ナナミのお気に入り
ナナミは格納庫のモニターでヨンゴの戦闘をじっと見ていたが、ヨンゴが最後の敵戦艦を撃破した瞬間、自分の顔がニンマリと笑っていくのを感じていた。
戦果は戦艦2隻、飛行機型戦闘機2機、(ほぼ的とはいえ)トリニティ5機。初陣でこれだけ動けるのであれば、イチカはヨンゴに乗せてやってイイ。久しぶりに見つけた、自分のお気に入りになってくれそうな人間。
「気に入ったか?」
後ろから同じくモニターを見ていたクドウが目線はそのままにナナミに問いかける。
「うん!ナナミ、イチカのこと気に入った!ヨンゴの整備も頑張っちゃう!」
ナナミは雑多に置かれていたタブレットを乱暴に手に取ると、先程の戦闘映像から推測される修理箇所を一目散に登録していった。
いつも以上に上機嫌なナナミにクドウは心配になる。ナナミが気に入った人間はもれなくメンタルブレイクしパイロットを引退していくのだ。ナナミは気に入った人間には距離感0になる。距離感に加えて倫理観も0のナナミに付き纏われて正常でいられるわけがない。
「……ほどほどにしてやれよ?」
「いつもほどほどにしてるよ。本当だったら気に入った人は閉じ込めてナナミ以外と会わせないようにしたいのに」
やらないナナミ偉いよ?
冗談でもなく本気で言っているナナミはやはり頭のネジが飛んでいるのだろう。時おり、こいつを一番弟子として側に置いておくことに迷いが生じることがある。だが、愛する人の忘れ形見でもあり、整備士としての腕は間違いなく一流なのだ。トリニティという特殊な機体を扱える人間はそう多くないため、この腕を失うのはその歪んだ性格を加味しても損失が大きい。
それに、「腕があれば素行は多めに見る」というこのギスタの環境はナナミの特性を受け入れてくれる数少ない環境なのだ。
格納庫に大きめのアラートが鳴り響く。どうやら迎撃に成功したザニが帰還するようだ。それまで各々自由に過ごしていた整備士達がそそくさと安全エリアへと退避していく。
「お、ザニもヨンゴも帰ってくるんだ。楽しみだなぁ〜!」
安全エリアに駆け込んできたナナミは、両手を頬に当ててうっとりと遠くを見つめている。
これも歪んでいることに、ナナミは初陣から帰還したパイロットの様子を見るのが何よりも好きだという。過去の例を思い出せば、失禁していた者もいれば、戦闘機から降りた途端に嘔吐する者もいた。それはまだ良い方で、中には初陣で精神を病み二度とパイロットとして搭乗することができない者もいたし、そもそも帰ってこなかった者もいる。冷静に普段と変わらない様子で帰ってきた者はほとんどいない。
それほど戦地で戦うということは厳しいものなのだ。
「相変わらず趣味が悪いぞ」
「だってぇ人間の本質が見える数少ない瞬間だもん。これほど心躍る時はないね〜」
クドウは鼻歌を歌いながら落ち着きなくカタパルトの方角を気にしているナナミを横目に、モニターに映るイチカを今一度見やる。
今度のパイロットはいつまで保つのだろうか。そんなことを思いながら。
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