第2話

おおー!視界が切り替わったぞ!!ここはもう異世界なのだろうか?それにしても馬鹿みたいに暗いな…ここは一体どこだ?



 手足を動かし、辺りを確認しようとしたのだが、思うように動かすことができなかった。



ん?体が思ったように動かせない!この状況…まさか、あのパターンなのか?



 俺が考えたパターンとは、転生する際に意識が芽生えるタイミングのことである。母親から産まれた瞬間に目覚めたり、何歳かになったときに急に目覚めるパターンの話が多い中、俺の場合は、おそらくまだ母親の体内にいる間に目覚めてしまったパターンであろうと予測を立てたのだ。


時々ラノベではこのような早い段階で意識を目覚めさせる話があるのだが、どの話でも大体産まれて数ヵ月までは知識がどんなにあろうとたいしたことはできない。おそらくは俺の場合も同じではないだろうか…


今の俺がお腹に入って何ヵ月経っているか分からないが、ただ産まれるのを何ヵ月も待っているのは思春期の高校生であった俺の精神には苦痛でしかない。



 そこでここでもやれることを探していこうとあらゆることを試していった。周りの音は聞き取れるのか?口や手足を訓練すれば少しは動かせるのか?ステータスは見られるのか?


結果、周りの音はどんなに集中しても聞き取れなかった。おそらくはまだ耳の器官が完全に出来上がってないのだろう。


体に関しても暇さえあれば訓練を繰り返したのだが、肉体をイメージ通りに動かそうとすることは不可能であった。おそらくはまだ脳も未発達な上、神経の伝達も不十分なため、体を動かすことは難しいようだ。



だが、ステータスだけは心でイメージすると簡単に見ることができた。こんな感じだ。



名前:なし

種族:人間

スキル:共通語理解

GP:0

称 号:異世界転生者、ファーレ神の加護を受けし者、ベトログ神の呪いを受けし者


体力:2

力:0

俊敏:0

魔力:1

精神力:52




 ステータスの表記は何故だか日本語で書かれていたため、普通に読むことができた。ありがたいのはスキルにある共通語理解の存在であった。名前から察するに、ポータルマリナにおいて幾つかある言語のうち、どの国でも共通して使われている言語を勉強しなくても理解できるスキルを最初から与えられているようなのだ!これで、一から言葉を勉強していく手間を省くことができそうだ!!


そして次に注目したのが、魔力というステータスがあることだ!これはこの世界に魔法というものが間違いなく存在し、その数値が0でないことから、俺にも頑張れば魔法を使うことが可能だということが分かった瞬間だった。


俺は心の中で興奮し、「よしっ!絶対に魔法を極めてみせるぜ!!」と心に誓ったのであった。



 そこから数ヵ月、俺は永遠に瞑想とイメージトレーニングに明け暮れた。どのラノベでもほとんど共通するのは、魔法のコツはより細かくイメージを持つことができるかである。俺は体を動かせないのならできることをと、科学やゲーム、アニメなどを思い出しながら、あらゆる魔法を想像の中では完璧に作り出せるようにイメージすることに努めた。


これが役に立っているかは正直分からないが、せっかく夢にまでみた異世界転生を果たしたのだ!ワクワクする気持ちが溢れ、何かせずにはいられないのだ。




 それからどれくらい経過した頃だろう…いつの間にか音が聞き取れるようになった俺は、母親の会話を聞き取ることで外の世界の情報を少しでも掴もうとしていた。


どうやら俺の母親はミランダという名で、明るく元気な性格のようだ。父親はガラバスという名で、寡黙であまり喋らないタイプのようだが、ミランダを大事に思っているのはその少ない言葉の中からも伝わってきた。


我が家は、ガラバスが村の近くの森で狩りをして生計を立て、ミランダは家事をしながら畑で野菜を育ててるようだった。




 うん、両親が健在で、仲も悪くない!家庭環境は決して悪くないぞっ!!しかもガラバスに狩りを教われる環境な上、日帰りで狩りをできるような場所があるのは間違いないときてる。



下手にしがらみの多い貴族なんかに生まれ変わるよりは、異世界転生先としては悪くないっ!早く外に出て新たな世界を見てみたい!!俺のワクワクはもう止まらなくなっていた。




 さらに数ヵ月経過した頃だろう、俺はミランダの中から外の世界へと飛び出すことに成功した。出産についてたいした知識はないが、比較的安産だったんではないかと思われる。


その日もいつもと変わらぬ生活を送っていたミランダが突然、



「ガラバス、レナード先生を呼んできてちょうだい!もうすぐ産まれそうよ!!」



と告げたのだ。ガラバスは慌てた声を出し、レナード先生を迎えに去っていった。それからおそらくは3時間ほどで俺は産まれたのだ。母子ともに異常はなく、俺は新たな人生の開始を告げる産声を声高らかに叫んだのだった。



「オギャア!オギャア!!オギャアー!」



不思議なもので、外に出て空気を吸った瞬間に自然と声が出てしまったのだ。




「ミランダ、ガラバス、おめでとう!立派な男の子が産まれたぞ!!」



「レナード先生ありがとう!先生のおかげでミランダも子供も無事だ!!本当に感謝しかない!」



「どういたしまして。ミランダ、よく頑張ったね!少し休んだら、赤ちゃんを抱いておあげ。」



「レナード先生ありがとうございました。私の赤ちゃんをすぐに抱かせて下さい。」



「休まなくても平気なのかい?」



「私はこの子の母親になったんです。少しでも早く抱いてあげたいんです!」



「分かった。ほら、二人の赤ちゃんだぞ!」



「よく産まれてきてくれたわ。私たちのかわいい子。あなたの名前は考えてあるのよ!あなたの名前はオリオン!!弓の精霊様からとった名前なのよ!お父さんのように立派な狩人になれたらいいわね。」



「そうだな。ミランダ愛してる。2人でオリオンを立派に育てような。」



「ええ。」




 うーん仲良しだね。良きことだ!


この世界の俺の名前はオリオンか!地球にもオリオン座って有名な星座があったし、覚えやすいな。


しかし、せっかく外に出られたっていうのに目がほとんど見えないぞ?微かに見える視界もモノクロだ…まさかこの世界の俺ってば目が悪いのか?それはまじで困るぞ!!せっかく異世界に転生したんだ、世界中を色々と見て回りたいのに…



この心配も杞憂であった。生まれて1週間が経つ頃には少しずつ目が見えるようになり、色を感じられるようになっていった。4ヶ月が経つ頃には、母親であるミランダや父親であるガラバスの顔もようやくはっきりと見ることができるようになっていた。


ミランダは決して絶世の美女とはいえないかもしれないが、田舎の村人にしては顔も整っており、出るところは出ていて、とても魅力的な女性だと思った。一方ガラバスはといえば、その顔には顎髭がかなり伸びており、全身ムキムキの筋肉質な男で、最初ドワーフじゃないのか?と思ったくらいだ。



 この頃には日々の訓練のかいもあり、体をかなり動かすことができるようになっていた。ハイハイで部屋を探索して回ることが最近の俺の日課であり、平行して発生練習も開始していた。まだ言葉らしいことは全く発生できないが、魔法を使うのに詠唱が必要かもしれないからこれも大事な特訓なのだ。


俺の当面の目標は何としても1歳になるまでに魔法を習得することなのだ!日々の瞑想やイメージトレーニングなどによる訓練の成果はステータスにも影響を及ぼしていた。



名前:オリオン

種族:人間

スキル:共通語理解

GP:0

称 号:異世界転生者、ファーレ神の加護を受けし者、ベトログ神の呪いを受けし者


体力:15

力:1

俊敏:2

魔力:10

精神力:58



始め1しかなかった魔力が10まで増えたのだ。努力の成果がステータスをみればすぐに分かるので努力することも苦痛というより楽しくて堪らなかった。最近では体内に流れる魔力を感じられるようになってきており、この魔力をどうにか操作できないか試行錯誤しているところだ。


体もたいして動かせないが、既に何の目標もなかった前世よりも楽しい生活を送れている。


うん、異世界転生最高~♪


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