第5話
「うーん。オリオンと私は縁がある気がするの!これは女の勘よ!!まあすぐには決められないでしょうし、私はオリオンが道場に来るのを待ってるわよ!じゃーまたね~!」
それだけ言ってアリエスは帰っていった。
「あらあら…オリオン、もしかしてモテちゃった?」
「ばっ、そんなんじゃないよ!!」
「アリエスはどう思ってるかは分からないわよ?」
「もうっ!からかわないでよ!!」
「私はオリオンが習いたいのなら、実戦空手を習ってもいいと思ってるわよ。オリオンが体を動かすきっかけになりそうだしね?それにアリエスは可愛いもんね~!?」
「だからそんなんじゃないって言ってるのに!!」
さすがにいくら美少女が相手でも4歳の女の子をそういう風に見たりできないよ!これでも中身はもう前世と合わせて19年も生きてるんだから!!
しかし、どうするかな…体を鍛えることを目的にするのなら実戦空手はいいのかもしれない。でも剣も弓も捨てがたい…
結局、俺は実戦空手を学ぶことにした。難しくは考えず、とりあえず一度試してみることにしたのだ。所詮俺はまだ3歳。合わなければ別の戦い方をやり直す時間は十分にあるのだ。
それとあのアリエスという子ともう一度話してみたいとも思ったのも嘘ではない。といっても変な意味はないぞっ!同年代に目標となる相手がいるのは頑張りがいがあると思っただけだ!!
というわけで今日俺はミランダに連れられ、実戦空手の道場の門を叩いたのであった。道場は予想以上に大きく、門下生も多いようで驚いた。
「あっ!オリオン!!」
早速俺に気づいたアリエスが駆け寄ってきた。
「やあ、アリエス。早速来たよ。」
「来てくれると思っていたわ!まあ何日か待って来なかったら、家まで迎えに行こうと思ってたんだけどね♪」
「ええ!?なんでそこまで?」
「言ったでしょ!女の勘よ、女の勘!!」
「ふふっ。アリエス、オリオンをよろしくね!お父さんはどこにいるかな?」
「あっ!私が案内します!!こちらです。」
俺たちはアリエスに案内されて道場の奥へと進んでいった。
「お父さーん、この前言ってた子がうちに来たよー!!」
いかにもイケメン格闘家という雰囲気の若い男がそこにいた。
「アリエス!で…この子が?うーむ。どちらかといえば、ひ弱な感じがするんだが…」
「ブラウス、人の子を見て第一声がそれ?気持ちは分からないでもないけど、ちょっと酷いんじゃない?」
「ミランダじゃないか!この子はお前の子か!?」
「そうよ。私とガラバスの息子のオリオンよ!あなたのところへ預けようと思って来たんだけど…迷惑だったかしら?」
「いや、そんなことはない!もちろん大歓迎だ!!ただアリエスに言われてたイメージとかなりかけ離れていたんであんな反応になった。済まなかったな。」
「アリエス、一体どんな風に伝えてたんだよ?」
「えっ?私以上に強くなれるセンスを感じたって言っただけよ!」
「ぶっ!俺多分まだ無茶苦茶弱い自信あるよ?」
「うん。今はね!でもきっとオリオンは数年後には強くなる!!少なくとも私はそう信じてるわよ!」
「それも女の勘ってやつ?」
「ええ!こんな美少女に期待されてたら裏切れないでしょ?」
「うわっ!確かに美少女だけど…自分で言っちゃったよ!!」
「何よ!何か文句でもある?」
「いえ、ないです。」
「じゃー私が基本の型を教えてあげるわ!こっちにおいでっ!!」
アリエスは俺の手を引っ張っていった。
「うーむ。ミランダ、お前の息子はそんなに根性ある奴なのか?」
「どうだろ?最近までは殆ど1日中寝てばかりの子だったし、私は少しは体を動かして欲しかったからここに通わせようと思ったんだけどね。うちのオリオンをよろしくね!」
「あー、それは任せておけ!」
後から知ることになったのだが、ミランダとガラバス、そしてアリエスの父であるブラウスは教会の学校で同級生だったらしい。そのため、あのように気さくな雰囲気だったらしい。
俺はこの日から、これまで魔法に集中していた圧倒的時間を徐々に肉体を鍛えることを中心にシフトしていった。最初は一気に変えようと思ったのだが、あまりにもこの2年間放置された俺の体はいきなりの激しい運動にはついていけず、基礎体力を一から鍛えるところからのスタートとなったのだ。
それでも1年が経つ頃には、力も体力も順調に育っていき、実戦空手の基本となる型もおおよそマスターしていた。そしていつも格上であるアリエスと組み手を行っていたこともあり、自分でも気づかない内に同年代ではトップクラスの実力者となっていた。
その後も実戦空手と魔法の訓練を続けながら日々を過ごしていき、5歳を迎えた頃には、さらにガラバスから弓を学ぶことになったのだった。ガラバスの教えは分かりやすく、すぐにガラバスと共に森で狩りをできるレベルまで成長できた。といっても魔物相手でなく、動物の狩りだが。
そんな生活を送りつつ、俺もようやく8歳になる年を迎え、教会で行う学校へ通うこととなった。正直にいえば、俺には必要ないだろうと考えていたのだが、この世界の常識について何か知らないことも学べるかもしれないと一応きちんと通うことにした。
これに伴い、実戦空手の道場も辞めた。
正直に言えば、この選択は間違いであったと言わざるを得ない。1年も通って、新たに学べたことは何もなかった。正確に言えば、国と教会の洗脳こえーってことと、俺やアリエスは他の同年代に比べるとだいぶ強いってことが学べたくらいだ。
無事に学校も卒業し、俺が9歳を迎える頃には、俺のステータスは全ての項目が努力で増やせる上限に到達していた。
名前:オリオン
種族:人間
スキル:共通語理解
GP:23674
称 号:異世界転生者、ファーレ神の加護を受けし者、ベトログ神の呪いを受けし者、魔力切れジャンキー
体力:200
力:200
俊敏:200
魔力:200
精神力:200
あと1年でとうとうスキルを覚えることができるようになる10歳だ!ここからはもうステータスも伸ばせないので、少しでもGPを貯めることだけに集中していこうと考えていた。そこで以前から考えていたことをとうとう実行しようと動き出した!
まずはアリエスに会いに行くべし!!
約1年ぶりの道場の門をくぐり、俺はアリエスを探しながら奥へと進んでいった。俺のことを知ってる子供たちは挨拶をしてくれる。
この雰囲気…ほんと懐かしい。3歳から5年もほぼ毎日通いつめた場所だもんな!
「おう、オリオンじゃないか!久しぶりだな!?」
「ご無沙汰しております、ブラウス師範!」
「学校も卒業したんだろ?また道場に戻ってくるのか?」
「すいません。俺はこれからはここで学んだことを発揮して、村の外で実戦経験を積んでいこうと考えております!」
「そうか…確かにお前の腕ならそれも可能だな!だがあと1年待てないのか!?お前はまだ成人前でスキルも覚えられない身、いくら他より強いとはいっても所詮は子供の強さだ!成人後の人間に比べればまだまだ弱い。
その成人後の人間でもあっさり殺されてしまうのが外の世界だ!!あと1年すれば安全に強い力が手に入るんだぞ?GPを稼ぐだけなら道場で己を鍛えるだけでも十分に稼げるだろう?」
「心配してくれてありがとうございます。でももう我慢するのは止めることにしました。1年も実りのない学校で時間を無駄にしてしまったので余計にです。俺はもっと強くなりたい!それには実戦が必要なんです!」
「そうか…ならばこれ以上は何も言わん。しかしあのオリオンがこんなに強さに実直になるとはな。アリエスが最初に連れてきた時には、1ヶ月持つのか心配してたんだぞ。」
「えっ?それは酷くないですか?確かにあの頃の俺はひ弱でしたが…」
「済まなかったな。今では俺もお前のことを認めてるよ!お前は5年間、一切手を抜かずに努力し続けた!あの時のアリエスの勘は正しかったな。」
「あっ、それは何とも…俺結局アリエスに一度も組み手で勝つことができませんでした。」
「アリエスもまた、お前に抜かれないよう必死に努力をしていたからな!あの子があそこまで強くなれたのもお前のおかげだと思ってる。そこは父として感謝しているぞ!」
「そのアリエスに会いに来たんですが、どこにいるか分かりませんか?」
「アリエスは…実は何日か前から部屋に閉じ込もっているんだ。」
「えっ?病気にでも掛かったんですか?」
「いや、そうではない。先日あの子は10歳になったんだ。それからずっと様子がおかしいのだ!期待してたようないいスキルが無かったのかもしれんな!こればかりは神様の決めることだ、親であってもどうしてやることもできんからな…オリオン、良かったらあの子を気晴らしに外に誘ってやってくれんか?」
「分かりました。俺アリエスと話してきます!」
「頼んだよ。」
俺は道場の奥にある建物へ駆け出した。アリエスやブラウス師範のお宅である。俺はここに何度も入ったことがあるので、遠慮などせず中に入っていった。
「アリエス、俺だ!!オリオンだ!いるんだろ?話がしたい、入っていいか?」
すぐに部屋の扉が開かれた。
「オリオン!?」
「アリエス、お久しぶり。君に話があって会いにきた!」
「私に話?」
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