第8話

「本当に2人だけで討伐できたの?スゴいじゃない!」



戻った俺たちにエリーゼさんは驚きの声を上げた。理由は簡単だ。俺たちがこの依頼を受けようとしたとき、「マンキーソルジャーは素早く木の上を動き回るから、遠距離から攻撃する手段がないと討伐に苦労する!実戦空手だけでは難しいから!」っと全力で止めた方がいいと忠告されたのだ。



「一応これくらいの依頼なら簡単にこなせるくらいの実力はありますので、これからもよろしくお願いします!」



「言うわねー?分かったわ!じゃー今の言葉を信じてこれからはバンバン依頼をお願いするわね♪」



「えっ?エリーゼさんの方からお願いされることもあるんですか?」



「私が個人的にギルドで早めに片付けたい依頼をお願いすることはあるわね!でも別にギルドからの指名依頼ではないから、特にあなたたちの利になることはないけどね。もちろん断ってもらってもいいのよ。私はただお願いだけするだけ!」



「うわーっ!それって微妙に断りヅライやつじゃないですか!!」



「そう思ってもらえるのなら受けてもらえると助かっちゃうわね♪」



「大人の世界って怖いなー!」



「そんなに怖がらなくても、いきなり危険なことなんてお願いしないから心配しないで!2人なら達成できると思ったレベルの依頼しかお願いなんてしないから!」



「オリオン、この女の話をまともに聞いていたら、私たちいいように使われるわよ。私たちには目標があるんだから、効率悪い依頼に時間を食ってる暇はないんだからね!?」



「へー目標があるんだ?どんな目標かしら?Aランク冒険者とか?」



「いえ、俺たちは全力でGPを貯めたいだけなんです!だからできれば大量の魔物を倒すような依頼が理想なんです。」



「GPをね…?お金や名声よりも純粋な力を欲してるのかな?この村にも前は君たちみたいなタイプの冒険者がいたなー。」



「へー。その方は今どうされてるんですか?」



「死んだわ…」



「えっ?依頼で失敗でもしたんですか?」



「違うの。死んだ人間を悪くいうのはあれなんだけど、彼は正直それほど強い冒険者ではなかったの。それでも彼は君たちのように討伐依頼に拘り、自分にできる範囲で生真面目に頑張ってくれていたの。それがある日突然原因不明の突然死で死んでしまったの。


私は思うの。人生なんていつ終わるか分からない。だから何かに拘るのも悪くないし、目標を持つのも悪くない。でもその時どきもしっかりと楽しまないと勿体ないと思うの!君たちはせっかく冒険者になってくれたんだから、それを楽しんで生きて欲しいの!!」



「エリーゼさん、大丈夫ですよ!俺は自分の人生を思いっきり楽しんでいますよ!もちろん冒険者の仕事も楽しみながらやっていくつもりです!」



「ふふっ!君はいい表情をするわね?将来が楽しみね♪」



「オリオン、このショタコンに気を付けなさい!油断してると食べられるわよ!!」



「私にそんな趣味はないわよ。アリエスちゃんは私みたいなおばさんにまで焼きもちかしら?」



「そんなんじゃないわっ!オリオン、もう行くわよ!!」



「待ちなさい!報酬を受け取らずに帰るつもり?」



「あっ!じゃー早く用意しなさいよ!」



「お待たせしてごめんなさいね。思ってた以上に討伐していてくれたから、報酬を計算しながら話していたの。合計で24匹の討伐ね!本来は10匹で5000リラの依頼だったんだけど、それ以上に討伐してもらえれば1匹当たり300リラ出すって言われてたの。だから報酬は9200リラになるわ!この中から登録料の2000リラは返済する?」



「あっ!お願いします。」



「じゃー、7200リラの報酬よ!半分に分けた方がいい?それともまとめて渡してもいいかしら?」



「そんなことまでしてもらえるんですか?じゃー半分に分けてもらってもいいですか?」



「分かったわ。はい、3600リラずつね。うちは田舎だからできるサービスね。他の街では纏めて渡すのが普通だから、他所の街に出たときにトラブらないでね?」



「分かりました。色々とありがとうございました。多分また明日依頼を報告にきます!!」



「はーい。待ってるわね!」




 冒険者ギルドを出た俺たちは、家路についた。



「なあ、さっきのエリーゼさんの話にあった冒険者…多分俺たちと同じだよな?」



「多分ね?私たちの他にも諦めずGPを貯めようとした人もいたってのは分かったわね!おそらく他にもそういう人間は多くいるとは思うわ!!問題はその中で、完全解呪の取得に成功した人がいないかってことね?


もしそんな存在がいたら、その人を見つけ出すだけで私たちも呪いを解いてもらえるかもしれないわ!!」



「そうだな。その線も過度に期待せずに情報を集めていこう!」



「そうね、期待しすぎて打ちのめされたばかりなのを忘れていたわ!」



「ところでアリエス、報酬の3600リラどうする?」



「うーん。私はお母さんに渡すかなー。別に使い道ないしね。」



「そっかー。そうだよなー!俺たち武器も必要ないし、防具も変にあると動きを妨げそうだしな!俺も母さんに渡しとくかな。」



「じゃー、また明日。朝日が昇ったら村の入り口集合で!」



「お疲れー!」




 俺たちは俺の家の前で別れた。うちの中ではミランダが夕食の準備をしており、俺が家に入ると話しかけてきた。



「おかえりなさい!聞いたわよ!あんた、アリエスちゃんを家までデートに誘いに行ったんだって?やるわねー♪そういうことなら先に言ってくれたら少しくらいお小遣いあげたのに!!でもあんたお金もないのにどこにデートに行ったの?」



「ぶっ!母さん、どっからそんな話聞いたんだよ?俺は確かにアリエスのとこに行ったけど、それはデートに誘った訳じゃない!俺はアリエスにこれから一緒に冒険者をしないかと誘いに行ったんだ。そしてOKをもらったんだ!


っで、今日は早速ギルドで登録して、さらに初依頼を達成して帰ってきたんだ!!」



「えっ?冒険者!?母さん、そんな大事な話聞いてないわよ!!」



「今話してる。」



「先に相談くらいしなさいよ!」



「だって俺もまさか今日誘って、今日登録するなんてさすがに想像もしてなかったんだよ!アリエスがOKしてくれたら話そうとは思ってたんだよ!」



「相変わらず2人して大胆な性格ね!それで未成年のオリオンが実戦空手だけで、やっていけそうなの?」



「うん、大丈夫だったよ。これは今日の報酬の3600リラだよ。俺は今はお金必要ないし、母さんに渡しておくよ!」



「いきなり3600リラも?そんな危険な依頼を受けたの!?」



「いや、それほどでもないんだけどね。マンキーソルジャーの討伐の依頼を受けていたら、偶然にも沢山そこに存在してた。だから全部倒してきたんだ。だから報酬はその分も加算されたんだよ!」



「えっ?オリオンってそんなに強かったの?」



「えっ?母親なのに知らなかったの?俺はこれでも1年前の時点で道場でも2番目に強かったんだぞ!!ステータスも全て200だし。」



「最大なのね?いつの間にそんなことになってたのかしら。」



「3歳からずっと鍛えてきたからね!明日も依頼を受けてるから、朝イチから働いてくるよ!!」



「まだ9歳なのに、いきなりしっかりしちゃったわね?でもくれぐれも気を付けるんだよ!!それと夜父さんにもちゃんと報告しないとだよ!」



「うん。分かってる!」




 ガラバスは俺の弓の指導をしてることもあり、俺の実力の一端を知っていたためあっさりと冒険者をすることを認めた。そしておもむろに自分の部屋に入り戻ってくると、その手には新品の弓が握られていた。



「お前が一人前になったら渡そうと思っていた弓だ!矢は自分で用意しろ。まだ先の話だと思っていたからそこまで準備をしてなかった。もう仕事をこなすこともできるなら立派な一人前だ!


だがお前はまだ成人前だということを忘れるな!アリエスの迷惑にならんように腕を磨くことを忘れるなよ!!」



「うわーっ!父さんありがとう!!早速明日から使わせてもらうよ!」



 俺はこの世界で初めて自分専用の武器を手に入れたことでテンションが上がっていた。今すぐ試したい気持ちが溢れた俺は弓を持って外へ飛び出そうとした。



「おいオリオン、こんな時間からどこへ行くんだ?」



「この弓をどうしても今すぐ試してみたいんだ!」



「矢もないのにか?」



「うん!それでも試したい自分の気持ちを抑えきれないんだ!」



「そうか…ほどほどにな!」



ガラバスは自分のプレゼントを喜んでもらえたことが嬉しかったようだ。




 俺は家の外へ出ると、村の外れにある広場へ駆け出した。こんな時間だ、真っ暗なこんな時間に誰もいない。俺はライトの魔法を10個ほど発動し、辺りを照らした。そうして、的となる木を決めて構えた。


矢の代わりはアイスという小さな氷を作る生活魔法を利用して即席の矢を作った。



ビュンっ



心地よい音を響かせ氷の矢は的の木に深々と刺さった。




おおっ!いい弓だ♪初めて使うのにずっと使っていたように手に馴染む!!それにこの氷の矢も悪くないかもしれないな?これなら矢がなくても弓を使える。矢をつがえる手間が減る分、連射も可能になるしな!試してみるか。



予想通り、連射も可能だった。矢を放ち、弓を引き直す間に矢を構築すればほぼ無限に連続で矢を放つことができた。弓を使う難点は、矢が切れると何もできないことだ。そして矢はそれなりに金がかかる。ガラバスも含め、狩人たちは可能な限り狩りの後、矢を全て回収して回る。


正直俺にはそれが面倒だった。


ゲームでは矢という存在は使い捨てで安価なものという典型的なアイテムだった。それにアイテムボックスのような便利なものがあり、何百でも何千でも持てるので矢が切れることなど考える必要すらなく連続で放ち続けられた。


だが現実世界では矢は中々に嵩張る。つまり大した本数を持ち運べないのだ。街の傍でただ狩りをするだけならばメイン武器にでも十分に使えるが、冒険者としての活動ではメイン武器にするのには現実的ではないと考えていた。


しかし、この氷の矢なら残していても勝手に水になり消えるだけだ。回収する必要もない。矢も持ち運ぶ必要もない。俺の場合はこのスタイルの方が合ってるのかもしれない。矢がなかったから即席の案だったが、また新たな戦い方が生まれた瞬間だった!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る