Act.30:妖精世界『フェリーク』①
「じゃあ行ってくるよ」
「私も行ってきますね」
翌日。
再びわたしの家に集合し、裏庭に設置したゲートの前でララとラビがそう言ってこちらを向く。
昨日、発動に成功したゲートという魔法。それは、一度発動させれば、消すまでは残り続けるという設置型の魔法だ。魔法については、わたしも自分のだって把握しきれてないから、良く分かってないが、ララとラビがそう説明したのでそうなのだろう。
魔法にも色んな種類があるのは分かっているが……やっぱり、こうなんというかイマイチ、ピンとこない感じだ。地球にももう魔法は存在しているものの、それは魔法少女限定である。
魔法に関する技術が浸透している訳ではない。魔法少女しか使えない魔法という力を使うよりも、今まで築き上げてきたこの科学という技術を更に発展させた方が地球としては良いのだろうし。
ただ、魔法と呼ばれる力が科学に及ぼす影響がどれ程なのか? 魔法は確かに使えないが、魔石と呼ばれる新たなエネルギーは誰でも使える訳だ。いや、使えるというのは語弊があるか。
魔石は魔力を内包する石だ。魔力と呼ばれるエネルギーを様々な科学の発展に使えた場合……地球は大きく進化するのではないか? 昨日も言ったように、魔法と科学の共存した文明……あながちこれは不可能ではないと言えるのではないか?
とは言え、魔石の獲得方法が魔物を倒す事しか現状ないので、現実的ではないだろうとも思う。
地球は……この魔物と魔石、魔力や魔法の存在でこれから先どうなっていくのか……想像できないが、少なくとも変わっていくのは分かる。魔力は既に空気中に存在する物となっているから、消える事はないだろう。
まあ、植物の伐採とかが進んで供給量が減ってしまった場合はこの限りではないが。
「ララも、ラビも気を付けて」
「ああ、気をつけるさ」
「大丈夫です、危険だと判断したらすぐ戻りますよ」
「ん……」
「ふふ、司、そんな不安そうな顔しないでください」
「そんな顔してた?」
「はい、してましたよ。前と比べて表情も結構でてきましたね? 良い事ではありますけどね」
「そっか……」
それは喜ぶべきだろうか?
ラビ曰く、わたしは基本は無表情らしい。ただ完全に感情のない冷たい無表情という訳ではなく、どちらかと言えば表情が硬いと言うか、表情の変化に気付きにくいらしい。
時々見せる笑顔は破壊力あるとか言ってた気がするけど……どういう事だろうか? 変な顔過ぎて空気を破壊しているような感じだろうか? うーん。
「心配しないでください。私もこれでもそれなりには強いんですから」
「うん……そうだね。分かった。ラビ、行ってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
それだけ言って、ラビはララに続いてゲートの中へ入って行き、姿が見えなくなる。この場に残っているのは、わたしと香菜の二人だけとなった。
「行ってしまいましたね」
「ん」
香菜がわたしに聞こえるくらいの声で、ぽつりと呟いた。わたしもそれに肯定の意味を込めて相槌を打つ。何というか、二人が居なくなっただけでここまで静になるんだなと思う。
「私たちはどうしますか?」
「ん……今やれることはないし、一旦家の中に戻る? ここは寒いし」
ここと言うか、何処も寒いけども。
ただ後少しでこの場所の日陰になりそうなので、今よりも寒くなるのは確かだ。快晴ではあるけど、気温はそこまで高くないしね。ラビとララはどれくらいで戻ってくるかはわからない。
でもまあ、家の中に居るというのは分かるはずなので問題ないかな?
「分かりました」
「ん」
何事もなければ良いけど……でも、妖精世界に魔物が出現しているというのは確かに普通にあり得る話だ。ララもラビも言ってた通り、地球と妖精世界の時間の流れが一緒とは限らない。
仮に一緒であった場合でも、16年という年月が経過してしまっている。そして魔物は地球に突発的に現れるのだから、同じようにくっついている妖精世界に魔物が来ても何ら可笑しくない。
戦う事が出来る存在……地球で言うなら魔法少女という存在も妖精世界には居ないのだ。そんな誰も居ない世界に、魔物が現れたら……あっさりと陥落してしまうだろう。
マイナスな事ばかり考えているが、プラスで考えるのであれば16年の年月で、もしかしたら妖精世界は自然回復しているかもしれない、というのもあり得ない話ではない。
それに、全ての魔力が流出したとも言い切れないしね。もしかすると、少しの魔力は妖精世界にも残っているかもしれない。その残っている魔力が何とかしている可能性はゼロではない。
それにもっと、プラス思考で考えるなら妖精が生き残っている可能性もある。全員が居なくなってしまったとは言え、それをその目で確認した訳ではないしね。
他にもララとラビ以外にも歪とやらに飲み込まれて、何処か別の場所にいるという可能性もゼロとは言い切れない訳だ。
「流石にこれはプラス思考過ぎるか……」
「何か言った?」
「ん。何でもない。中に入ろうか、香菜」
「そう? 分かりました」
そんな訳でもう一度だけゲートの方を見た後、わたしたちは家の中へと戻るのだった。
□□□□□□□□□□
「これは……」
「これは、流石にボクも予想外だな」
ゲートという魔法をくぐり抜けた先に見えたのは、一面の緑。草木が生え、優しい光が空から照らしていました。これは、流石に予想外ですね……私もララも驚きます。
「一体どうなってるんでしょうかこれは……復活した?」
「いや……空を見ると分かると思いますが、向こうの方は真っ黒な雲が見えていますよ」
「ララ、敬語は必要ないですよ」
「それは……」
「普通に接してくれると嬉しいです。私はもう王女ではないです」
記録者という役割は残ってますけど、王女というのはもう今はないものです。なので、普通に接して欲しいですね。
「う……分かり、分かった。普通に接することにするよ」
「それで良いです、ふふ」
とまあ、それは置いておきましょう。
ララが今言ったように、空を見てみると向こうの方が真っ黒な雲が覆い尽くしているように見えます。ではここは一体……。
「先に進もうか」
「そうですね……」
この場に居ても、何も分かりません。
ですが、何でしょう……この場所は何故か不思議と心が安らぐ感じがします。滅んだと思っていた妖精世界に、自然がまだ残っていたからでしょうか。
「! これは一体……」
「何がどうなっているんだ?」
少し進むと、さっきの場所とは打って変わって、荒廃した土地が続き、空は真っ黒な雲に覆われ、地上には影のようなものが彷徨いている景色に切り替わりました。
「……」
驚いて今私たちが来た方向に振り返ると、木や草が生い茂っているのが見えます。何でしょうか……この一定のラインから向こうは自然が残っていて、こちら側になると草木もない土地が広がってます。
まるで、真っ二つに綺麗に割れているかのようです。
「あの彷徨いている影……多分魔物だ」
「やっぱりそう思いますか?」
「ああ。一旦引き返そうか」
「そうですね……何故か魔物はこちらには寄ってきませんし」
何が起きているというのでしょうか。
妖精である私たちには魔力がありますので、魔物は襲ってきても可笑しくはないはずです。でも、こちらに気付いているようには見えますが寄ってくる気配はありませんね。
取り敢えず、森の方に一旦戻りましょう
「やっぱりこっちは新鮮というか、空気も綺麗な感じがする。魔力も結構感じ取れるね」
「ですね。自然があるからでしょうか? ですが……これはどうなってるんですか?」
「分からない……何かがこの森を守っているように見えるが……念の為、反対側にも行ってみよう」
「分かりました。反対側ですね」
何かが森を守っている。
守られているから、自然がまだ残っているのですね……いえ、まだそうとは言い切れないですが、明らかにこの状態は何かが干渉していると言っても可笑しくないでしょう。
あんな綺麗に分断されているのも謎です。
魔物が寄ってこなかった理由は、この森を守っている何かが魔物をこっちに来れないようにしているのではないでしょうか? 私の憶測ですが。
そうなると、反対側はどうなっているのか気になりますね。反対側だけではなく、左と右もそうです。この守っている範囲がどれくらいなのか……今の所では見当がつかないですし。
「少し時間がかかりそうですね……」
地球に残っている司の事を考えます。
あの子は、何というか本当に天然タラシですね。元が男だからというのもあるのでしょうけど……優しすぎます。他の魔法少女についてもそうですし、私に対してもそうです。
本当に……。
「……」
何だかアリスと居た時を思い出しますね。
そう言えば、アリスも超の付くお人好しでしたね……真面目に司は彼女の家族なのではと思うくらい。今は何処で何をしているのか分かりませんけど、元気にしてますかね。
私にも好きな人、出来たみたいですよ。
そんな事考えながら、私は森の反対側へと向かうのでした。
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