で既に体を支えている。さらに1メートル以上空いていたお腹の傷が徐々に閉じかけていた。
「超回復まであるのか!面倒な奴だな!!アリエス離れて!」
俺はお腹の傷へ向けて点火とそよ風を使い火炎放射の魔法を放った。傷は激しく焼け、その回復を妨げた。それがキメラロードにはかなりの苦痛なのか、腹の下にいる俺から慌てて距離を取ろうとした。
「そこで逃げると狙い撃ちだ!!」
俺とアリエスは再び水のレーザーを次々と放った!キメラロードの体には無数の穴が空いていく。しかしそれでも尚、キメラロードは被弾と回復を繰り返し、俺たちの数百にも及ぶ攻撃に耐え抜いた。
「何てタフさなの!!」
「タフさだけならこれまで出会った化け物の中でも飛び抜けてるな!ならこれでも食らえ!!」
俺は今度は氷の杭を大量に作り出し、槍のようにキメラロードの体に差し入れていった。そしてさらにそれが超回復で体から抜けないように、その槍同士を氷で結合していったのだ。その事でキメラロードには超回復で回復しようとすることが、逆に抜けない槍の影響で永遠に終わることのないダメージを負い続けることとなったのだ!
「ぐがあーーー!」
キメラロードの怒りの声が部屋に響き渡る。既に先ほど消し飛んだ筈の首も回復しており、3つ首へと戻ったキメラロードが俺たちに向けて飛びかかってきた。
キメラロードは怒りで暴走しているのか、狂ったようにその3つの首と両前足の爪で攻撃を仕掛けてくる。
「やはり速い!動きは無茶苦茶なのに防ぐだけでギリギリだ!!これじゃ攻撃魔法を構築する時間がない!アリエス、仕方ない!あれを使うぞ!!」
「分かったわ!さっさと決めてしまいましょう!」
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