思いがけない初陣
ヨンゴの武器装備は4つ。超高圧ビームサーベル、中距離用片手ビームガン×2、チタン短刀×5、盾。
射撃演習場ですべてをテストしたがどれも違和感がなく実践でも使えそうだと手応えを感じた。だが、射的演習の最後の弾を打ち終えると同時、アキトから容赦のないフィードバックが飛ぶ。
『とりわけ悪いわけではないが射撃の精度が低い。データを見る限り操縦の問題ではなくキリシマ少佐自身の問題だろう』
「ごもっとも」
イチカはアベレージ型。とりわけ何かの能力に秀でているわけではないが、特別悪いこともない。ただ、イチカ自身も生身で行う射的のスコアが他と比べてやや低いのは自覚していた。
『中距離攻撃を高めておいて損はない。ギスタ艦内に射的演習場がある。毎日100発の練習を日課に入れておくといい。あと自覚がないかもしれないが左側面からの攻撃の反応がやや鈍い。何か心当たりは?』
「特にないんだけど…意識しておく」
そろそろ帰還するか。
イチカがヨンゴの視界をギスタに向けた瞬間、視線の先にあるターミナル下部から突然爆発が起きた。黒い爆炎が噴き出し、ターミナルがわずかながら傾いている。
「なにごと!?」
『敵襲だろうな』
言うが早いが、アキトがヨンゴの主要通信チャンネルをフルオープンする。すると、当コロニーの統括本部からの通信が入った。
『ターミナル10階層にて爆発!その場所と規模から事故ではなく何者かからの攻撃と推定!軍関係者は至急戦闘配備につけ!』
イチカは改めて装備武器と駆動バッテリーの残量を確認する。
「アキト、そっちは無事?」
『問題ない。ブリッジの様子からするとギスタはこの件が片付き出港しそうだな』
「了解。そしたら私も帰還す……」
イチカは言いかけて言葉を止めた。
ターミナルから180°の方向。目視およそ3km先の上空にギスタ級の戦艦2隻がターミナルと逆の方向へ進路をとっているのを視界に捉えたからだ。
当コロニーのターミナルは周辺コロニーも含めた流通/貿易の要となっている。そこを攻撃されたのだ。守るべき対象として最優先となるはず。にも関わらず、ギスタ級の大型戦艦2隻が真逆の進路をとっていることに違和感を拭えない。
イチカはマップをモニターに開き彼らの目的地はどこなのかを探った。
「……アカデミー?」
2隻の戦艦の進路先にはアカデミーが存在していた。可能性として、本部からアカデミー防衛の命令が出ていることも考えられるが……学校といえど少しばかりは戦力があるアカデミーに戦艦2隻を投じて防衛するだろうか。ましてやターミナルとも若干距離がある場所に。
イチカは違和感を自分の思い違いかと飲み込みそうになったが、瞬時に自分の直感がおそらく正しいと最悪の可能性を想定していた。
「……アキト、本部からどこかの艦にアカデミー防衛の命令は飛んでる?」
『いや。ギスタ含めコロニーの防衛をするよう通達が来ている』
命令に背く動きをする艦。やはり、あの2隻はおかしい。おそらく自軍を裏切った者、敵だ。ターミナルは陽動。一度目の爆発から他に音沙汰はないから、はじめから落としきるつもりはなかったのかもしれない。本命はアカデミーだ。若手を滅してこちらの軍人総数を減らそうとしているのか、あるいは最悪のケースは……
イチカはギスタのブリッジとの通信を開く。
「こちらイチカ・キリシマ。ヘンドリックス艦長。報告と相談が」
『聞くわ』
ギスタのブリッジ、艦長席に座ったヘンドリックス艦長がモニターに映る。
「アカデミーにあるトリニティが敵軍に狙われている可能性があります。先程、アカデミーに舵をとるギスタ級戦艦2隻を発見。状況から見て、こちらの将来戦力を削ぐか、トリニティの奪取が目的の可能性があるかと」
『へぇ……なるほど』
イチカの報告を受けたヘンドリックス艦長は頬杖をつきながら口角をニヤリとあげた。
『イチカ、単身アカデミーへ向かってちょうだい。記念すべき初陣よ。派手にやって。トリニティは奪われるくらいなら撃ち落としなさい。エヴァン、あなたはこのままギスタと待機』
戦艦2隻に1人で立ち向かえと?新人に対してなかなかハードな命令を下してくださる。
トリニティの戦力は戦艦2隻に相当すると言われているので、単純計算では1対1、戦力差はほぼない。しかし、実戦経験のない人間が操縦するなら明らかにこちらの分が悪い。
そんなイチカの思いを代弁するかのように、エヴァンから通信が入った。
『艦長、私もアカデミーへ向かった方が良いのでは?』
『いいえ。おそらくあと数分で敵がターミナルに押しかけてくる。エヴァン、あなたはその相手をしてちょうだい』
艦長は誰にも見えていない戦況をひとり見ているのだろう。
仕方がない、1人でいくか。イチカが諦めにも似たため息をバレないように吐く。
まったく、思いがけない初陣になった。
「ヨンゴ、アカデミーに向かいます」
イチカは覚悟を決めると静かに目を開いた。操縦桿を握り直しエンジンペダルを踏む。
雲一つない青空にヨンゴは飛び立った。
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