第4話

 3歳になる頃には、俺の体もかなり成長していた。



「オリオン、あなたもそろそろ外で遊ぶことを覚えた方がいいわ!!特別な病気でもない筈なのに、いつも家で寝てばかり…もっと外を走り回った方がいいと思うのっ!


小さい頃は私たちが驚くほど成長が早かったのに…」



 今日ミランダにこのセリフを突然投げ掛けられ、俺はハッとした。あまりに魔力切ればかりする毎日だったため、どうやら俺は子供らしい生活を忘れてしまっていたようだ。


確かに俺はこの2年間、殆どを寝て過ごしていた。わざと魔法を発動させるのを失敗させることで、魔力だけを大量に無駄使いする方法を開発してからはミランダやガラバスが傍にいてもいつでも魔力切れを起こすことが可能となったのだ。


親からすれば四六時中死んだように寝てばかりいる子供を心配する気持ちは大いに分かる!むしろ俺自身すら2年間も何をしていたんだ?と思わずにはいられなかった。


この2年で魔力は確かに鍛えられたが、力や俊敏などはたいして成長していない。魔法の特訓に夢中で体を鍛えることをすっかり忘れていたのだ。




名前:オリオン

種族:人間

スキル:共通語理解

GP:8235

称 号:異世界転生者、ファーレ神の加護を受けし者、ベトログ神の呪いを受けし者、魔力切れジャンキー


体力:34

力:12

俊敏:16

魔力:136

精神力:98




 この2年で見ての通り、GPはかなり貯まっていた。そして新たに称号「魔力切れジャンキー」を得ていた。これはしばらく魔力切れを繰り返していたところ、最初は「魔力切れ愛好家」という不名誉な称号を得ることになったが、さらに続けていると現在の「魔力切れジャンキー」へと変化したのだ。


この称号を得てから魔力の回復速度が上がったため、名前はともかくとても役に立つ称号なのだ!




「ママ、分かった!僕、外で遊んで来るよ!!」



「さすがにいきなり1人では行かせられないわよ。買い物もしたいし、まずは一緒にお散歩でもしましょう!」



 こうして俺はミランダと共に近くまで買い物に行くことになった。考えてみれば俺はこの家を出るのはこれが初めての経験だったのだ!家の外は木造の建物が立ち並ぶ住宅地であり、日本人の感覚からするとどこかの観光地へ迷い込んだ気分にさせられてしまう。


家の前の通路は道幅が10メートル近くあり、遠くには俺よりも大きな子供たちが遊んでる姿が目に映った。その遊び方が俺の子供の遊びのイメージとは違い、木剣で本気のチャンバラをしている姿だった。



おぉー!さすが剣と魔法の世界だ!!子供の頃からあーやって剣を学ぶんだな!?



「オリオンもやってみたい?」



「興味はあります。」



「もう少し大きくなったら、習いに行くのもいいかもね?近くに剣を教えてる人が住んでるのよ。他にも実戦空手の道場もあるわ。」



「空手ですか?」



「空手っていうのはね、武器を使わずに素手で魔物と戦ったりする技術なのよ!正直ママにはとても信じられないわ。魔物って本当に怖いのよ。武器を持っていても怖いのに、素手で立ち向かうなんて…ねえ。」




へー、この世界にも空手があるのか~!もしかすると俺みたいな転生者が伝えたのかもな。どんな武器を使うか悩ましいな。剣はやっぱり王道だよな!俺の場合ガラバスから弓を習うのもありなんだよな!



 しばらく歩いていると、住宅街から商店街へと風景が変わってきた。通路の両端には露天や店舗がズラリと並んでおり、中には馴染みのある食べ物も売っていた。




うわっ、あれってクレープだし!あれはヤキソバ!?うおっ!チョコバナナまであるのか!!何だか地球の文化が妙に入り込み過ぎじゃね?さすがに1人の転生者がその全てを伝えたってのは無理があるよな。そもそもこの世界ってどれだけ俺の前に転生者がいるんだ!?



家からたったこれだけの移動だけで、過去の転生者の爪痕を感じさせられる状況に俺は不思議な気分にさせられてしまった。何故そんなに多くの者を転生させる必要があったんだろう?


この世界はどうやら、魔王のような世界に危機を及ぼすような存在が現れた歴史はないようなのだ。この事実を知ったとき、俺はこの世界で何をするために導かれたのか甚だ疑問だったのだ。


ファーレ神は、異世界へ旅立ってくれる貴重な魂には最高級のスキルばかりを準備しておるぞ!楽しみにしておるがいいと言っていた。俺はこれをそういったスキルを使わないと倒せないような存在がいるからに違いないと考えていた。


しかし、現実そんな必要はない。それにそんなスキルを持った過去の転生者たちは何故食べ物や空手の文化を伝えることにしたのだろう?


この世界にはラノベでよく出てくる冒険者ギルドというものが存在するらしい。そこで働けば転生者ならばよほど油断しない限り、安全に贅沢な生活を送れるんじゃないかと思ってる。


…まあいくら考えても答えは出ないか!



「ママ、何だか美味しそうな匂いがいっぱいです。」



「あらあら、オリオンは何を食べたいのかしら?」



「あの香ばしい匂いがする食べ物が気になります。」



「あー。あれはヤキソバっていうのよ!10年くらい前に急に流行った食べ物なんだけど、ママもとっても大好きなのよ!パパに内緒で少し食べちゃおうか?」



「いいんですか?」




名前もヤキソバ…そのままだな。そして、味も俺の知るヤキソバに似てる。やはり間違いない。これを10年前に流行らせた人間は転生者だ!機会があればその人物を調べて訪ねてみよう。



「ご馳走様でした。とても美味しかったです!」



ミランダと2人で一人前を食べた俺たちは、目的の食材の買い物を済ませ、家へと歩いていた。すると先ほどチャンバラをしていた男の子たちが、誰かと揉めているようだった。



「あれはアリエスね。どうしたのかしら?」




 アリエスは俺よりも少しだけ大きい可愛い女の子だった。4、5歳くらいにしか見えないのに、7歳くらいの男の子たち相手に睨みをきかせていた。



「おい、お前はいつも生意気なんだ!!」



「あんたたちが道の往来でチャンバラなんてしてるから、お使いの卵が割れちゃったんじゃない!弁償しなさいよ!!」



「うるせー!避けられなかったお前が悪いんだよ!文句があんなら、俺らに勝ってからにしやがれ!!このチビ助がっ!!」



「言ったわね!あんたたちにもメンツがあるだろうと思って話し合いで解決しようとしてんのにもう知らないわよ!」



その言葉を言い終わると、アリエスは左手を前につき出し腰を落とした。まるで中国拳法のような構えだ。さらに男の子たちを挑発するようにその左手をカモンとばかり動かした。



「舐めやがって!おいお前らっ!二度と生意気な口をきけないよう教育してやろうぜ!!」



「おう!」



男の子たちはこともあろうに、素手の年下の女の子を相手に木刀を構え襲い始めたのだ。



「危ない!!」



俺はつい声をあげてしまった。その声を合図に男の子たちは次々とアリエスに斬りかかっていった。それをアリエスは僅かな動きで避け、そのまま体重の移動だけでカウンターの一撃をボディーに入れていた。さらに回転するように、次々と男の子たちの懐に吸い込まれていき、そのお腹に攻撃を当てていた。その動きはまるで蝶のようだ。



「どう、分かったかしら?なら素直に弁償しなさい!」



「チクショー!ちょっと強いからって調子に乗るんじゃねーぞ!!次はやられねーからな!覚えてやがれ!!!」



「あっ!ちょっと待って!!」



男の子たちは駆け足で逃げていったのだ。



「んっもう!卵代弁償しなさいよー!!」



アリエスの叫び声が虚しく響いていた。




すごい!あれは拳法なのか?



俺がボーッとアリエスを見ていると目が合ってしまった。



「あっ、さっきは心配させたみたいね?私はアリエスよ。えっと…」



「あっ、俺はオリオンです。アリエスってすごい強いんだね!!あれは拳法なの?」



「あれは実戦空手よ。うちの父さんが道場の師範なの。私も小さい頃から練習してるのよ!」



「へー。あれが実戦空手なんだ。俺のイメージしてた空手とはだいぶ違うけど、凄いのはよく分かるよ!!」



「へえ…オリオンは他の空手のこと知ってるんだ?」



あっ、ヤベッ!地球の空手のことなんて説明できる訳もない。



「いや、実際に見るのは初めてだったんで…勝手にイメージをしてたものより凄かったんでそう言っちゃっただけだよ。」



「ふーん、そういうことにしといてあげるわ!ところでオリオンは何歳なの?」



「俺は3歳だよ。」



「じゃー私の方が1つお姉さんだ。よろしくね!


ねえオリオン?君うちで実戦空手を習う気ない?」



「えっ?どうして?」


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