第13話

 せっかく苦労して倒したオークジェネラル。そのことを喜ぶ暇もなく、再び俺たちの前に突然現れたもう1匹のオークジェネラル。そして、さらに強大な魔物、オークの王様であるオークキングが今目の前に現れたのだった。



オークキングといえば、発見されればすぐに国から災害として認定され、国の王都から大規模な兵が派遣されるレベルである。兵と上位冒険者とが合同で討伐に当たり、それでも少なからず被害が出るような存在である。


俺は正直逃げ出したい気分だった。たとえこいつを倒せたとして、この先面倒にしかならないことが予想できた。しかし部下を殺され、怒り狂ったこのオークキングは俺たちを逃がす筈もないことは、先程から鼻息を荒くして興奮してるオークキングの様子からありありと伝わってきた。


旋風の牙のメンバーはもう戦力にはならない。ナジムさんは先のオークキングの投げた斧が背中に深々と刺さり、まだ死んでは無さそうだが回復魔法でも使わない限りもう戦うことは不可能だろう。後方の3人はオークキングが現れた時点で完全に戦意を喪失させて、地に膝をつき、全てを諦めてしまっている。


救いはアリエスはまだ戦意を全く失ってないことだ!



「どうせやるしかないのならば…先手必勝!!アリエス、雑魚オークは任せた!今回は出し惜しみなしのいきなり全力だ!!」



 俺はそう叫ぶと、左手にウォーター、右手に点火を同時に発動した。それを合成し、ゴブリンキングの周りに発動させた。その効果は高熱のスチームだ!この魔法の効果は広く、簡単には範囲から逃げることはできない。


丈夫な鉄製の鎧を着ているオークキングとオークジェネラルには特に効果的だったようで、その熱量により鉄の鎧が熱され、その中にある皮膚を容赦なく溶かし、鎧と融合していく。その苦痛からか、オークキングもオークジェネラルも目を真っ赤にさせ、その現象を起こした俺を睨み付けてくる。しかし、その苦痛からか体を激しく動かすことができずにいるようだ。


さすがにこれだけではオークキングもオークジェネラルも倒しきることはできなかったが、その周りにいた40匹ほどのオークたちは全身の皮膚がヘドロのように溶け、まるで原爆でも受けたかのような状態でその場に倒れていった。


複合魔法、つまりマナ、ミナ姉妹が2人でやってたことを俺は1人でやってるだけだ。2つの魔法を組み合わせることでさらに複雑な効果を起こせるのだが、制御は段違いに難しい。


これは昔ハマった某ドラゴンの紋章を持つ勇者が活躍する漫画で仲間の魔法使いが最終的に会得した、相反する属性の魔法力をスパークさせることで全ての物質を消滅させるというとんでも魔法を使えないかと挑戦し始めたのが始まりだった。


結論からいえばいくら練習してもこの魔法は使えなかった。お互いの力を打ち消し合うだけでそんな凄い力は一切発揮できなかったのだ。


しかしその練習のお陰で、2つの魔法を同時に発動させる技術は格段に上がり、その2つの魔法の調整力も格段に上手くなったのだ。当初の目的とは違ったが、結果オーライというやつだろう。



「熱かっただろ?今度は冷やしてやるよ!」



今度は左手にアイス、右手にそよ風を同時に発動し、複合魔法ダイヤモンドダストを発動させた。撒菱のような尖った硬い氷の塊を大量に発動し、強風でそれを不規則に撒き散らす魔法だ。なんちゃってダイヤモンドダストだが、やられる方はこれでも堪らない。


オークキングもオークジェネラルもその場で目や急所を守り動かない。



「それが狙いだ!」



俺はオークジェネラルの喉に向けて弓を引き絞り氷の矢を放った。いつもと違うのはさらにそよかぜを発動し、矢に高速回転の補助をかけているところだ。


放たれた矢に反応したオークジェネラルは目を守っていた腕をそのまま矢への盾として落とした。だが矢は腕に当たるとそのまま穴を空け貫通し、そのままオークジェネラルの喉をも貫通してはるか先へと消えていった。オークジェネラルの喉には10センチほどの穴が広がっており、大量の出血とともにそのまま倒れ伏した。



「これで残りはお前だけだ!!」




 目の前で部下をアッサリと殺されることを許してしまったオークキングは、それを成した俺に怒りの咆哮を上げ、巨大なこん棒を振り回しながら駆け寄ってきた。



「くっ、先制で弱らせた筈なのに元気すぎ!さすがにその動きはズルいって…!!」



俺は少々焦っていた。オークキングの動きは俺の予想をはるかに越えるものだったのだ。振り回されるこん棒を避けることは何とかできているが、こんなものまともに当たれば俺なんて一発でミンチだ!そしてその体力は衰えを知らないのか、ずっと全力で振り回してるように見えるのに、一向に動きが止まらないのだ。


反撃しようにもそんな隙はなく、俺は防戦一方となっていた。このままではこの圧力でいつか避けきれなくなる。俺はどうすればこいつを倒せるか必死に考えていたが、何の案も浮かばない。


アリエスは残っているオークたちが俺の邪魔をしないように蹴散らすことでいっぱいいっぱいのようだ。自分で何とかするしかない…



 その時だ、ふっと自分の体が軽くなるのを感じた。



「これは…?」



「補助魔法を掛けました!私たちでは大して役に立てないかもしれないけど、援護します!!」



声のした方をチラリと見ると、マリネさんが怯えた顔で…だが、ちゃんと立ち上がり、こちらを見据えていた。それだけでなく、その両側にはマナ、ミナ姉妹が杖を飾し、魔法を放とうとしているところだった!



3人の援護により、俺はようやく反撃する隙を作り出すことができるようになった。マナ、ミナ姉妹の魔法でオークキングが一瞬怯んだ隙に、俺はオークキングの視界から外れるよう動いた。俺の姿を見失ったオークキングはキョロキョロと俺を探してるが、灯台下暗し、俺はお前のすぐ傍にいる!


俺は一瞬で懐に入り込み、足元に潜り込んでいたのだ。そして両手にアイスで氷のナイフを作り出し、そのナイフをオークキングの喉に向けて突き刺した!2本のナイフは深々と喉に刺さり、オークキングは大量の血を吹き出した。


俺はこれで終わったと思ったが、オークキングはまだ諦めていなかった。俺はオークキングのパンチをくらい5メートルほど吹きとばされてしまう。さらにオークキングは追撃をくわえようと俺に迫ってくる。



「すごいな!オークとはいえ、さすがは王の名を冠する存在だ!俺はお前の存在に敬意を示す!!そして一切の油断なく、お前が息絶えるその時まで全力で戦うことを誓う!」



オークキングに先程までの鋭い動きはなかった。本来は即死してもおかしくない傷を負ったのだから仕方もないだろう。


俺はオークキングの放ったパンチに合わせ、オークキングの手に巻き付いた。手首をロックし膝を使いオークキングの肘を「ボキッ」と折った。以前アリエスがヒクイベアに放った技である。


さらに俺はそのまま落下しながら、オークキングの太ももに再び氷のナイフを作り出し突き刺した。



「グガーー!!」



オークキングはそれでも痛みに耐え、俺に逆の手でパンチを繰り出してくる。俺はそれを避け、喉に刺さっていたナイフの柄を手をクロスさせた状態で握りしめ、その手を大きくかっ開いた。


オークキングの首は殆ど切れており、首と胴体は分離していた。それでもオークキングは倒れずに唸っている。


俺は止めを刺そうとオークキングに近づき、脳天を刺そうと氷のナイフを持つ手を振り上げ、その手を止めた。


ゴブリンキングは既に死んでいた。それなのに死んでも尚倒れることなくその場に立ち続けていたのだ!



「はは…やっぱりお前はスゴい!!死んでもその王としての誇りを失わないんだな!?約束する!俺はお前の存在を決して忘れない!お前は誇り高きオークの王様だ!俺もこれからの人生をお前のように誇り高く生き抜いてやる!」




 この後すぐに戦いは終わった。オークキングが敗れたことでオークたちの戦意は喪失し、俺の弓とアリエスにより一掃されたのだ!その間に重症だったナジムさんにマリネさんが回復魔法を使って回復させた。


これだけの戦いの中、誰も死ぬことなく生き残れたのはある意味奇跡かもしれない。




「おい、オリオン!お前は一体何者だ!?」



復活したナジムさんが最初に発した台詞はこれだった。



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