第12話

 トリスとの出会いから1週間、俺たちは冒険者の仕事を毎日こなしていた。その間もアリエスは魔法の特訓を頑張っており、ようやく初めて無詠唱でライトを使うことができた!だが、大きさを変えたりすることはなかなかできないようだ。俺がいきなり可能だったのは、やはり母のお腹の中から訓練を続けてきたからなのだろう。



 そして、今日も俺たちは冒険者の依頼でとある炭鉱跡にきていた。目的はこの炭鉱跡に棲み着いているという、オークの群れの殲滅である。噂では普通のオークだけでなく、上位種も存在するらしい。


そんな依頼を未成年と成人したばかりの2人パーティーだけに依頼することはさすがのエリーゼさんでもなかった。


他に頼もしい先輩冒険者のパーティーと合同で作戦を行い、討伐したオークの肉はギルドの用意した馬車で運んで貰えるらしいのだ。俺たちの役目は通常のオークの数減らしだ。



「君たちが俺たちと一緒に依頼をする新人かい?ちょっと待っていてもらえるかな?


おい、エリーゼ!さすがにこの子達にはこの依頼は早いだろ!!1匹や2匹の討伐じゃないんだぞ!!」



「その子達なら大丈夫よ!多分通常のオークだけなら100匹いても討伐できる子達よ!!それだけの実績をこの1週間で見せられたから、私が保証するわ!!」



「そうか…エリーゼがそこまで言うなら俺も信じよう!だが、任務中の安全は全て自己責任だからな!!」



「勿論よ!旋風の牙は自分等の安全だけ気にしてればいいわ!」



「いきなり実力を疑って悪かったな。俺はこの旋風の牙というCランクパーティーのリーダーをしてるナジムだ!よろしくな。」



「いえ、俺たちの年齢だと実力を疑われても仕方ないので、ナジムさんの反応は普通ですよ!でも本当にオーク程度なら何の心配もいりません。」



「分かった!では共にオークどもを一網打尽にしよう!!」



「はい!」




 俺たちはギルドの用意した馬車2台で目的の炭鉱跡に向かっていた。道中、お互いパーティーのメンバーを紹介し合った。


旋風の牙のメンバーは、リーダーのナジムさんが前衛で両手にナイフを使い、持ち前のスピードと器用さで相手をかき回し、それを回復魔法と補助魔法の使い手のマリネさんが補助し、双子の姉妹であるマナさんミナさんが後方より魔法で攻撃するというのがいつもの戦い方のようだ。


話に聞く限り守りが多少不安を感じるがバランスのいいパーティー構成だと思った。



 俺は今日は他のパーティーと一緒なので普通の矢を用意している。さすがに氷の矢を連発するのは不味いからだ。


同じように魔法を使うことができないので、戦力はかなり落ちることになる。だがオーク程度なら実戦空手を駆使するだけでも十分に戦えるので問題ないと思っていた。



 炭鉱跡に到着すると、外にいるだけでも30匹のオークたちが存在していた。草陰に隠れながら、先制攻撃はマナミナ姉妹の攻撃魔法である。マナさんは火の魔法を、ミナさんは風の魔法を得意とするようで、いきなり2人で魔法を合成して辺りを炎の嵐のようにしてしまった。


肉は素材になるので肉が燃えないよう短時間だけの発動にしたようだ。それでも辺りにうまそうな匂いが充満していた。オークの肉は食用として人気があるのだ。


その騒ぎを聞きつけ、炭鉱跡の洞窟から次々と飛び出してくるオークに向けて俺は矢を放ち続けた。この距離なら外すことはまずない。確実に急所に当て、1射でオークたちを葬っていった。矢をつがえる間に抜けてくるオークをアリエスが実戦空手で次々と葬っていった。




「へー、本当にやるじゃないか!これなら俺たちは上位種に集中できそうだ!!」



「矢が切れたら効率落ちますので、一応警戒はしておいて下さい。」



「了解!」




「予想していたより数が多いな!上位種がまだ出てないのに、想定していた100匹をもう越えてます。もうすぐ矢も切れそうです。」



「俺たちもオークを倒すから、念のため少しは矢を残しておくんだ!」



「分かりました。ではここからは俺も実戦空手で戦います!」



俺は弓を背にからい、前に飛び出した。オークは力は強いが、それほど素早くはないので実戦空手では戦いやすい相手といえる。オーク自身の力を利用して一撃で葬ることが可能なのだ。これは素早い相手では難しくなる技術である。



「へー、実戦空手の方も嬢ちゃんと変わらないくらいやるんだな!!なんとも将来が楽しみな野郎だ!」



「ありがとうございます。でも道場ではアリエスには一度も勝てたことないですけどね。」



「それはあの嬢ちゃんが異常にツエーだけで、お前も正直異常なレベルだぜ!!」



そんな会話をしながら出てくるオークを倒しまくっていたのだが、俺たちはふと不思議な気分になってきていた。いつまでもたってもオークの出てくるのが止まる気配がないのだ!



「これはさすがに多すぎません?もうそろそろ200匹になりますよ?」



「そうだな。想定してた倍か…上位種はオークソルジャーを予想していたが、こりゃーオークジェネラルなんかがいてもおかしくないかもな!!」



「オークジェネラル!?止めて下さいよ!そんなのがこんな街の傍にある炭鉱跡にいたら危険過ぎますよ!!」




 オークの上位種には、オークソルジャーやオークウィザードがいる。そしてさらに上にはオークジェネラルが存在する。オークジェネラルはオークでありながら、立派な鎧を身につけ、その力はオークソルジャーの実に10倍。素早さも比ではない。


そんな存在が発見されれば、こんな新人冒険者とCランクパーティーでは到底対応できない。Bランクパーティーが合同で討伐するレベルである。ナジムとしてもそれはほんの冗談でしかなかったのだが、その直後その場にいた全ての者が固まってしまった。



「ま、まさか!本当にオークジェネラルだと!?」



そう、洞窟からたった今出てきた存在は、どう見てもオークジェネラルそのものだったのだ。立派な鎧を着ており、その体躯は通常のオークの比ではなかった。何よりも目を引くのは、その右手に持つ2メートルはあろうその巨大な剣の姿だった。



 最初に動きを取り戻したのは俺だった。俺は再び弓を構え、オークジェネラルの喉に向けて素早く矢を放った!そのまま当たるかと思われた矢はオークジェネラルの素早い剣の振り下ろしによって、吹き飛ばされてしまった。


やはりオークジェネラル級には俺の普通の弓矢の攻撃ではダメージを与えることは難しそうだ。しかし俺のこの1本の矢はオークジェネラルの登場で固まっていた全員を再び戦いの場へと引き戻したのだった。



「お前ら、あいつはお前らには荷が重めー!お前らは馬車に戻ってこのことをギルドの人間に伝えてこい!!いいな!これは命令だ!!」



「分かりました。絶対に死なないで下さいね!」



「おう!任せとけ!!」 




 俺たちは言われた通り馬車へ戻りそのことを報告した。ギルドのおじさんたちは驚き、すぐに討伐隊を集めて戻って来ると言って街に戻っていった。



「オリオン、それでこれからどうする?」



「戻るしかないだろ?旋風の牙の人たちだけではおそらくあのオークジェネラルは荷が重い。」



「それは私たちも一緒でしょ?」



「俺が魔法と魔法の矢を使えば、俺1人でも倒せる筈だ!」



「いいの?」



 アリエスのその一言は、自分の持つ力を周りに周知されることを是とするのかと問われていた。



「いつまでも隠し通せることでもないし、少しくらいならいいだろ?あの人たちいい人だったしな!」



「そうね!じゃーさっさと戻りましょう!!」




 俺たちが戦いの場へと戻ると、旋風の牙はオークジェネラルに苦戦を強いられていた。いくらマリネさんの補助魔法を受けているとはいえ、ナジムさんだけではオークジェネラルの激しい斬撃の連続に耐えきれず、どんどん戦線が後退していくことになった。


マナさんと、ミナさんも先程から必死に魔法を放っているが、オークジェネラルには大してダメージを与えることはできてないようだ。さらに戦線が後退してきたことによって、後衛の女性3人に通常のオークたちがイヤらしい顔で近づいていっている。あのままでは数分後には3人はオークたちに襲われ女性としての尊厳を奪われることとなる。さらに後方からの支援が無くなったナジムさんはオークジェネラルの手によって殺されてしまうことだろう。



「俺は後方まできてるオークを一気に殲滅し、オークジェネラルの方へ集中するから、アリエスは彼女たちを守ってあげてくれ!!」



「分かった!気をつけて!!」



「ああ。」



 俺は静かにそう答え、矢を持たずに弓をつがえた。今回は氷の矢を惜しみ無く使用するつもりだ!俺は矢を連続で放っていく。弓を引いては放ち、また引いては放つ。


余りに次々と矢が飛んできて、オークたちがバタバタと倒れていくので3人は奇跡が起きてもう援軍がやって来たかと錯覚してしまった。


期待を込めて振り返った先には俺がたった1人で弓をあり得ない速度で放ってる異常な光景。3人は益々混乱してしまった。


それでも数秒の沈黙の後、頭を切り替え、生き残るために再びナジムさんの援護に戻った3人は大したものだと思った。



十数秒後には3人の周りには動いているオークはいなくなっていた。すぐにアリエスが3人の護衛に入り、俺はナジムさんが必死で抑えているオークジェネラルの方へと向かった。



 俺はナジムさんがヒットアンドアウェイを繰り返してるので、オークジェネラルから離れる瞬間を狙って矢を放った。前と同じく矢は剣で弾かれたが、今回は一本ではない。いくら防ごうとも次々と矢は放たれていく。


1本、また1本と、オークジェネラルの体には氷の矢が刺さっていく。このままではそのうち殺られてしまうと判断したオークジェネラルはナジムさんを無視し、俺へ向かって駆け出した。



「うぉーーーおー!」



しかし、それはあまりにも愚作!距離を詰めた分、オークジェネラルは俺の矢に反応できなくなり、次々と体中に穴が空けていった。しばらくすると前に歩むことすらできなくなり、動けなくなった。そこに後方から無視をされていたナジムさんが追い付きその首筋を切りつけ、オークジェネラルはそのまま倒れることとなった。



「おい!その弓矢は何なんだ!?」



「秘密です!冒険者は自分の持つ取って置きをそう簡単に他人にバラすものではない筈ですが?」



「ちっ!確かにな…しかし、信じられねーくらい早い連続矢だったな!!」



そう言い、俺に近づいていたナジムさんが俺の目の前で突然倒れたのだ。そのはるか後方には、先程とは別のオークジェネラルとさらに巨大な存在が立っていた。



「ま、まさか…オークキングなのか!?」




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