第6話
「俺と一緒にしばらく冒険者をしながらGPを集めないか!?」
俺のずっと考えていたことだ。幸いこの村には小さい支所ではあるが、冒険者ギルドが存在する。調べたところ、教会の学校を卒業した者ならば登録が可能となるらしいのだ!!だから教わる内容に意味はないと思いながらも1年も学校へ通い続けたのだ。
「……」
アリエスは黙ったまま何も言わない。
「確かに成人を迎えたアリエスにとって、成人前の俺とパーティーを組む利点は少ないと思う。だがずっと一緒に鍛えてきたから、お互いの動きや癖が分かってる分、連携が取りやすいと思うんだ!!
アリエスが強くなって、俺が足手まといになると思ったときは、遠慮なく抜けてもらって構わないから、それまで一緒にパーティーを組んでくれないか?」
「…無駄よ!そんな努力しても何もかも無駄なのよ!!」
「えっ?どういうこと?」
「そのまんまよ!全部無駄だったのよ!!」
「アリエス?何が言いたいか俺には分からない。ちゃんと説明をしてくれないか?」
「……」
俺は何も言わないアリエスの目を見続けた。
「分かった。分かったわよ!説明をするわよ。それにオリオン、あなたもそれを知る権利はあるわっ!!」
「知る権利?」
「オリオン、あなたもファーレ神の加護とベトログ神の呪い持ってるわよね?」
「なっ!?ま、まさかアリエスもて…」
そこで俺はアリエスの手によって口を塞がれた。
「ここからは言葉を選んで発言しなさい!まだ死にたくないでしょ?」
間違いない!アリエスも俺と同じ転生者だ!だが、それにしてもファーレ神の加護はともかく、なぜベトログ神の呪いのことまで?
「確かに俺にはその2つの加護と呪いがある。だがなぜそれが分かったんだ?」
「やはりあなたもベトログ神の呪いを受けてたのね。これで私の想像は確信に変わったわ!
私が最初に気づいたのは最初にあなたと出会った時よ!オリオンは私の実戦空手を見て拳法か?と尋ねた。その時点でもしかしてと思ったわ。だってこの世界に拳法という格闘技はないからね。そして空手のイメージが違ったと言ったことで確信に変わったわ。だからうちの道場に誘ったのよ!」
「そんな前から…やっぱりアリエスは凄いな!!でもどうしてファーレ神の加護のことはともかくベトログ神の呪いのことまで分かったんだ?」
「それはね…私が先日10歳を迎えたからよ!10歳を迎えるとGPを使って様々なスキルを覚えることができるのは知ってるわね?」
「もちろんさ!まさかそのスキルがショボイものばかりだったのか?」
「違う!ファーレは何一つ嘘なんて言ってなかった。そのスキルはどれもとんでもない凄いものばかりだったわ!!」
「おおっ!じゃー何が無駄だったんだ?」
「確かに凄いスキルばかりよ!でもね…それを取得できなければ意味がないってことよ!!ファーレの用意したスキルは一番少ないものでも200万GPを必要とするの!それが完全解呪のスキルよ!!」
「200万GP…」
「しかももっと最悪なのが私たちにはステータスを成長させることができないってことよ!普通は力や俊敏などをGPで必要なだけ上げられる筈なのに、私たちには「全能力最大値解放」ってとんでもないスキルがあるだけで、それを取得するまではステータスを200以上に上げることなんてできないの!!
その条件で20歳までに200万GPを貯める必要があるのよ!?できると思う!?仮にそれに成功したとしても、それからさらに少なくとも230万GPは貯めないと成人前の能力と変わらない強さってことなの!!これがどんなに辛い現実なのか分かるでしょ?
あの神たちはきっと私たちが絶望するのを見て楽しんでるだけなのよ!!私だけ呪われてるのならまだ運が悪かったと思えるけど、オリオンも同じ…きっと他にも同じような人たちが大勢いるんだと思う。
あの神たちはあの三文芝居で呪いを受け入れさせこの世界に送り込んでいる。それも大勢をっ!!
だってこの世界おかしいでしょ?あっちの文化が溢れ過ぎてる!きっと私たちのような人間がどうにか成人後生きようとしてあっちの知識を利用したんでしょうね。私だってこれからどうやって生きていけばいいか分かんないよ!!」
「なるほど…確かにアリエスの言う通り、どうやら俺たちはあの神様たちに騙されていたようだ。だけど絶望するのはまだ早いよ!まだ10年近くも期限まであるだろ?」
「10年も死ぬ気で頑張っても、運がよくて延命できるだけなのよ?普通に考えたらその前に死んじゃうわ。私はこれから20年以上も弱いまま頑張り続けられる自信なんてない!!」
「アリエス、落ち着いて!アリエスは1人じゃない!俺もいる!!これから俺たちが力を合わせGPを貯めていく!そうすれば俺が完全解呪を取得し、アリエスも俺も呪いから解放される。
そしてアリエスはそのチートスキルの中から1つ取得すればいい!そしてそのチートを利用して俺も一緒に大量のGPを稼がせてくれ!そうすれば10数年後には2人でチートパーティーだ!!どうだ?いい案だろ!?」
「ハハハッ…何で今の話を聞いて全く絶望しないのよ!何でそんなに前向きな案をすぐに思い付いちゃうのよ!?私の方がお姉さんなのに恥ずかしいったらありゃしないわよ!
でもありがとう。ちょっと落ち着いたわ!分かった、私ももう一度足掻いてみるわ!一緒に冒険者パーティーを組みましょう!!」
こうして俺とアリエスは冒険者としてパーティーを組むこととなった。気楽に考えていた俺には、色々と過酷な条件ではあったが、俺たち2人でならば何とかなると思えるのは、俺のアリエスへの信頼の証なのだろう。
それから俺たちはすぐに行動を起こした。冒険者ギルドに登録に向かったのだ!俺はともかく、アリエスに残された時間はすでに10年を切っている。その間に200万というとんでもないGPを貯めようと思ったら、僅かな時間も無駄にはできないのだ!!
「いらっしゃい、僕たちお使いかな?」
「いえ、俺たちは冒険者登録をしに来ました!」
「えっ?あなたたちが?」
「はい。彼女は成人してますし、俺も先日教会の学校を卒業しましたので問題はない筈ですが?」
「そうね。でも冒険者の仕事はとても危険なのよ?大丈夫なの?」
「「はい!大丈夫です!!」」
俺たちは元気に答えた。
「分かったわ。私はこの支所の受付兼事務を任されているエリーゼよ!よろしくね!」
「「よろしくお願いします!」」
「じゃー早速この用紙に名前と年齢、それと得意な武器や魔法があったら書いてもらえるかな?文字は書ける?」
「大丈夫です。」
「はい、じゃー預かるわね。2人とも実戦空手の有段者なのね!魔法は生活魔法だけね。登録したら2人ともGランクの冒険者になるわ。1人だと自分のランクの1つ上まで、パーティーなら2つ上のランクの依頼まで受注することはできるの!依頼を受けられる数に上限は設けてないけど、基本どの依頼も期限もあるし、失敗したら依頼の邪魔をしたということで報酬額そのものが罰金となるから気をつけてね!」
「罰金?お金を持ってなかったらどうなるんですか?」
「その場合ギルドが肩代わりするわね。それが繰り返されるとその借金分肉体労働させた上、冒険者をクビになるわ。そんな人がいてもギルドの信用を低下させるだけだからね。」
「なるほど。それと先ほど基本は期限があると言われてましたが、期限がない依頼ってどんなものなんですか?」
「それはいくらあっても困らないポーションの材料になるヒルク草採取やオーク肉の納品、あっそれと害悪にしかならないゴブリンの討伐もそれに当たるわね!討伐証明にゴブリンの左耳を持ってきてもらえれば1つにつき100ラナもらえるわ。これらは逆に依頼を受注する必要もないから期限がないの。」
「なるほど。分かりました。」
「そうそう、あなたたち登録料持ってる?1人1000ラナよ!」
「あっ、急ぎ過ぎて登録料のこと考えてなかった!俺小遣い制ではないから手持ちにお金はないな。アリエスお金持ってる?」
「あー。私も必要な時に親にもらってたから自分のお金なんて持ってないわ。」
「そっかー。じゃー親にお金を借りてまた明日出直すしかないか…」
「あー、大丈夫よ!登録料もギルドが肩代わりすることもできるわよ。」
「エリーゼさん、本当ですか?」
「ええ、ただし登録から1ヶ月以内に返済されなければ冒険者をクビになるわ。それも永遠にね。」
「1ヶ月もあるのなら何も心配ないな!それでお願いします!!」
「じゃー1人ずつこの魔道具に手を置いてもらえるかな?」
水晶のような宝石の上に手を置くと、そこから魔力を僅かに吸い取られる感覚を覚えた。
「これは魔力を記憶させる魔道具なんですか?」
「えっ?どうして?」
「微量でしたが、魔力を吸い取られる感覚がありましたので。」
「へー。ほんの微量しか吸わないから普通は分からないんだけどな。オリオン君は魔力の扱いが上手なようね?」
「じゃーアリエスさんもお願いね。」
「オリオン、よく分かったわね?私も集中してたけど全く分からなかったわ。」
「魔力の扱いは母親のお腹の中にいる間から訓練してたからな!」
「「えっ?」」
「あっ!冗談だよ。もちろん冗談。」
「オリオン君って面白いのね!はい、これがギルドに所属する証!絶対に無くさないでね!!無くすと再発行に10万ラナ必要だからね!」
「10万ラナ!?それは気をつけます。」
ギルド証は銅の色をしたプレートのついたネックレスになっており、簡単に壊れないよう丈夫な鎖で作られていた。1ラナがおおよそ日本円で10円の価値なので、これを万が一無くしたら100万円必要ということだ!大事にしよう。
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