第7話

 依頼の掲示板を見ながら、アリエスが俺に詰め寄ってきた。



「オリオン?あんたもしかして魔法も得意なの!?さっきの本当の話でしょ?」



「ああ、俺は母親のお腹にいる間からずっと魔法の訓練をしていたんだ。それに集中しすぎて、3歳になるまで体を殆ど動かさずに生活してたんだよ。だから出会った頃の俺はひ弱だっただろ?


0歳から3歳になるまでは毎日10回は魔力切れで気絶する生活だったからな!」



「オリオン…あんたは私が思ってた以上の変態だわ!!あの魔力切れを毎日10回って…あんた魔力のステータスいくつなの?」



「えっ?俺は全ステータス200だぞ!」



「うそー!!まだ9歳のくせに私よりも全然強いじゃない!!!」



「あれ?アリエスは違うの?」



「私も体力、力、俊敏は200よ!でも魔力と精神は100もないわよ!!」



「アリエスは頭脳明晰に見えて、脳筋タイプだったか…」



「うるさいわよ!でも生活魔法しか使えないのによくそこまで頑張れたわね?」



「えっ?アリエスは生活魔法の本当の使い方を知らないのか!?」



「えっ!?生活魔法の本当の使い方って何よ!?あんなものいくら使っても大した変化もないじゃない?詠唱を変えれば多少は変化あったけど、逆に使いにくくなるばかりだったわよ!!」



「うわー勿体ない!アリエスに俺が本当の魔法を教えてあげるよ!!」



「上から目線がすっごい気になるけど…それで何かが変わるならお願いするわっ!」



「依頼を受けて外で教えるよ。村の中じゃ危なくて本気は出せないしな!!」



「危ない?生活魔法が!?」




 結局俺たちはせっかく2つ上の依頼まで受けられるので、Eランクのマンキーソルジャー10匹の討伐依頼を受けることにした。マンキーソルジャーとは猿のような魔物で、ガラバスとの弓の修行で何度か討伐したことがあった。群れを作る習性があり、木の上をその長い手を使って素早く移動をする。基本的な攻撃手段は石や木の枝を遠くから投げてくるだけでそれほどの驚異はない。


弓を使ったら今の俺なら何匹群れていようと大した敵ではないのだが、今回は本当の生活魔法の御披露目に魔法で討伐することにした。



「アリエス、いたぞ!あれがマンキーソルジャーだ!!」



村を出て、いつも弓の修行で行く森を進んでいると目的の魔物を発見した。



「うわー!いっぱいいるわね?20匹はいるわ!どんな作戦でいく?」



「今回は俺の魔法だけで討伐するよ!!説明するより見た方が早いからな!」



「えっ?魔法って生活魔法でしょ?」



「まあ、見てなって!!」




 俺は飲み水を作り出すウォーターという生活魔法を無詠唱で発動した。さらにその水にイメージと魔力を操作することにより、まるで水のレーザーのようなものを次々に発動した。


それらはマンキーソルジャーの胸や額を貫き、1匹また1匹とまるでマネキンのように地面に落ちていった。



「ありゃ、5匹ほど木の陰に隠れられちゃったな。。仕方ない。」



今度は更に水を圧縮して細めて放ち、木ごとマンキーソルジャーを貫き倒していった。




「こんな感じだな。今のは全部生活魔法のウォーターだ!使い方を変えれば便利だろ!?」



「な、な、な、なに今のーーー!?ふざけないでよ!あんなのウォーターじゃないわよ!!最後の攻撃、下手な中級魔法くらいの威力がなかった?」



「一応魔力も200だしな!これでもここまで使いこなすのに結構苦労したんだぜ!アリエスも頑張れば絶対に同じように使いこなせる筈だ!魔法は魔力のコントロールと明確なイメージ力だからな!!手本がここにいるからあとは魔力のコントロールさえ覚えられれば同じことができる!!楽勝だろ!?」



「何が楽勝だろ?だー!あんた今の魔法はこの世界の常識を根本から覆すようなもんだって分かってる!?」



「それくらいは俺だって分かってるさ!だからこれまで誰にも見せたことはなかった。親にもな!俺はアリエスだから見せたんだ!!」



にっこりとはにかむまだ9つの男の子の姿にアリエスはドキッとさせられてしまったことを慌てて否定した。



「俺はこの世界の常識なんてくそ食らえなんだ!!せっかく剣と魔法の世界に今いるんだ!俺は神様に騙されていようが、スキルを覚えられなくたって関係ない!!俺は今憧れの地にいる。こんな魔物もいる世界だ、いつ死ぬかなんて気にしてたら何もできないし、楽しめないだろ?


希望はちゃんと用意されてるんだ!俺は死を迎えるその瞬間まで思いっきり足掻くし、思いっきり楽しんで生きていく!!だからアリエスも俺と一緒にこの世界を思いっきり楽しもうぜ!!」




この時アリエスは思った。



あーこの小さな男の子は私なんかよりもずっと異世界に憧れを持ってたんだなと。彼にとってチートがもらえるかなんてどうでもいいことだったんだ。神様の嫌がらせなんて気にもしないくらい、この世界で人知れず努力し、自分で道を切り開いていけるだけの力を身につけていたんだ。


私ってこんなに普通だったんだな。ラノベの主人公になれるのは彼のような人間なんだろうな。




「ねえ、オリオン?」



「ん?どうした?」



「オリオンは実戦空手も私と同じくらい使える上、こんな力まで身につけていたのに、何で私を一緒に冒険者に誘ったの?1人でも冒険者くらいいくらでもできたでしょ?」



「今言った通りだよ。アリエスと一緒なら、俺の人生はもっと楽しいものになると思ったからだ!OKしてくれて本当に嬉しかったんだぜ!これからもよろしくな!!」



「にゃ…」




この男…こんなところまでラノベの主人公かよ!絶対将来嫁ハーレムとか作ってる

タイプだ!!ヤバい。油断してると私もその1人に入れられちゃうわ!!既にさっきから意識させられまくりなんですけど…!?



「分かったわよ!でも、誘ったからには私にもさっきのような魔法を教えなさいよ!!」



「あー、もちろんだよ!その方がパーティーの戦力も上がるし、アリエスの意見も取り入れたらもっと魔法の幅が広がるかもしれないしな!!」




 それからしばらく俺はアリエスに魔法のコツを教え、それを1人練習させている間にマンキーソルジャーの討伐証明部位である右手首を、そよ風という生活魔法を利用して切断して回った。持ってきた道具袋にそれを詰め終わると、村へ戻ることにした。


真剣に魔法の特訓をしてるアリエスを見て俺は何だか嬉しい気持ちになった。




これから楽しくなりそうだ!!




.....

....

...

..




『キーッ!何なのよ、こいつ!!』



 ここは神界、今年10歳になったアリエスのことを注目し、自分等の用意していた罠により落ち込んだ姿を覗き見て愉悦に浸っていたファーレ神は、それを邪魔したオリオンに対してイラついていた。



『ファーレ、落ち着け!これまでも10歳で俺たちの罠に気付いても、それを乗り越え20歳までに200万GPを貯めようとした転生者たちは大勢いた。だが、俺たちの用意した絶望はまだこれからが本番だ!!


この2人はきっと200万GPを貯めてくれる。楽しみじゃないか!その時にあの顔が絶望に染まる瞬間を覗くのが…きっといい顔をしてくれる!!』



『そうね…残り10年精々藻掻いてみせればいいわ!その努力が大きければ大きいほど、私たちの罠を知ったときの絶望はより大きいものになるのよ!!


今からそれが楽しみだわ!』



『あー、俺はそれを想像するだけで漏らしてしまいそうだ!』



ベトログ神は本当に漏らしてしまいそうなくらい、恍惚とした顔をしていた。



『ちょっと、汚いから止めてよね!』




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