Act.49:エピローグ①


 妖精世界の再生は始まったばかりだけど、それでも徐々に進んで行っている。大分、範囲も広がり魔物も減ってきたような気がする。


「本当に感謝しかないわね」

「そうだね。ブラックリリーも何かお礼をすれば?」

「お礼って言ってもね」


 妖精の森の再生。

 それは私とララが目的としていた事。最初は全然先が見えないようなものだったけれど、今ではここまで来たのよね。


 空中から見下ろせば見える、妖精世界に再生し始めた自然。精霊の森を拠点として、徐々のその範囲を広げて行っているのが今の状況よ。

 精霊王のティタさんの話もあって、結界は張らずに広げていると言う感じね。それは新たな魔力が、周りに広がるようにしていると言う事。


 結界を張ってしまうと、魔物からは守れるけれど魔力が外に出られないのでどうしても封鎖空間的な感じになってしまう。再生して結界を張るという作業に次いでその結界を維持すると言う作業も追加されるから、どうしても効率が悪い。

 結界もそれなりの数が必要になるし、維持するのにもそれなりの魔力が必要になる。維持が一番の問題で、結界は手入れをしないと自然消滅してしまうらしいのよね。


 だから数が少ないうちは良いけれど、多くなってくると回り切れない。そういう理由もあって、結界を張らずに進める方針に決まった。

 それに、それだけではなく魔力を外に放出する事で循環効率を上げていく狙いもあるわ。現に、結界なしで再生した場所の近くにあった枯れ木が元気を取り戻している。


 その枯れ木とかがあった場所は再生範囲外。つまり、自力で回復したと言う事になる。


「希望が出来たわね、ララ」

「そうだね。魔力が増えれば、再生する必要がなくなるかもしれない」


 でも、やっぱり一番はティタさんたち精霊の力があってこそよね。そしてそんなティタさんに、協力して仲間? にしたリュネール・エトワールの功績でもあるわね。


 彼女には感謝してもしきれないわ。


「……」

「ん? 顔赤いけど、体調でも悪いのかい?」

「え?」


 ……あれ? 私どうして。自分の顔に手を当ててみると、確かに若干熱いような気がする。


「体調は大丈夫よ」

「そう?」

「ええ」


 体調は問題ないけれど、どうしたんだろう。何故かリュネール・エトワールと言うか、司さん事考えるとこう、変な感じになる。


「はあ」

「ため息つくと幸せが逃げていく、って聞くよ」

「そうね……」


 本当かどうかは知らないけれど。

 ほとんどが私ではなく、司さんや精霊たちのお陰で私は全然何もできないないのが、ちょっと辛いわね。もちろん、私も色々する時はするんだけどね。

 私の目的であるはずなのに、頼りっぱなしね……そんな私にお礼を言う資格なんてあるのかしら。


 もちろん、感謝しているのは変わりようのない事実よ。彼女が居なければここまで行けなかったかもしれないし、行けたとしてもかなりの時間がかかっていたかもしれないわね。


「……」


 そう言えば、今更だけど私の扱いってどうなっているのかしらね。魔法省では……確か探しているというだけは聞いているけれど、進展とかあったのかしら。

 あったらあったで私としては困るけれど……でも、正直もう目的達成への道は開かれているのよね……精霊や精霊王の協力もあって、驚くほど順調に進んでいるのだから。


 このまま逃げ続けても良いのだけど……そろそろ潮時かしら?

 いや……それはまだ早いわね。ララと約束しているのだから……再生するまでは。


「でも、少し人手不足な気はするわね」


 今の範囲ならまだ、そこそこ余裕で手が回るから良いけれど……近くの魔物を倒したからか、再生した場所に襲撃して来る魔物の数は減っている気がするし。

 だけど、あくまでそれはこの周辺だし、妖精世界の魔物がどう出現するのか分からないから、油断も何も出来ないわね。


 このまま範囲を広げていけば、また魔物が襲い始めるだろう。この世界にどれだけの魔物が居るかは分からないけど、魔物が居るって事は何らかの影響でこの世界にやって来ているはずだから。


 地球のように、不定期に突発的に出現する可能性だってある。そうなると、いくら周辺の魔物を倒してもまた出現する可能性は十二分ある訳だし。


 私とリュネール・エトワール、ララとラビ、そして精霊と精霊王だけで何処まで対応できるか、よね。

 幸い、この世界の魔物は地球ほど強くなく、私でも時々一階で倒せる事がある。リュネール・エトワールは当たり前のように、ワンパン基本で倒しているけれど。

 リュネール・エトワール以外にもティタさん精霊王なだけあって強い。一瞬にして広範囲の魔物を蹴散らすんだもの。精霊たちも、魔力のある場所からは出られないものの、その攻撃の威力は中々のもの。


 対応は今の所出来ているのは良い事なのだけどね。

 とは言え、やっぱり魔物についての不安は残る。魔物も基本的には弱いけど、もしかすると何処か別の場所には強い魔物が居るかもしれないしね。

 現状のメンバーだけでやっていけるのか? ってなるけれど……私は事情が事情だし。でも、ホワイトリリーとブルーサファイアについては良い子だった気がするわ。


 私の事を時々、じっと見てきたのは気になったけれど……取り敢えず、話とかも普通にできるくらい。あの感じからすると、一応私が襲撃犯の裏で動いていたという事についての疑いは消えてるかしらね。


「でも……」


 良い事なのだけれど、折角の交流できたリュネール・エトワール以外の同性の子だから仲良くもしたい。勿論リュネール・エトワールとももっと仲良くしたいって思ってる。


「お礼、言わなくちゃね」

「それが良いよ」


 色々と考えたけれど、仲良くしたいならもっと交流すべきね。今回の件については本当に感謝しているし、お礼は言いたいわ。多分まだこの妖精世界の何処かに居るはずだけれど……。


 そう思い、私はリュネール・エトワールもとい、司さんを探すのだった。





□□□□□□□□□□





「白百合先輩、私も告白しましたからね」

「!」


 魔法省にやって来て早々、後輩である蒼ちゃんにそう告げられました。私はちょっとその言葉に衝撃を受けましたが、正直私がそうさせたっていうのは否定できないので、何も言えないのですが。

 宣戦布告みたいな風に、蒼ちゃんに告白した宣言をしたのでこうなる事は予想できていたはずです。


「白百合先輩のあの告白しました宣言、正直宣戦布告としか思えませんでしたよ」

「ふふ……そうですか。その意味もあったと思います」


 宣戦布告のつもりはなかった……はずなんですが、私の言い方が悪いのも事実ですし、受け取る人からすれば宣戦布告に聞こえるでしょうね。少し反省します。


「でも、そのお陰で動けたのでそこは感謝しますね」

「……」


 そう言って蒼ちゃんは挑戦的な笑を私に見せます。


「約束、覚えてますよね」

「覚えてますよ。誰が選ばれても恨みっこなし、ですよね」

「それ以外にも、両方とも振られた時は一緒に泣こうと言ってたのもです」

「それも、ありましたね……」


 結構前に、私たちは一つの約束をしました。

 それは、誰が選ばれても恨みっこなしという事。そして両方とも選ばれなかった時は一緒に悔しがって泣こうというもの。振られるのは怖いですが、選ぶのは司なんですから。私たちは答えを待つしかないのです。


「司さんは、選んでくれるんでしょうか」

「それを私に聞きますか? でも……きっと答えを出してくれるはずですよ」

「そうですね」


 私が告白してから、それなりに時間が経過していますが答えはまだもらってません。

 まあ、私が今じゃなくても良いですと言ったのもありますし、特に期限も設けてなかったので仕方がないのですが、私としてはしっかり考えて欲しいななんて思ってますので、これで良いのです。

 それだけ悩んでくれているという事でしょうか? いえ、蒼ちゃんも告白したらしいのでそれもあって、色々と悩んでいるのでしょうか。


「でも、あの子が居ますし分かりませんね」

「あーそうですね……ブラックリリーですよね。この前、会ったリュネール・エトワールの友達の魔法少女」


 ブラックリリー。

 本名は分かりませんが、リュネール・エトワールと同じで野良の魔法少女です。大晦日の異常事態の時とか一緒に行動していたとも言っていました。

 私たちにとっては新たなライバルですね。話した感じでは、少し大人っぽい感じの普通の子でしたが……。


 彼女が告白しているかは分かりませんが、それでも強敵だと思ってます。同じ野良って言うだけでも、大分向こうにはアドバンテージがある訳ですからね。

 私たちよりは結構頻繁に会えるのではないでしょうか。本人は気づいていないようですが、リュネール・エトワールの事が好きなのは確かです。反応もそうでしたし、私の直感がそう教えてくれます。


 とは言え、はっきりとは言い切れないですけどね。もしかすると、そんな事は思ってないかもしれませんし、もしかすると反対にリュネール・エトワールの方が彼女の事が好きだったりする可能性も考えられます。

 どの道、ライバル……なのは確かですね。


「魔法も汎用性高いですしね」

「あの魔法は反則だと思いますよ……一瞬で移動できる魔法なんて、誰もが欲しいと思います」


 有名な国民的アニメのドアみたいに、一瞬で目的地に移動できる彼女の魔法は汎用性が高いですよね。あれがあったら、確かに便利ですし戦闘でもかなり役立ちますね。

 その魔法とリュネール・エトワールを組み合わせたら最早、無敵なのではないでしょうか? この地域に二人も強い魔法少女が居るというのは、結構凄いのでは?


「あはは、そうですね。私たちの面子が丸つぶれになっちゃいますよね」


 二人共、何故野良なのかは分かりませんけど……事情があるのでしょうね。無理に聞くつもりはありませんが……いつか教えてくれるんでしょうか。

 仮に私か蒼ちゃんと付き合った場合は、教えてくれたりするのでしょうか。


「いくら考えても仕方がありませんね。司さんが答えを出してくれるまでは気長に待つしかありません」

「私たちにやれることは。告白とかだけですからね」


 蒼ちゃんの言う通りです。

 好きになってしまった側の私たちに出来る事は、交流したりとか告白くらいですからね。



 司さん。


 司さんは、誰を選んでくれるのでしょうか?





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