第3話

 あれからさらに半年以上の時が流れ、俺は間もなく1歳を迎えようとしていた。俺の体はようやく動くこともままならぬ赤ちゃんの体から、子供の体へと変化をしようとしていた。今では歩くこともでき、少しなら走ることすらもできるようになり、さらに言葉もある程度は発音できるようになっていた。ミランダやガラバスとコミュニケーションを取れるようになり、この世界のことを色々と知ることができるようになった。



 俺の一番気になることといえば魔法のことだ。この世界の魔法には様々な種類の魔法が存在しているが、どの魔法が使えるかどうかは10歳を迎える時に判明することになるそうだ。


10歳になるとステータスにあったGP(グロウポイント)を利用して様々なスキルや魔法への適正を得ることができるようになるらしいのだが、その選択できるスキルなどが人によって大きく異なるらしいのだ。


たとえばミランダの場合は初級火魔法と初級水魔法への適正があったらしく、料理の時などに普通に魔法を使っているのを見かける。最初にそれに気づいたときの興奮は半端なかった。


ガラバスの場合は魔法への適正はなかったらしく、弓を使った戦闘術に特化したスキルを取っていってるようだ。といってもガラバスも魔法を全く使えない訳ではない。


この世界では「生活魔法」と呼ばれる簡単な魔法がいくつも存在する。これは、GPを使わなくとも誰にでも覚えることのできる魔法であり、成人してる者は殆どが使いこなしているらしい。


これにも理由があり、10歳の成人を迎える前に必要な知識や生活魔法のことを学ぶために、8歳を迎える年の1年間、どの村や街でも教会が最低限の教育を行っているらしい。費用はどうやら国と教会が負担するらしく、ミランダやガラバスはそれに感謝し、毎日国や教会に感謝の祈りを捧げている。




なるほど。国や教会はこれにより民の信頼を集め、教会は信者を集める。国はある程度の思想の統一や法律への知識を与えることで、犯罪や暴動への予防として機能してるのだろう。賢い制度である。




 GPを使うのは魔法やスキルを覚えることだけでなく、体力や力のようなステータスを成長させるのにも使うらしい。ステータスを努力で増やしていくには上限があり、どんなに修行をしても200までしか上がらないらしい。それ以上上げたい場合はこのGPで成長させるしかないそうだ。


ではこのGPはどうやって増やしていけばいいのかといえば、動物や魔物を討伐する、魔法をたくさん使う、剣などの武器をたくさん使うなど様々な経験を積めば増えていくらしい。戦闘行為以外でも、たとえば裁縫や料理などをした場合にもこのGPが増えたりもするらしい。



 俺にとって朗報だったのは、このGP自体は10歳を待たなくとも貯めていけるらしく、それまでの努力が無駄になることは決してないということだ。これは10歳を迎えるまでに、どれだけのGPを貯められるか楽しみになってきた!



というわけで、俺は早速生活魔法に挑戦しようと思っている。ここんとこミランダとガラバスに生活魔法をおねだりしまくってきたので、イメージは充分だ!



「我は願う、闇に灯す光源のしずく…ライト!」




あれ?何も起きないな。詠唱は間違ってない筈なんだが…詠唱だけでなく、魔力のことも意識しないといけないのかな?それとも完成した魔法のイメージも必要なのかな?分からないし、両方意識してやってみるか!



「我は願う、闇に灯す光源のしずく…ライト!」



体から何か力が抜ける感覚と共に、小さな光の玉が俺の目の前に現れた。




おおぉー!出来たぞ♪俺の初めての魔法だ!!思ってたより、魔力の消費が激しいな…そう長くは使えそうにない。まあ普通1歳にもならない子供が魔法なんて使ったりしないだろうから、魔力の総量が不足してるのかもしれないな。


よくラノベである設定で幼少期に魔力の総量ギリギリまで使っていけば魔力の総量が増えるって設定も多いんだが、魔力切れを起こしたらどうなるか分かってない間は無理すると危険かもしれんな。


そろそろミランダも戻ってくるだろうし、消さないとだな。消えろ!



あれ?消えてない。ライトを消すときミランダもガラバスも詠唱なんて使ってなかったが…


あれ?ヤバい!何だかふらついてきた。このままじゃ魔力切れを起こしてしまいそうだ…あぁ。。これは駄目なやつだ…世界が廻る。


俺はそのまま意識を手放した。



 部屋へ戻ってきたミランダは、床で気絶している俺をそっと抱き抱え、ベッドへ運んでくれていた。さすがに魔力切れで倒れたとは想像もしなかったのだろう。しばらくして目覚めた俺は命があったことに感謝し、心の底から安堵した。ラノベによっては魔力切れを起こすと死んでしまう設定のものも数多くあったからだ。


知識もないままイタズラに魔法を使用するのは危険だと分かったが、これで魔力切れで気絶はするが死ぬことはないことが判明した。気絶くらいなら何度しても平気だ!魔法の特訓をこれからも毎日していくことを誓った俺であった。



ライトを使うときも言葉だけでは発動しなかったよな…魔力を意識することと魔法のイメージの両方を組み合わせると発動した。つまり、消すときも魔力の供給を止めることをイメージすればよかったんではないだろうか?そもそも言葉で発動しないんだったら、魔力と魔法のイメージだけで無詠唱で発動できないのだろうか?



 そう考えてしまうと試さずにはいられなくなってしまい、つい先ほど魔力切れで倒れた過去のことなど忘れて再び魔法の練習を始める俺だった。そして…



おおおぉー!本当に出来てしまった…無詠唱!今度は魔力の供給を止めることをイメージしてと…おおぉー!今度はちゃんと止まったぞ!そうなってくるとこんなこともできるかな?



再びライトを使用し、魔力の供給量を変化させながらライトの光の強さを強めてみたり、逆に弱めてみたり、今度はライトの光の玉の大きさを大きくしたり、小さくしてみたりしてみた。



おぉー魔力とイメージの組み合わせ次第で色々と変化させることができるんだ!これは色々と役に立ちそうだ!!あれ?何かおかしい…あっ、ヤバい!これはまた魔力切れだ~!!



本日二度目の魔力切れによる失神であった。




 この日から俺は毎日何度も魔力切れをおこしながらも、様々な魔法の実験を行っていった。


それによって分かったことが幾つも出てきた。まずは初めて使用する魔法に関してはいきなり無詠唱で使用することは不可能であった。詠唱と魔力の調整、発動する魔法のイメージを持つことで魔法は発動し、その時の感覚を体に刻み込めば、次からは魔力の調整と魔法のイメージにより発動が可能となり、無詠唱でも発動することが可能となるのだ!


そしてライトの時のように、魔法の明るさや大きさを変化させるには必ず無詠唱で魔法を発動させることが条件であることが分かった。詠唱をした魔法は後から魔力やイメージを変化させても何も変化せず、ただ魔力を無駄に浪費するだけの行為でしかなかった。


おそらくは詠唱によって魔法に使われる魔力量と強さが一定に固定されてしまうのであろう。その決められたものにより近い魔力供給やイメージを持つことが詠唱による魔法にとって一番無駄なく使用できる方法となるようだ。つまり同じ詠唱で魔法を使用すれば、魔力量に関係なく、誰でも同じ威力の魔法が発動することになるということだ。



 では詠唱の言葉を変えて魔法を発動させてみるとどうなるか…気になったので色々と試してみた。この実験の結果は、詠唱の言葉によっては魔法の効果や使用される魔力量に大きく変化が起きた。そして言葉の組み合わせの多くは、魔法を発動させることすら不可能な組み合わせがほとんどであった。


詠唱の工夫により、魔法の可能性を引き上げることは可能である。しかし、理想の言葉の組み合わせを探し出す手間を考えると、どの魔法でも無詠唱で自分の好きなように発動させることが、理想の魔法の使い方であるという結論に至った。



 そして最後に今回分かった中でも一番の知識は、魔力切れを起こすとGPが普通に魔法を使うよりも大幅に増えるということだった。俺はまだ赤ちゃんといっていい体である。1日の大半を寝て過ごしている。どうせ寝るのなら、全て魔力切れで気絶してしまえばいい!っと俺は寝る前に全ての魔力を使用することを自分の決まり事とした!


それから3歳を迎えるまでは魔法の訓練と魔力切れによる睡眠の繰り返しであった。






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