Act.31:妖精世界『フェリーク』②
「どうやら、何らかの力が一部の領域を守っているようだったよ」
そう話を切り出すのは、先発として妖精世界に向かったララだった。ラビもその説明に頷いている。
「何らかの力……」
思ったより時間がかかっていて、心配になったけど無事帰ってきてくれたのは良かったと思う。
で、だ。ララとラビの話では、妖精世界には自然が残っていたという。ただしそれは、全ての場所という訳ではなく、ゲートの繋がった先の周辺の一部領域のみとの事。
一定範囲を超えると、想像通りの荒廃した大地が広がっていて、そこには黒い影のようなものがうろついていたらしいのだ。
その影は、魔物だとララは言っていた。
「つまり、妖精世界にも魔物が居たと言う事?」
「ああ。全部見れた訳ではないけど、その無事自然が残っている領域より、外側には本当に草も木もなく、空も真っ黒な雲が覆っていたよ」
「ん……」
何かがその森の一区間だけを守っている、という事は妖精世界にはまだ生き残っている何者かが居ると言う事だろうか。
「それは分からないです。辺りを一通り散策しましたが、何の気配も感じ取れませんでした。ただ、あの領域内は魔力が正常に循環していて、居心地も良い感じでした。外に出ると、何て言うんでしょうか? こう、どんよりとした気分になりましたね」
ますます分からないな。
「まだ確証を得れてませんが、あの領域内であれば司たちが来ても大丈夫だと思います。ただ、念の為魔法少女の状態で行った方が良いでしょうね」
それはそうだね。
生身で行くのは、ただでさえリスクがあるのに更に跳ね上がってしまう。魔法少女の状態なら少なくとも、有害な物とか、魔法少女に危険をもたらすものとかは魔力装甲が弾いてくれるし。
それに話を聞いた限りでは、魔物も居るみたいだし、余計に魔法少女状態以外で行くというのは、考えられない。
「これからどうするの?」
「ひとまず、もう少しあの領域について調査しようかと思ってる。その後は、少々危険だが外の様子も探りたい」
「そっか。ん……今度はわたしも行く」
「え? でも、まだ大丈夫と決まった訳では……」
「承知の上。何か可笑しいと思ったらすぐ戻る」
確かに少し怖いっていうのはあるけど……その領域は大丈夫、そんな気がする。何処からそんな自信が出て来るかは謎だが、魔法少女の直感というものだろうか。
直感に魔法少女は関係ないか。
まずは、わたしが行ってから大丈夫そうなら香菜を連れていく感じが良いかな。
「そこまで言うなら止めはしないが……いいのかい?」
「ん」
「了解。それじゃあ、ボクらの後をついてきて欲しい」
「任せて」
「司さん……行くの?」
「ん。香菜は一旦ここで待ってて。先に行ってくるから」
「でも……」
何処か不安そうな顔をする香菜。
まあ、確かにわたしが行けるのか分からない場所だし、そんな顔をするのも無理はない。でも、だからこそ、わたしが先に行って大丈夫かどうかを確認するのだ。
それに、別にわたし一人で突っ込む訳ではない。ラビとララも居るのだから。それの事を含め、大丈夫と言って香菜の頭に手を乗せて、軽くぽんぽんする。
「大丈夫。――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」
『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』
それだけ言って、わたしはリュネール・エトワールに変身する。もう何時ものように浮遊感とかの、不思議な感覚に襲われつつ、気が付けば変身が完了する。
もうずっとこうやって変身しているから、慣れたと言うか当たり前というか……そんな感じになってる。
『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』
変身が終了したことを伝える音声が聞こえ、無事に変身できたのを確認する。これから向かうのは妖精世界……地球とは違う別世界。
そう、未知の場所だ。何があるか分からない……慎重に、そして警戒を強めて向かおう。
「ん。香菜、行ってくる」
「……はい。気を付けて」
「ん」
まだ少し不安そうにしているけど、それでもまあ、さっきよりは良くなったかな? わたしはそんな香菜に少しだけ笑って見せ、そしてラビたちに続きゲートの中へと入るのだった。
□□□□□□□□□□
「ここが、妖精世界?」
ゲートに入ると、一瞬だけ視界が歪み、気付くと見知らぬ場所に立っていた。ブラックリリーのテレポートで移動した時みたいな感じだな。
それもそうか……一応、この魔法も行先は別世界だけど移動する魔法だしね。それに、別に他の場所に繋げる事も出来るだろうし。
「司、身体の調子とかは大丈夫?」
「ん。特に今は何ともない」
特に息苦しいとか、変な感じがするとかそういうのはなさそう。酸素がなく息が出来ないと言う感じもしないし、大丈夫そうかな? 今の所は、だけど。
「それなら良かったです」
「少なくともこの領域内は大丈夫そうだね」
ラビとララが言ってたように、今居る場所は自然が豊かだった。暖かい日も差し込んでおり、本当に滅んだのかと言うくらいに。
確かに感じる、魔力。そして何処か心が安らぐようなこの感じ。何処だろう? 何処かで似たような事を感じたような気がする。
……そっか、あそこに似ているんだ。
ここは妖精世界なんだろうけど、妖精書庫ではない。本がそもそもないのだし。
「ん。この感じ……
「やっぱり司も感じますか」
「うん」
「
妖精書庫に似ている理由は分からないが、この場所は確かに良い感じの場所だと言うのは分かる。これなら香菜を連れて来ても大丈夫かな。
「香菜を連れて来る?」
「そうだね……一人だけ残っていると言うのもあれだろうし、大丈夫そうなら」
少なくともこの場所は大丈夫そうなのが分かったし、香菜が来ても問題はないはず。それに、残してきたのはわたしたちとは言え、一人ぼっちというのは流石に寂しいだろうし。
それにしても不思議だ。
言われた通り、空を見上げるとこの部分は確かに明るく、暖かい日が差し込んできているのは確認できる。だが……向こう側はどうだ。
「凄い、真っ黒な雲……」
「どうかしましたか? あ、あの雲ですね。あっちがさっき言った、黒い影のようなものが居る場所ですね。反対側もまた同じです。周りは荒廃した土地なのに、ここだけはこうなっているのですよ」
この不思議な領域の周囲は、真っ黒な雲に覆われた荒廃した大地。ラビとララはそう言っていた。この場所だけの取り残されたように、ぽつりと生き残っている。
とは言っても、わたしはまだその荒廃した大地を見てないんだけどね。でも、二人が揃って言うのだから間違いはないのだろう。
「この領域の周辺は、同じ感じさ。黒い雲に覆われている……そして動く影。魔物だと思うけど」
「この様子では、この場所を除いて魔物に乗っ取られていると考えた方が良いでしょうね」
「……」
「司、そんな顔しないでください。16年も居なかったんですし、何かが起きてるとは思ってましたよ」
「そうだね。この妖精世界ではどれくらいの時間が経過しているかは分からないけど……普通ではないのは確かだ」
妖精世界に蔓延る魔物。
あまり当たって欲しくない予想が的中してしまったみたいだ。
「とにかく、調査しないと。司はブラックリリーを頼む」
「ん」
まずは、ブラックリリーをこっちに連れてこないとね。そんな訳でわたしは、一度ゲートを潜り地球に戻るのだった。
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